トゥルーズ・キャピトル国立管弦楽団演奏会
99/03/01石川厚生年金会館

1)ビゼー/アルルの女第2組曲,op.23
2)サン=サーンス/ヴァイオリン協奏曲第3番ロ短調,op.61
3)ドビュッシー/海
4)ラヴェル/ボレロ
(アンコール)
5)ビゼー/歌劇「カルメン」〜第4幕への間奏曲
6)ビゼー/歌劇「カルメン」〜第3幕への間奏曲
5)ビゼー/歌劇「カルメン」〜第1幕への前奏曲
●演奏
ミシェル・プラッソン/トゥールーズ・キャピトル国立O/樫本大進(Vn*2)

今回報告するのは,東芝グランドコンサート'99という冠のついた演奏会です。会場に入ると,”いかにも主催者側”といった黒っぽい背広を着た男の人たちが”いかにもお出迎え”という感じで並んでおり(演奏会にこんなお出迎えは不必要です),非常に圧迫感があったのですが,演奏会自体は非常に満足できるものでした。このオーケストラの十八番ともいえる曲を並べただけあって,当然のことといえるのかもしれませんが,初めてフランスのオーケストラ曲の楽しみを知ったような気さえしました。

まず演奏前のことなのですが,オーケストラの人が皆さんかなり熱心に練習しているのが目につきました。フランスのオーケストラといえば練習嫌いというイメージがあるので意外でした。特にフルートはアルルの女のメヌエットをかなり気合を入れてほとんど1曲全部吹いており,これ以上吹くとネタがばれてしまう,というくらいでした(本番はもっと素晴らしかったです)。この曲はあわせるのが難しいからなのかホールの響きに問題があるからのかよくわかりませんでしたが,演奏会前から気合を感じてしまいました。

プログラムは上述のとおりフランス音楽の名曲勢揃いです。実はフランスのオーケストラを聴くのは初めてなのですが,すっかり感服しました。プラッソンさんは思った以上にすごい指揮者だと感じました。オーケストラの実力というのを判断することは私にはなかなかできないのですが,音色に独特の魅力のある素晴らしいオーケストラだと感じました。クリアな音色でかつ雰囲気のあるオーケストラに育てたプラッソンさんの功績は大きい,と思いました。

前半は,コントラバスが4本だけでやや小さ目の編成でした。そのせいもあるのですが,オーケストラの音色自体も重苦しくない音色だと思いました。特に弦の音に軽さがあります。非常に気持ちの良い音です。

最初のアルルの女第2組曲は,かなり濃厚な音楽になっていました。じっくりしたテンポで,曲想に応じて色彩感が微妙に変化していました。その割にもたれないのはオーケストラの特質だと思います。熱心に練習していたフルートソロの入るメヌエットも非常に聞かせる演奏でした。脂がのっているのにスリムという音で聞きごたえがありました。曲の結びのテンポの落とし具合など見事でした。この曲がこれほど立派な曲に感じたのは初めてでした。最後のファランドールは、「まだ1曲目」の最後ということで,十分余裕を感じさせるアッチェランドでした。全般に「濃厚なのに爽やか」という魅力に溢れる演奏でした。

2曲目は樫本大進さんをソロに迎えてのサン=サーンスでした。樫本さんは小柄でがっちりとした感じの方だったのでラテン系の雰囲気がありました(顔つきも)。まだ二十歳ぐらいだと思いますが非常に落ち着いていました。冒頭の低音から良い音だな、と思いました。楽器と体が一体になっており「楽器が鳴っている!」と実感できるような音でした。NHKの「炎のレッスン?」という番組を見た印象が残っているせいか、音に魂がこもっているような気がしました。技巧も良いし音程も正確だったと思いました。3楽章の最初の方の高音部での音の切り方などすごい切れ味でした。2楽章の最後の方の管楽器との消え入るようなアルペジオのデュオも聞かせてくれました。

ただ,ラテン系の曲にしてはやや音色が暗いような印象を受けました。音自体も爽やかというよりは粘り気が強いような気がしました。音の通りの悪いホールなので強い音を出そうとしたせいなのかもしれません。そのせいかサン=サーンにしてはシリアスすぎる気もしました。逆にオーケストラの方は透明感のある音を出しおり,方向性が少々違う気もしました。

後半は編成が大きくなりました。両方とも非常にこなれた演奏でした。

海の方はやや早目のテンポで鮮やかに聴かせてくれました。曲が良いのか演奏が良いのかわからないくらい,曲想にマッチしていました。この曲は表題音楽なのですが,映画音楽か何か(良い意味です)を聴いているような印象を持ちました。すべての音が何かを描写しているような精彩のある演奏でした。指揮者もオーケストラもこの曲が完全に手の内に入っているのでしょう。ホルンをはじめとして情熱的なトゥッティでもうるさくならないのが非常に良いと思いました。

最後はボレロでした。この曲はよく出来ている曲なのでプロの演奏なら大体満足できると思うですが,この音色で聴けただけで幸せでした。中間あたりで出てくるいろんな調の管楽器が溶け合って一つの楽器の音のように聞こえる部分などバランスが非常に良いと思いました。トロンボーンの難所も見事な音でクリアしていました。

テンポはやや遅めで,余裕のある進行でした。リズム感を強調するよりは、やはり各楽器の音色を聞かせようとする演奏だったと思いました。中盤以降は弦楽器が活躍しだすのですが,ここでは非常に色気?のある音を出していました。時々すっと音を弱めたりして,思わぬ表情づけをしていました。

ラストは迫力は十分だけれどもうるさすぎることはなく、カラっとした音色で華やかに締めてくれました。大満足でした。

もちろんお客さんも大満足で3曲もアンコールがされました。いずれもカルメンからの曲です。結果的にビゼーで始まりビゼーで終わる形になりました。オーケストラをドライブしている感じが非常によく伝わってくる演奏で楽しめました。

というわけで,長年にわたってコンビを組んでいるとこういう素晴らしい響きになるのか,ということのが実感できるような演奏会でした。プラッソンさんは指揮中「ヒューヒュー」と息の音が聞こえてくるほど気合が入っており(少々耳障りでした),カリスマ性のある指揮ぶりだと思いました。フランス音楽に関しては,これ以上の演奏はなかなか望めないのではないかと(はじめてフランスのオーケストラを聴いただけなのですが)思ってしまいました。