オーケストラ・アンサンブル金沢第80回定期公演
99/03/30石川厚生年金会館

1)藤家渓子/ギター協奏曲第2番「恋すてふ」(世界初演)
2)ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1番ハ短調,op.35
3)シュトラウス,R./組曲「町人貴族」op.60
●演奏
岩城宏之/OEns金沢 山下和仁(G*1),木村かをり(Pf*2),ジェフリー・ペイン(Tp*2)

今回報告するオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏会は,かなり渋いプログラミングでした。初演曲+20世紀の作品2曲で,有名曲がなかったせいかお客さんの入りは良くなかったです(年度末で忙しい人が多いせいもあると思いますが)。ただ,20世紀の作品といっても新古典主義的なわかりやすい作品ばかりだったので,十分に楽しめる内容でした。

1曲目はOEKのコンポーザー・イン・レジデンスの藤家渓子さんがダンナさんの山下和仁さんとOEKのために書いた新曲でした。音量の小さいギターのための協奏曲ということでギターの前にはマイクとスピーカーが用意されていましたが,伴奏のオーケストラの方はかなり派手な響きでした。金管の強奏,見慣れぬ打楽器群(南米の民族楽器みたいなものを含んでいたので”鳴り物”という感じでした)などは前回の藤家さんの作品を思い出させるような響きでした。ただ,ギターが入ってくると急に詩的になりました。ギターのシンプルなメロディラインが聞こえると,難解な現代音楽という雰囲気がなくなり,ホッさせてくれました。その他にもポピュラー音楽っぽい響きが聞こえてくる瞬間や,聞かせどころのカデンツァなどもあり結構なじみやすい曲だったと思います。確かに難解な感じもありましたが,もう一度聴いてみたいと思わせるような曲でした。タイトルの「恋すてふ」というのは百人一首の中に含まれている壬生忠見の和歌から取ったもので,ギターの詩的な響きが入ったことで「まぁそういう雰囲気もあるかな」という気はしました。ちなみに「恋すてふ」という歌は天徳4年3月30日(演奏会の日付と同じ!)の歌合で「しのぶれど色にいでにけり...」の歌に負けたそうです。なかなか面白いエピソードです。恐らく作曲の時には,ギターの山下さんのアドバイスがあったのだと思いますが,山下さんの演奏は技巧だけが目立つこともなく,手の内に入ったよくこなれた演奏だったと思いました。

2曲目は(こちらもまた夫婦競演になるのですが)木村かをりさんのピアノ,ジェフリー・ペインさんのトランペットによるショスタコーヴィチのピアノ協奏曲でした。この曲は,かなり変則的な編成で,ピアノ,トランペット+弦楽合奏のための協奏曲です。トランペット1本というのは野球の応援っぽくてこの曲のチープな雰囲気にピッタリです。ペインさんはメルボルン交響楽団の主席奏者ということで,岩城さんの昔からの馴染みなのでしょう。鼻の下の髭が印象的な方で,顔つきからして素朴で気さくな感じが伝わってくるような方です。このトランペット(大変気持ちの良い響きでした)がオドケ役になっていたのですが,ピアノの方は結構シニカルな雰囲気でした。表情付けがほとんどなく,冷たくはないけれども軽めの音で全曲を弾いていました。4楽章などはかなり高音の硬い音が目立ちオモチャのピアノっぽく響いていました。トランペットの脳天気な響きとピアノのシニカルな響きが対照的でブラック・ユーモアのような雰囲気がありました。これは,曲想にふさわしいと思いました。その他,低弦がかなり強い響きを出しており,対位法的な面白さもありました。

後半は,これも新古典主義的な作風の「町人貴族」です。普通のオーケストラの演奏会にはなかなか乗りにくい曲ですが,恐らく,R.シュトラウスの曲で室内オーケストラで演奏できそうなのはこの曲と「変容」ぐらいでしょう。この曲も編成がかなり変則的です。中でもヴァイオリンが全部で6本というのがかなり変わっています。その他,プログラムにはクレジットされていませんでしたが2曲目でソロをとった木村さんとペインさんがそれぞれ楽員に混じって演奏していました。そのことに代表されるようにソリスティックな部分が多く,室内版オーケストラのための協奏曲といった華やかな趣きがありました。特にコンサート・マスターのソロはかなり技巧的に難しいようでした。マイケル・ダウスさんは見事に演奏しており,演奏後しきりに拍手を浴びていました。その他にもチェロ,オーボエ,トランペット,フルート,ピッコロ(...全楽器になってしまいそうです)などそれぞれ目立つ部分がありました。演奏後に各奏者が指揮者から誉められている様子はなかなか壮観でした。OEKにはぴったりの曲だと思いました。かなり作曲技法がまさったような曲だったので大人の音楽という印象も持ちました。

全般に踊りの音楽ということを意識したのか,メヌエット風の曲はすべてテンポがゆったりしていました。ヴァイオリンの数が少ない独特の響きもあってサロン風の雰囲気がよく出ていました。ただ,この曲に関してはもう少し鮮やかにスマートに演奏してもらった方が格好良い気がしました。「町人貴族」というよりは「田舎侍」(失礼)という感じだったかもしれません。

というわけで,馴染みのない曲ばかりのプログラムでしたが,さらに演奏に磨きをかければ,いずれもOEKの十八番になるような曲ばかりだ,と思いました。
オーケストラ・アンサンブル金沢第80回定期公演