オーケストラ・アンサンブル金沢第81回定期公演A
99/04/27石川厚生年金会館

1)メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」
2)メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調,op.64
(アンコール)
3)バッハ,J.S./無伴奏ヴァイオリン・パルティータ〜サラバンド
4)メンデルスソーン/交響曲第4番イ長調「イタリア」op.90
(アンコール)
5)メンデルスゾーン/真夏の夜の夢〜スケルツォ
●演奏
井上道義/OEns金沢
漆原朝子(Vn*2,3)

今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演は,お馴染みの(2年に1度ぐらいは聴いています)井上道義指揮によるオール・メンデルスゾーン・プログラムだった。井上さんは,おしゃべりの面白さ,派手なパフォーマンスなどもあって,金沢でも人気が高いが,イタリアがメインの演奏会はOEKでも数回聴いたことがあるので,井上さんの指揮でなければあまり聴きたくないというのが正直なところだった。しかし,聴き終わって見ると十分に満足できた。やはり井上さんの魅力である。

第1曲目のフィンガルの洞窟は,冒頭の弱音からして抑制されたエネルギーの強さを感じさせた。指揮にコントロールされている雰囲気が指揮者のカリスマ性を感じさせる。レガートの粘り気のある響きも独特の魅力があった。その後のエネルギーの爆発との対比も見事で10分ほどの曲ながら大曲のようなスケール感を感じさせた。欲をいうと木管にもう少しつやがあり,ティンパニにもっと力感があると良かったがこれはホールの響きのせいかもしれない。

漆原朝子の独奏による2曲目のヴァイオリン協奏曲は,演奏後非常に大きな拍手が起こり,アンコールまで演奏されたが,私にはどうもピンとこなかった。表現意欲のようなものがあまり感じられず,のっぺりとタダ弾かれてしまったように感じた。もちろんタダ弾くだけでも難しいのだが,これくらいの名曲となるともう少しメッセージのようなものを伝えてほしかった。もちろん雑に演奏されているわけでもないが,ロマン派の曲らしさが感じられなかった。もしかしたら,漆原さんはこの曲をそれほど弾きたくなかったのかもしれない。拍手の大きさを考えると,私との相性の問題だけなのかもしれないが...

メインのイタリア交響曲は,フィンガルと同様の表現の幅の広い演奏だった。メインにしては軽い曲ではあるが,これくらいぐいぐいと引き付ける演奏ならメインにふさわしいと納得した。冒頭から力がみなぎっていた。グイっと棒を下ろすとドライブのかかったような強い響きが出てきた。やはり第1ヴァイオリンは,コンサート・マスターが変わってから力を増したようだ。展開部も切れ味がよくダイナミック。井上さんの指揮は派手そうに見えて,軸がぶれていない(野球の解説みたい?)から,浮ついた感じにはならず,交響曲らしさを損なわないのが良い。2,3楽章は反対にしっとりとした表現。こういう時も井上さんのような長い手で振られると雰囲気が出る。本物のレガート,という感じである。速い3拍子系のリズムの3楽章でもはっきり拍を振らず流れるような感じをうまく出していた。見事である。聴き所のホルンの和音も綺麗だった。4楽章は木管が苦しそうなくらいの速いテンポ。再びキレと力に溢れた表現が聴けた。中間部ではCDなどでは聞き逃しそうな声部の音も聞こえ新鮮な響きを楽しめた。フィンガル同様,大曲を聴いたような充実感の残る演奏で盛大な拍手が起こった。アンコールは,やはり木管の速い動きが特徴的なスケルツォ。キレの良い音の動きもさることながら,井上さんのパフォーマンスも楽しめた。それにしても,バレリーナになっても大成したと思われるような体の使い方である。この指揮を見られるだけで満足,というお客さんも多いだろう。