オーケストラ・アンサンブル金沢第82回定期公演B
99/05/27石川厚生年金会館

1)ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲,op.43
2)ブラームス(ベリオ編曲)/クラリネット・ソナタ第1番ヘ短調,op.120-1
3)シューベルト/交響曲第8(9)番ハ長調「ザ・グレート」,D.944
●演奏
ジャン=ピエール・ヴァレーズ/Oens金沢/カール・ライスター(Cl*2)

今回報告する演奏会は,ジャン=ピエール・ヴァレーズ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の第82回定期演奏会です。今回のポイントは何といってもクラリネットのカール・ライスターさんという大物ソリストとOEKとの共演にあります。個人的には「ザ・グレート」という大曲を久しぶり聴けるのも楽しみです。

1曲目のベートーヴェンの序曲は起伏のない面白みのない演奏でした。流した感じの演奏で,プログラムの前菜という感じでした。

2曲目のブラームスのクラリネット・ソナタ第1番はルチアーノ・ベリオ編曲による管弦楽伴奏版でした。コントラファゴットやトロンボーンを含む編成で室内オーケストラにしては重めの響きが出ていました。ただ,第1楽章の前に変な?前奏が勝手についていたり,何となくムード音楽風な響きに聞こえたりしてそれほど良い編曲には思えませんでした。OEKによるオーケストラ伴奏編曲で思い出すのはヘルマン・プライさんと共演した「冬の旅」ですが,そちらの伴奏の方がずっと面白いと思いました。

オーケストラ伴奏ということでテンポは非常に遅目で,1楽章と2楽章の区別がつきにくいくらいでした。耽美的な雰囲気には魅力がありましたが,やはりピアノ伴奏の方が洗練されていると思いました。色彩的で重いオーケストラの響きは,どうしても鈍重な感じになります。

ライスターさんのクラリネットは完璧でした。完全にコントロールされた音。抑制のきいた歌わせ方。傷のない滑らかな響きをじっと聴いていると演奏にどんどん引き込まれてしまいました。完璧といっても技巧面での完璧さだけではなく,より高い次元で「曲が自分のものになっている」という感じの完璧さを感じました。機械的な冷たさは皆無でした。

あと,演奏中かなり体を前後動かしていたのが印象に残りました(そういえば,テレビなどで見ていてもベルリン・フィルの演奏者は皆よく体を動かしていますね。)。演奏前は,かなり怖そうな顔つきをしていましたが,演奏後はさすがに嬉しそうにしていました。

後半は,シューベルトのザ・グレートでした。以前OEKで演奏された時は,オーボエ奏者が1人急病でステージに立てずオーボエ1人で演奏された,というハプニングがあったのですが(その時は指揮者の山下一史さんがお詫びをしていました),それ以来のことになります。つまり,私にとってこの曲を「完全な形」で聴くのは初めてのことになります。

冒頭のホルンはこもったような独特の音で,意表を突かれました。序奏は非常にゆっくりとしたテンポで進みました。ヴァレーズさんの指揮は部分的には強い表現をみせてくれましたが,全般にマイルドで密度が薄い印象を受けました。1楽章の結尾など,全曲が終わるような力の入れ方でしたが,とってつけたような感じでした。これは曲自体の短所なのかもしれませんが,全般に薄味で,物足りなさが残りました。2楽章はオーボエが大活躍していました。オーボエ・ソロの水谷さんの独特の優しい情感のこもった響きには味がありましたが,ここでも全般にヴァレーズさんの指揮は表現が薄い感じでした。金管が華やかに入ってくる4楽章になってやっと地に足がついできた印象を受けました。からっとした明るく生き生きとした響きが非常に魅力的でした。全曲をこういうカラっとしたトーンでまとめてほしかったと思いました。

この曲には,明るい曲想の中の懐かしい気分,古典的な形式の中でのロマン的気分,退屈と紙一重の天国的陶酔,を期待していたのですが,残念ながらいずれの点でも満足できませんでした。ヴァレーズさんには珍しくアンコールの曲もありませんでした。