オーケストラ・アンサンブル金沢第83回定期公演B
99/06/25金沢市観光会館

1)メンデルスゾーン/序曲「美しいメルジーネの物語」op.32
2)メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ニ短調
3)チャイコフスキー/憂うつなセレナード変ロ長調,op.26
4)チャイコフスキー/ワルツ・スケルツォハ長調,op.34
5)ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調,op.93
(アンコール)
6)チャイコフスキー/エレジー
●演奏
尾高忠明/Oens金沢/竹澤恭子(Vn*2-4)

今回報告するのは,かなり長期間に渡って閉館して改装をしていた金沢市観光会館の改装後はじめてのオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会です。身障者用トイレやエレベータができたり,ロビーがこぎれいになったりしてかなり印象は変わりましたが,ホール自体には変化はなかったようです。

この日の指揮の尾高さんと独奏の竹澤さんの組み合わせでは丁度3年前,バーバーのヴァイオリン協奏曲の名演を聴いたのですが,今回も期待どおりの演奏会となりました。

1曲目のメンデルスゾーンの序曲は初めて聴く曲でした。原題にはメルヘンという言葉が入っているのですがそういう雰囲気がよく出ている曲であり演奏でした。穏やかな印象のある尾高さんにはピッタリでした。

2曲目から4曲目までは竹澤恭子さんのヴァイオリン独奏が入りました。定期演奏会のプログラムでソロが3曲も入るプログラミングは珍しいかもしれません。その分,竹澤さんは拍手をたくさんもらっていました。

2曲目のメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は最初ビラを見たとき「4月に聴いたばかりなのにまたか?漆原さんと竹澤さんと聞き比べ企画か?」とホ短調の有名な方かと思ったのですが,良く見るとそうではありませんでした。多くの人は演奏が始まるまで有名な曲だと思っていたのではないかと思います。「この曲は珍しい曲です」とビラに一言入れて欲しかったと思います。

この曲の編成は弦楽合奏が伴奏でバロック風,音の雰囲気は短調のモーツァルト風といいうような曲でした(プレトークの林光さんの説明ではモーツアルトの交響曲第25番と主題が似ているとのことでした)。13歳の時の作品とは思えないほど完成度の高い作品です。やはり若書きのロッシーニの弦楽のためのソナタを思い出させるところもあり,結構私は気に入りました。ホ短調の方は食傷気味のところがあるので,メンコンといえば当分はこちらの方を聴こうかと思います(そういえばクレーメルもレコーディングしているのはこちらの方だけですね)。

竹澤さんの演奏は巨匠の演奏だったと思います。安定した技巧。豊かな音量。表情づけの自在さ。堂々とした自信。すべての点を兼ね揃えていました。特に中低音の音に力があるのがいちばんの魅力です。好みとは別に誰もを納得させるような力を持った素晴らしいヴァイオリニストだと思いました。今年,何人かヴァイオリニストを聴いてきましたが,いちばんプロらしいと思いました。まだ若いけれども,巨匠と呼んでも全然おかしくないと個人的には思います。尾高さんとのコンビネーションもぴったりでオーケストラと対話をしているような雰囲気もありました。

次のチャイコフスキーの2曲も聞いたことがあるようなないような曲でした。憂うつなセレナードは,完全に竹澤さんの世界を作っていました。曲が終わってもかなり長い間拍手が出ないほどでした。ワルツ・スケルツォは長さからしてアンコールピースのような楽しめる曲でした。前回もそうでしたが,竹澤さんが演奏する時は拍手が非常に盛大です。前半が終わっただけの拍手とは思えないほどでした。金沢の聴衆も「良い時は真剣に拍手をする」という風になってきたようです。

後半はベートーヴェンの交響曲第8番だけでした。軽いかなとも思いましたが終わってみると十分満足でした。この曲は前菜にもメインにもなる不思議な曲です。もちろんメインとしての味付けをした尾高さんの指揮の確かさも充実感の理由です。

尾高さんの指揮には品があると思いました。英国で活躍している印象があるせいか,プレヴィンに似てきたような気もします(プレヴィンの実演を聴いたことはないのですが)。テンポは穏やか。音色はマイルド。神経質な強弱のつけ方や暴力的な響きは皆無。一言でいうと中庸と言えるのですが,よく練られた響き,細かい味付けがされていて不満はありませんでした。要所できかせるフォルテの響きも全体が中庸だから生きてきます。たえず微笑をたたえたような幸福感のある響きはこの曲にはぴったりでした。そういう演奏に浸れたことは大変幸せなことでした。私がいうのもおこがましいのですが,尾高さんは良い指揮者になったと思います。

オケはホルンをはじめ破綻無く演奏していましたが,それほどソロ楽器が目立つ感じではありませんでした。やはり,尾高さんの控え目な曲の作り方のせいかもしれません。

アンコールはチャイコフスキーのエレジーという一種の秘曲でした。尾高さんも「誰も聞いたことないと思います」とおっしゃっていましたが,アンコールにしては心に訴えかけてくる力の強すぎるような曲でした。ロシアというよりは北欧の雰囲気のある曲で素晴らしい曲でした。