諏訪内晶子ヴァイオリン・リサイタル
99/07/12 金沢市観光会館

1)モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタニ長調,K.7
2)シューマン/ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ短調,op.121
3)ヤナーチェク/ヴァイオリン・ソナタ
4)クライスラー/愛の喜び
5)クライスラー/愛の悲しみ
6)クライスラー/美しきロスマリン
7)ブラームス(ヨアヒム編曲)/ハンガリー舞曲第2番,第8番,第5番
(アンコール)
8)ドビュッシー/亜麻色の髪の乙女
●演奏
諏訪内晶子(Vn),アドリアン・エティカー(Pf)

今回報告するのは,金沢市観光会館のリニューアル記念に金沢浪漫紀行実行委員会という音楽ボランティア団体が諏訪内晶子さんを招いて開催した演奏会です。手作り的な雰囲気のある演奏会で受付,会場案内などすべてボランティアが行っていました。不必要に豪華で高価なパンフレットもなく,料金も最高で3500円という設定でなかなか好感の持てる演奏会でした(ただ,演奏会の最初と最後に出てきた企画の方の挨拶は不必要でした。こういうのは演奏会の雰囲気を壊すのでやめてほしいものです。)。

諏訪内さんの演奏を聴くのはこれが3度目ですが,これまではいずれもオーケストラとの共演だったのでリサイタルを聴くのは今回が初めてということになります。リサイタルだと協奏曲を演奏する時よりも諏訪内さんの個性が強く表れていてなかなか興味深かったです。諏訪内さんの演奏を一言で言うと「甘いのが嫌い」ということになります。それが非常に徹底していました。

最初のモーツァルトのソナタはフォルテなしで演奏しているような感じでした。軽い音でさらりと弾いていました。しかし,すべての音に神経が行き届いていて,手を抜いた印象は皆無でした。スッと演奏会に誘うような1曲目にふさわしい演奏でした。2楽章はシンプルな緩叙楽章なのですが,ノンビブラートのような感じで弾いていてとてもすがすがしい感じでした。諏訪内さんはこういう楽章を演奏するのが巧いと思います。ただ,ヴァイオリンの音がピアノの音が消されるようなところもあり少々バランスが悪いと思いました。

2曲目のシューマンはかなり地味な曲でした。冒頭はフォルテで力強く(しかし諏訪内さんの演奏だと荒っぽくならない)始るのですが,ヴァイオリン独特の高音の聴かせどころはほとんどありませんでした。諏訪内さんのヴァイオリンの鳴り方も少々悪いような気もしたのですが,これは曲のせいだったのかもしれません。とはいえ,相変わらず完成度の高い,形の整った演奏でシューマン独特の暗い情熱もよく出ていたと思います。諏訪内さんの音には甘さがないのでこういう曲にはふさわしいと思います。ここでも3楽章の弱音が素晴らしかったと思います。ピチカートで演奏される主題は独特の味がありました。

後半はヤナーチェクではじまりました。シューマンとは逆にこの曲では音がとてもよく鳴っていました。この日演奏された曲の中ではいちばん良かったと思いました。この曲の冒頭は日本風のメロディが出てくるのですが,それを全然オリエンタルな雰囲気を出さずにさらりと演奏していました。もう少しエキゾチックな感じを出してくれても良いかなという気もしたのですが,ここまで徹底して甘さを廃するというのも立派なものだと思いました。他の楽章でも表現意欲が溢れていてそんなに長くない曲なのに聴き応え十分でした。特に最後の楽章はショスタコーヴィチのような不吉な雰囲気もあってゾクゾクとしました。

続くクライスラー3曲はない方が良かったと思いました。もしかしたら,主催者側のリクエストだったのかもしれません。3曲とも情緒的なところが全然なく猛烈なスピードで一気に演奏されました。乱暴な演奏にさえ聞えました。今の諏訪内さんには合わない曲だと思います。

ブラームス3曲も同様に猛スピードで(時にテンポを落としながら)演奏されたのですが,こちらの方はピタリとはまっていました。特に第2番の冒頭の強い表現は素晴らしかったです。もしかしたらクライスラーの曲もハンガリー舞曲の路線で捉えていたのかもしれません。かなりヒステリックなハンガリー舞曲で少々疲れましたが,楽しめる演奏でした。

というわけで,オーケストラとの共演で聴く場合よりも諏訪内さんの(意外に強い)個性を味うことができましたが,諏訪内さんの音量はそれほど大きくない感じなのでもう少し小さいホールで音そのもののダイレクトな迫力を味わってみたい気もしました。

*このホールでは以前パールマンを聴いた時も迫力があまり感じられませんでした。音が上の方に抜けて行く感じなので2階の方がよく聞えるのかもしれません。