オーケストラ・アンサンブル金沢,N響合同演奏会:特別定期公演
99/07/13金沢市観光会館

1)ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
2)ハイドン/チェロ協奏曲第2番ニ長調,op.101
3)バッハ,J.S./ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調,BWV.1042
4)プロコフィエフ/古典交響曲ニ長調,op.25
5)グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
6)外山雄三/管弦楽のためのラプソディ
●演奏
岩城宏之/NHKSO(1,2,5,6),Oens金沢(3,4,5,6)
ルトヴィート・カンタ(Vc*2),山口裕之(Vn*3)

昨日に続いて連夜の演奏会になりました。この日は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が定期的に招いているゲスト・オーケストラによる演奏会でした。演奏会自体がゲスト・オーケストラに乗っ取られる場合と合同演奏会になる場合の2つのケースがあるのですが,今回はNHK交響楽団との合同演奏会になりました。指揮はすべて岩城裕之さんでした。日本一のオーケストラとの共演ということで,オーケストラの響きのバラエティと楽しさを堪能できる素晴らしい演奏会となりました。この日の岩城さんは指揮をしていて幸せだっただろうな,とつくづく思いました。

前半は,N響がメインのオーケストラでした。TVで観たことのある人がいっぱい出ている,というレベルでまず嬉しくなりました。やはり,メディアの影響は大きいですね。

最初の曲は火の鳥でした。N響はやはり力のあるオーケストラだと思いました。特にこういう曲だと管楽器がどんどん前に出てくるようで個人のヴィルトージティの高さを感じました。アンサンブルの乱れも全然ありませんでした。オーケストラの響きには岩城さんらしいソリッドな感じがありましたが,テンポは中庸で手馴れた演奏という印象を受けました。静かな部分などいとおしむような感じでした。弱音でもデリケート過ぎることはなく素朴な印象を受けました。フィナーレはとても華やかでしたが,まだ1曲目ということで十分余力を残した演奏でした。

2曲目はOEKの主席チェロ奏者のカンタさんのソロによるハイドンのチェロ協奏曲でした。バックのN響もOEKぐらいの編成に人数を落としでいました。カンタさんの音色はいつもどおり暖かく,クリーミーでこの曲にはふさわしい演奏でした。カデンツァはNAXOSのCDでの変なものではありませんでしたが,かなりヴィルトーゾ風の大胆な感じのものでした(これが普通かどうか知らないのですが)。この曲にはチェロとは思えないような高音がたくさん出てくるのですがその苦しげ音がかえってソウルフルな感じに聞えました。伴奏の方はmf以上の音はないような感じで少々ぬるま湯的な響きでしたが,暖かく穏やかに包んでいて曲想に合っていました。

後半の前半は(変な表現ですが)OEKがメインのオーケストラでした。まず,N響のコンサート・マスターの山口裕之さんの独奏によるバッハでした。当初は堀正文さんの予定でしたが,堀さんの急病で山口さんに変更になり,曲目もバッハになりました。山口さんは一見,地味な雰囲気があるので演奏も地味かな,と予想していたのですが,とても積極的で素晴らしい演奏を聴け感激しました。音に独特の艶があり,伴奏から浮き上がってくる感じでした(山口さんの楽器自体もやけにピカピカでした)。テンポもヴァイオリンがグイグイ引っ張って行く感じで,この曲に関しては指揮者がいらないくらいに思えました。この辺はコンサート・マスターらしさでしょうか?少々強引な演奏にも思えましたが,ソリストとしても見事な力量を持った素晴らしいヴァイオリニスト方だと思いました。

後半2曲目は岩城/OEKの十八番の古典交響曲でした。これについては言うことはありません。見事の一言です。恐らく,日本でこの曲をいちばん頻繁に演奏しているのがこの組み合わせだと思います。私自身この組み合わせで3回ぐらいは聴いています。完全に手の内に入った演奏で,すべての音をクリアに響かせ,室内オーケストラにも関わらず音を鳴らしきっていました。ホームグラウンドでの演奏ということで音のバランスも最適でした。演奏に余裕があるので自然な遊びも随所に感じられました。朝比奈/大阪フィルといえばブルックナーですが,この曲に関しては岩城/OEKもその域に近づきつつあるのではないかと思いました。

いよいよ,最後の2曲は合同演奏です。ルスランとリュドミラの方はコンサートマスターをはじめ主席奏者はN響でした(ちなみにコンサートマスターは山口さんではなく篠崎さんでした)。ステージには恐らく120人ぐらいは乗っていたと思います。会場もほぼ満員だったので,ホール中が人で溢れているような感じになりました。最初の音が切れ味鋭く出てきてまず感激しました。ふやけた響きではなく音の塊が迫って来るようでした。

最後の曲のラプソディはプログラムに組み込まれてはいましたが実質アンコールのような位置付けだったと思います。こちらの方の主席奏者はOEKになりました(つまり,曲の合間にお隣同志席替えをしていました。なかなか面白い光景でした)。編成は前の曲よりさらに人数が増えました。この曲についても何も言うことはありません。腰が決まっているような打楽器のリズムは岩城さんならではです。中間部にかなり長いフルート独奏が出てくるのですが,このソロは非常にプレッシャーがかかったと思います。100人以上も他のオーケストラの人が聴いているような状況で1人で演奏するというのは大変なことだったと思います。というわけで,OEKのフルート奏者の岡本さんはさかんに拍手を受けていました。

最後の2曲はいずれもビシっと決まり,充実感と爽快感で心が満たされました。きっと岩城さんも2つのオーケストラをドライブでき指揮者冥利に尽きたのではないかと思います。演奏会後,気持ちが良くて,すぐに帰るのも惜しい気分だったのでしばらく会場の前でボーッとしていたら,演奏会場のロビーで缶ビールを飲みながらの打ち上げが始ったようでした。何か楽しげな光景でした。さぞかしおいしいビールだったと思います。そういうことも含め,まさに暑気払いのような演奏会でした。次は,やはりメルボルン交響楽団あたりを呼んで欲しいものですね。