'99石川ミュージックアカデミー室内楽コンサートI
99/08/23金沢市民芸術ホール

1)シュニトケ/ピアノ五重奏曲
2)チャイコフスキー/弦楽六重奏曲ニ短調,op.70「フィレンツェの思い出」
3)シューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調,op.44
●演奏
1)タチアーナ・ゲリンガス(Pf),小栗まち絵,神谷美千子(Vn),川本嘉子(Vla),ダヴィド・ゲリンガス(Vc)
2)ヴィクター・ダンチェンコ,青木調(Vn),豊嶋泰嗣,川本嘉子(Vla),ルドヴィート・カンタ,工藤すみれ(Vc)
3)弘中孝(Pf),アーロン・ロザンド,小栗まち絵(Vn),豊嶋泰嗣(Vla),毛利伯郎(Vc)

連日の演奏会になりました。

夏休み中は各地でソリストを招いてレッスンを行ったり,室内楽の演奏会を行ったりという企画が多いのですが,この日の演奏会もそういう演奏会でした。石川県が力を入れている企画ということで,谷本知事が聴きに来ていらっしゃいました。演奏会場で(挨拶以外で)お見かけしたのは初めてのことでした。その他にも出番でないソリストやその家族たちが客席に座っていて,なかなか華やかな雰囲気がありました。

プログラムは大曲3曲でかなり重いものでした。

1曲目のシュニトケは予備知識無しで聴いたのですが,非常に訴えかける力の強い曲でした。プログラムによると母の死の悲しみを表現した曲ということでしたが,叫び声のような弦楽器の響きが曲中の至るところに出てきました。途中,唐突にワルツが出て来たりするあたりはショスタコーヴィチのような雰囲気もありました。最後の方にこのワルツが再現してきて,別のシンプルなメロディが重なりあって出てくる辺りは心が浄化されるような感じでした。演奏は,ゲリンガス夫妻が中心になっていたようでした。特に,奥さんのタチアナさんのピアノの美しさが印象に残りました。弦楽器が叫び声を上げているのと対照的に透明で静謐な雰囲気を出していました。良い曲の良い演奏だったと思います。

2曲目のチャイコフスキーは,ヴィクター・ダンチェンコという人のヴァイオリンを中心とした弦楽六重奏でした。この曲は短調でありながら,爽やかな雰囲気のある気持ちの良い曲なのですが,今回の演奏は,聴いていて少々疲れました。それは,大部分の主旋律を弾く第1ヴァイオリンの音色のせいです。ダンチェンコという人は教師としては有名な方なのかもしれませんが,音が痩せていてギスギスしているような感じでした。そのせいかアンサンブル全体の音の溶け合いが良くなかったような気がしました。もちろん,4楽章最後のコーダのアッチェランドなどはピタリと決まっていたのですが,もう少し甘い音で聞いてみたかったです。チェロのカンタさんが甘い音で旋律を演奏する箇所になるとホッとしました。

後半のシューマンは,今年の冬にヴァレーズさんとアンサンブル金沢のメンバーによる室内楽でも一度聴いたので,それとの聴き比べになりました。結果的には今回の演奏の方が強く印象に残りました。

まず,冒頭の重厚な響きに「ガツン」というようなインパクトを受けました。素晴らしい響きでした。その後も全般に遅目のテンポでスケール感のある演奏を聴かせてくれました。ソリスト級の人が揃っていたので,2楽章の静かな部分で各楽器が順番にリズムを刻むような箇所など非常に聴き応えがありました。重厚感を出していたのはヴィオラとチェロの響き(特に豊嶋さんのヴィオラが迫力がありました)のせいだと思いますが,背後でアンサンブルを支えていた弘中さんのピアノも見事でした。休符の後,他の奏者の方を見ながらピタリと出だしを会わせるのを見ていると,室内楽のプロという印象を受けました。この素晴らしい演奏の中で一つ気になったのはやはり第1ヴァイオリンの音色でした。アーロン・ロザンドさんという人は有名な方なのですが,音にかなり癖があると思いました。なんとなく,薄っぺらく安っぽい音に聞えました。が,これは好みの問題かもしれません。

演奏会の後,今回のアカデミーに講師として招かれたソリストたちがサインをしてくれるというので,サインを集めて回りました。この日の収穫は,ダヴィド&タチアーナ・ゲリンガス夫妻,ザハール・ブロンさん,アーロン・ロザンドさんの4人のサインでした。ゲーリー・グラフマンさんらしき人もいたのですが,本人かどうかイマイチ自信がなかったのでもらうのは止めておきました。

8月25日にも同様の演奏会があり,なかなか面白そうなプログラムなのですが,こちらの方は仕事の関係で残念ながら行けません。

PS.アーロン・ロザンドさんのサインをもらうためにCDを1枚買いました。ベートーヴェンとブラームスのヴァイオリン協奏曲を組み合わせたお徳用CD(VOX)だったのですが,この演奏ももう一つ冴えない感じでした。