オーケストラ・アンサンブル金沢第84回定期公演
99/09/02金沢市観光会館

1)モーツァルト/バレエ音楽「レ・プティ・リアン」
2)モーツァルト/オーボエ協奏曲ハ長調,K.314
3)モーツァルト/セレナード第7番ニ長調,K.250「ハフナー」
(アンコール)
4)モーツァルト/ディヴェルティメント,K.334〜メヌエット
●演奏
マイケル・ダウス(Vn)/Oens金沢/宮本文昭(Ob*2)

今年の秋のシーズン最初のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会は,マイケル・ダウスさんの弾き振りによるオール・モーツァルト・プログラムでした。定期会員全員が招待,しかも宮本文昭さんがソリストということもあり会場は超満員でした。

最初のレ・プティ・リアンという曲は演奏会ではめったに聴くことのない曲です。レ・プディ・リアンとは「小さなもの」という意味とのことですが,「こまぎれ」という印象でした。それぞれの曲はモーツァルトの作品でないものも含め,なかなか面白かったのですが,やはりこれだけ短い曲が続くと全体としての印象がなく,長さの割に聴いた気がしませんでした。OEKの演奏は落ち着いたテンポのバランスのよい演奏でしたが,指揮者なしだと視覚的にも少々物足りませんでした。静かに終る曲だったせいもあり,私の両脇の人は2人とも寝ていました。

2曲目はオーボエの音が何よりも素晴らしかったです。前の曲と比べると音色からして目が覚めるようでした。宮本さんの音色はOEKのオーボエ(前曲では少々調子外れだったような気がしました)に比べるとストレートでクリアで太い音でした。しかも,演奏に傷がなく非常に滑らかでした。所々微妙に吹き方に変化をつけていたりして,精神の自由さも感じました。指揮者なしということでリーダーのダウスさんとのテンポの合わせ方も見ていて楽しめました。宮本さんはトランペットのようにかなり楽器を持ち上げて演奏しており,スターの貫禄を感じました。宮本さんとOEKの共演は3回目ぐらいだと思いますが,相変わらず若々しい風貌で(かなり髪の毛が長くなっていましたが),会場の人も大満足だったようです。20分ほどの曲なのにカデンツァが3回もあり,まさに宮本さんの一人舞台でした。

盛大な拍手が続いているのに宮本さんがステージ脇からなかなか出てこないので何をしているのかな,と思っていたら,ポリバケツを持って登場してきました。OEKのコンサートではこういう光景はよくあるのですが,先日のトルコの大地震の被災者のための義援金集めということで宮本さん自ら客席に下りてバケツを持って集めていました。演奏会後の報告では66万円も集まったとのことです。

後半はハフナーセレナードでした。この曲を演奏会で全曲聴くこともかなり珍しいことだと思います。非常に長い曲でしたが,とても良い曲でした。モーツァルトのケッヘル200番代の曲の中ではいちばん充実している曲のような気がします。まず,曲の構成がなかなか面白いと思いました。全8楽章中2〜4楽章はヴァイオリン協奏曲,それ以外を繋げると交響曲といった感じで,2曲聞いた充実感があります。協奏曲部分ではフルート,交響曲部分ではオーボエを使っており,2つの楽器が同時に使われる楽章がないというのも何とも不思議でした。

この曲はハフナー家の婚礼のために作られたとのことですが,この日のOEKの演奏はそういう華々しいものではありませんでした。曲自体かなり陰影に富んでおり,浮かれているだけの曲ではないのですが,それぞれの曲の中間部などに現れる暗い表情がとても印象に残る演奏でした。冒頭の楽章からしてかなり遅いテンポで始まり,腰が重い気もしたのですが,そのせいもあって非常にじっくりと聴かせてくれる演奏でした。

中間楽章の協奏曲部分の独奏はもちろんダウスさんでした。しかし,本当のソリストのように立ちあがって弾くことはなく,コンサート・マスターの席で座って弾いていました。音のバランスもダウスさんだけが目立つことはなく,アンサンブルの中の1人の音が少し浮き上がって聞こえるかなというような雰囲気でした。この曲は全体としては協奏曲ではないので,妥当な解釈だと思いました。有名なロンド(この曲の最後の方の終りそうで終らない名残惜しさやオペラのアリアのような雰囲気が大好きです)をはじめ見事に演奏していましたが,派手過ぎない表現がとても良かったです。

アンコールには,モーツァルトのK.334のディヴェルティメントの中の有名なメヌエットが演奏されました。この演奏も陰影に富んでいて見事でした。

PS.この曲を含むOEKのアンコール・ピース集のCDが発売されました。収録されている曲はいずれも本当にアンコールとして聴いたことのあるような曲ばかりで,地元のOEKファンには喜ばれると思います。同時にOEKのアンコール・ピース用に石川県民から公募した曲を収めたCDも発売されました。こちらは20分に満たない収録時間で1400円ということで,得なのか損なのかわかならいようなCDです。今から聴いてみて判断してみようと思います。