オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団日本公演1999
99/10/08 石川厚生年金会館

1)シベリウス/交響詩「フィンランディア」op.26
2)シベリウス/ヴァイオリン協奏曲ニ長調,op.47
(アンコール)
4)シベリウス/ロマンス
5)シベリウス/交響曲第2番ニ長調,op.43
(アンコール)
6)シベリウス/悲しいワルツ(オリジナル版)
7)シベリウス/劇音楽「クリスティアン2世」〜メヌエット
8)シベリウス/悲しいワルツ(現行版)
9)シベリウス/組曲「ペレアスとメリザンド」〜9番
●演奏
オスモ・ヴァンスカ/ラハティSO/ペッカ・クーシスト(Vn*2,3)

今回報告する演奏会は,フィンランドのラハティという地方都市にあるラハティ交響楽団の来日公演です。昨年の今ごろ地方オーケストラに関するシンポジウムが金沢で開かれ,その時,ラハティ市長が金沢にいらっしゃったのですが,その縁で行われた演奏会ということになります。ラハティ交響楽団は今回が初来日のようですが,金沢がその第1歩というのは嬉しいことです。金沢の後,16日まで徳山,大阪,東京,沼津と超ハードスケジュールで日本を回ります。東京ではシベリウスの交響曲を全曲を演奏しますので,話題を集めるのではないかと思います。

今回の演奏会は,オーケストラ・アンサンブル金沢が招聘したという形になっているのですが,演奏会全体の雰囲気もはるばるフィンランドから来たお客様をもてなすような暖かい雰囲気に包まれていました。その期待どおり大変素晴らしい演奏会になりました。

ステージに団員が入って来ると,客席から拍手が起こったのですが,その拍手は全員が入り終わるまで続いていました。団員の方もずっと客席の方を向いたまま起立して拍手に応えてくれていました。これでまず,このオーケストラに良い印象を持ってしまいました。

ラハティ交響楽団はそれほど大編成ではなく,ビラによると「69名の精鋭」ということでした。コントラバスも5本ぐらいでした。チューニングが始まると,木管の音色がなんともいえず鄙びた響きに聞こえました。金管が一体となってチューニングしているのも印象に残りました。

今回のプログラムは「シベリウス・ザ・ベスト」という感じでした。ちなみに,私にとって,シベリウスを生で聴くのは今回がほとんど初めての経験ということになります。

1曲目のフィンランディアは第2の国歌ということもあり,奇をてらったところのない演奏でした。まず,冒頭からして暗く切実な音でした。弦の音は人数のせいもあり,軽目なのですが,浮ついたところのない渋い音色でした。ティンパニの音も重心が低く,演奏全体に非常に締りがありました。入念にチューニングをしていた金管の音も暴力的なところやギラギラしたところが全然ありませんでした。全体的にはさっぱりとして演奏だったのですが,中間部の有名な旋律など言葉で表せないような味を持っていました。要所での金管や打楽器のアクセントも鋭く決まっていたので,迫力にも不足はありませんでしたが,どちらかというと室内楽的な精妙さにこだわった演奏だったと思います。軽さと重さ,情熱と冷静さが共存する味のある演奏だったと思います。

2曲目のヴァイオリン協奏曲はペッカ・クーシストという若いヴァイオリニストがソロでした。冒頭の非常に丁寧に弾かれた弦の弱音のトレモロからして雰囲気たっぷりだったのですが,その後に出てきた,クーシストさんの音も素晴らしいものでした。細目の音色で非常に軽い音でした。ヴァンスカさん同様,弱音にかなりこだわっており,弱音になるたびに思わず集中してしまいました。演奏中,口を開けて我を忘れたような顔つきになっている瞬間があったのですが,もしかしたらクレーメルの影響をかなり受けているのかもしれません。弱音の念の入れようを見ているとこれからクレーメルのように変貌していく可能性もあると思いました。ただ,クレーメルほどエキセントリックではなく,初々しい雰囲気を漂わせていました。

曲の中では,非常にじっくりとしたテンポで弾かれた2楽章が印象に残りました。また,3楽章のラプソディックな演奏も楽しめました。オーケストラを含め,多様なアーティキュレーションを駆使して演奏しており,変化に富んだ独特な演奏になっていました。特に,フレーズを短く切るように演奏している部分が印象に残りました。しかし,何度も演奏をしているせいか,自信と落着きに溢れており,全然違和感はありませんでした。

演奏後,拍手が鳴り止まずアンコールが演奏されました。前半のアンコールの場合は独奏者のソロが多いのですが,この日はオーケストラの伴奏付きのアンコールでした。ロマンスというシベリウスの小品でしたが,きっと他の日もこの曲を使うのではないかと思います。

後半は,メインの第2交響曲でした。実は,この曲を生で聴くのは初めてなのですが,かなり独特な(というか新鮮な)演奏だったと思います。すべての音にヴァンスカさんの意志が行き渡っていました。それほど,オーケストラが指揮者の手足のようになっていました。ヴァンスカさんは,非常に統率力のある指揮者だと思いました。

まず,各楽器の音の分離が良いのが印象に残りました。弦の人数が少ないせいか,管の音がくっきり聞こえ,非常に透明感がありました。ここでも,弱音を重視しながらも,くっきりと丁寧に演奏するというヴァンスカさんの特徴が出ていました。特に印象に残ったのは,2楽章の中間で長い休符の後に出てくる美しい主題でした。この長い長い休符が非常に効果的でした。その後の神秘的な弱音の美しさは例えようもないほどでした。静けさを非常に巧く出していたと思います。

3楽章の冒頭は一変して急速なテンポになり,弦の鮮やかさを聴かせてくれました。粗さが出ず,軽さを保っていたのが素晴らしかったです。

4楽章も威圧的に響きませんでした。もともと,シベリウスの曲はトゥッテイがそれほど多くないのかもしれないのですが,ここでも室内楽のような雰囲気を感じました。特に,一つの楽器のように響く金管の音のバランスの良さが見事でした。クライマックスでもヒステリックにならず,ふっと音を弱めたりするのも非常に新鮮でした。が,このパターンはこの日の演奏会の中でも何回か出てきたので,やや常套的だったかもしれません。

とはいえ,この日の演奏の新鮮さが他のお客さんにも伝わったようで,拍手がなかなか鳴り止まず,4曲もアンコールが演奏されました。終った時は9:30になっていました。有名な「悲しいワルツ」が2回も演奏されたのですが,1回目の方の終結部が少々変だなと思って,アンコールの案内を見るとオリジナル版の「悲しいワルツ」と書いてありました。シベリウスの曲をいろいろな版で取り上げているこのコンビならではのアンコールでした。

演奏会後,ラハティ交響楽団との交流会という企画があったので(たまたま出くわした知人に誘われたせいもあり)参加してきました。金沢同様,ローカルな都市にあるオーケストラということで,団員の人も非常に親しみやすい感じでした。指揮者のヴァンスカさんのサインをいただけたのも収穫でした。

このオーケストラは木管の音が少々鄙びてい過ぎるような気もしましたが,よく鍛えられた良いオーケストラだと思いました。これからもこのオーケストラを応援していきたいと思ってしまいました。