1999ステンドグラス・コンサート:教会に響くバッハ:第5回合唱
99/12/26 金沢ステンドグラス美術館(モリス教会)

1)バッハ,J.S./カンタータ第140番,BWV.140「目覚めよとわれらに物見らの声が呼びかける」〜1,4,6,7曲
2)バッハ,J.S./カンタータ第147番,BWV.147「心と口と行いと命もて」〜アリア「備えたまえ,イエスよ」
3)バッハ,J.S./クリスマス・オラトリオ,BWV.248〜アリア「備えよシオンよ」
4)バッハ,J.S./クリスマス・オラトリオ,BWV.248第1部〜1,5,6,9,10-12,17-21,24,30,33-35,64曲
(アンコール)
5)バッハ,J.S./カンタータ第147番,BWV.147「心と口と行いと命もて」〜コラール「主よ人の望みの喜びよ」
●演奏
石田文生/金沢バッハCho/久野将健(Org)/赤坂有紀(S*1,2),槇幹雄(B*1),横町あゆみ(A*3,4),三輪章志(T*4),井幡清志(B*4)

1999年最後に出かけた演奏会は教会で開かれたバッハの合唱曲のみの演奏会でした。金沢市には2本の川が流れています。そのうちの南の方を流れる犀川河畔に金沢ステンドグラス美術館というのが近年できたのですが,それに併設されているモリス教会でこの日の演奏会は開かれました。この教会は,それほど大きくない教会ですが,パイプオルガンが付いており,正面にはその名のとおり綺麗なステンドグラスがあります。この教会で5回に渡ってバッハを聴く,という魅力的な企画の演奏会が今年の4月から開かれました。その締め括りがこの日の合唱の演奏会でした。1度このシリーズに出かけたいと思っていたのですが,いつのまにか最終回になっていました。

そのシリーズがたまたまクリスマスのシーズンと重なったので,今回はクリスマス・オラトリオを中心としたプログラムになりました。もちろん全曲ではありませんが,金沢でこれだけまとまってバッハの宗教曲が演奏される機会は少ないと思います。私自身もこれらの曲を聴くのは初めてのことです。

演奏は,地元の30人ぐらいのアマチュア合唱団と東京から招いたオルガニストによるつつましい編成によるものでした。しかし,そのつつましさが非常に教会の雰囲気にあっていました。こういう演奏会なら毎年来ても良いと思いました。

合唱団はアマチュアとはいえ,レベルが非常に高いと思いました。各曲のソロパートも全部合唱団員が歌っていたのですが,すべて誠実に歌われていました。メンバーは全般に若い人が多いようでしたが,声の響きも清澄で,音程が良く揃っていました。各パート6,7人だったので各人の能力が高くないとこれだけ綺麗な響きにはならないと思います。金沢バッハ合唱団という結構立派な名前がついていましたが,それに相応しいと思いました。継続して活動していって欲しいものです(ただし,プログラムの名簿を見るとオーケストラ・アンサンブル金沢合唱団とかなりダブっているようでした。また,東京の栗友会からの4人賛助出演していました。)

前半のカンタータ140番は4曲目のコラールが非常に有名な曲ですが,詩を読む限りでは,結婚式にも相応しいと思いました。最後のグローリアではオーケストラ伴奏の時ほど華やかな感じは出せませんが,結婚の雰囲気としてはパイプオルガン伴奏でも良いような気がしました。

次のステージは,アリア2曲でした。前述のとおり,合唱団員がソロで歌ったのですが,いずれもとても爽やかな歌でした。プロの歌手で聴くのも良いかもしれませんが,年に1度身を清める?といった観点からすると,「質実」「清廉」という感じの派手過ぎない歌い方の方が相応しいかもしれません。

後半は,クリスマス・オラトリオからの抜粋でした。この曲は6部に分かれており,クリスマスの日から3日間(12/25〜27)と新年になってからの3日の6日に分けて演奏される曲です。というわけで,12月26日に演奏するというのは,誠に相応しい企画です。日本ではクリスマスといえば24日でおしまいみたいな感じですが,本当は25日過ぎが本番なのかもしれません。

この日に演奏されたのは1〜3部のイエスが生まれる前後の物語が中心でした。それに全曲のトリの64曲目が付け加えられていました。この日のプログラムは,ワープロで作られたものだったのですが,非常に立派なものでした。指揮者の石田さんがすべての曲についての解説を書き,歌の部分の訳も付いていました。それに,プログラミングの方針についても書かれていました。熟考した上での選曲だったようです。

合唱曲が中心でしたが,福音史家のレチタティーヴォあり,アルトのアリアあり,オルガンソロによるシンフォニアあり,となかなか変化に富んでいました。最後の方のコラールに盛り上がりが来ており,よくまとまった選曲だったと思いました。福音史家のテノールの人は少々高音が苦しそうでしたが,相応しい声質だと思いました。

アンコールはお馴染みの「主よ人の望みの喜びを」でしたが,これも誠実で清潔感のある演奏でした。オーケストラの演奏会でも時々アンコールとして演奏される曲ですが,この日のアンコールは必然性のある選曲でした。非常に新鮮に聞こえました。

というわけで,選曲,演奏とも申し分のない演奏会でした。指揮者の石田さんは相当研究されていたのだと思いました。

演奏会は午後3時から始まったのですが,終わって外に出てみるとすっかり暗くなっていました。静かな犀川河畔を歩いて帰るというのも(少々寒かったですが)いつになく新鮮でした。こういうクリスマスというのも悪くないものです。