オーケストラ・アンサンブル金沢第87回定期公演A
キリン・ニューイヤー・コンサート

2000/1/11 金沢市観光会館

チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調,op.35
シュトラウス,J.II/スペイン行進曲,op.433
シュトラウス,J.II/トリッチ・トラッチ・ポルカ,op.214
シュトラウス,J.II/仲よしのワルツ,op.367
シュトラウス,J.II/チク・タク・ポルカ,op.365
シュトラウス,J.II/爆発ポルカ,op.43
シュトラウス,J.II/ワルツ「ウィーンのボンボン」,op.307
シュトラウス,J.II/山賊ギャロップ,op.378
シュトラウス,J.II/ワルツ「美しく青きドナウ」,op.314
(アンコール曲)
シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
●演奏
マイケル・ダウス(Vn)/Oens金沢

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2000年最初の演奏会は,地元金沢で開かれた恒例のマイケル・ダウスさんの弾き振りによるニュー・イヤーコンサートでした。このコンサートもこの5年間ほどですっかり定着したようで,毎年,前半はダウスさんのヴァイオリン・ソロによる協奏曲,後半はシュトラウス・ファミリーの音楽というプログラムです。今年は,このプログラムで1月16日に東京の地方都市オーケストラフェスティバルに参加するので,特にサービスに熱心だったようです。

前半は,チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲でした。この曲は,トロンボーンの入らない曲なのでOEKでもホルンを2人加えれば対応できる曲なのですが,指揮者なしでの演奏というのはかなり珍しいと思います。その辺がこの組み合わせのセールス・ポイントです。さすがにアンサンブルは見事で,有名ソリスト+大編成で聴くのとは違った魅力が出ていました。ただ,指揮者無しだと気持ち良すぎて,抵抗感のようなものが無さ過ぎるような気がしました。テンポは妥当だし,アラも少なかったのですが,全般に安全運転の演奏という印象を受けました。もちろん両端楽章の結尾などアッチェランドをかけていたのですが,どこかスリルが無い気がしました。

とはいえ,ダウスさんの音色とOEKの相性は抜群だし,第1楽章の再現部や第2楽章での木管楽器とソロ・ヴァイオリンとの絡みの美しさとか第3楽章の切れ味の良い爽やかさなどOEKならではの美しさが随所にありました。

後半は,すべてシュトラウス2世の作品でした。行進曲の後,ポルカとワルツを交互に演奏するような構成でした。編成は前半の編成にトロンボーン3本,トランペット1本,パーカッション3人が加わり,音に輝きと厚みが出ました。後半最初のスペイン行進曲の冒頭からその効果が出ていました。無理の無い行進曲のテンポが非常に気持ち良かったです。

以下,ポルカ系の曲ではすべてクラッカーを鳴らしたり,効果音を入れたり,掛け声を入れたりとサービス満載でした。ただ,見せ方が少々下手なような気がしました。仕方のないことですが,照れがあるのかもしれないですね。一度,外部の専門家に本格的な演出を考えてもらうのも面白いのではないかと思ったりしました。富山の小杉,大阪,清水,東京と同じプログラムで回るので,試行錯誤するうちに巧くなってくるかもしれません。

トリッチ・トラッチ・ポルカも速すぎず遅すぎずの快適なテンポでした。ホルンの合いの手の音が独特の音だったのも楽しめました。

続く「仲良しのワルツ」というのは意訳で,「Du und du」というのが原題です。喜歌劇「こうもり」の有名なメロディをくっつけた曲で序曲でおなじみのワルツが登場します。やはり序曲の方がずっと面白いですね。その次のチク・タク・ポルカも「こうもり」の中の曲です。こちらは鉄琴の音が弾むような面白い効果を出していました。曲の最後で,団員が声を出していましたがもう少し元気を出して叫んでほしかったと思いました。

爆発ポルカでも曲の最後に仕掛けがありました。ネタをばらしてしまうと,「雷鳴と停電」といった感じで照明を落として,会場が真っ暗になってしまいました。

「ウィーンのボンボン」は,唯一「真面目に」演奏された曲でした。演奏会のプレトークの中でOEKのヴァイオリン奏者のトロイさんが「この曲に「子供の天国」というタイトルを勝手に付けてみました」とおっしゃていたのですが,そのタイトルがぴったりの曲であり演奏でした。そう言われてみるとじっくりと演奏された序奏部分には子供がじっとお菓子を見つめているような雰囲気があります。

最後の「美しく青きドナウ」は,例年どおり結尾部がかなり短くカットされた演奏でした。これはダウスさんの趣味なのかもしれませんが,聴きなれている曲なので毎年物足りなく感じます。OEKの演奏するワルツは全般に序奏及び要所要所をじっくりと聞かせ,それ以外は快適に流す,といった感じの演奏で,恐らく「ウィーン風」というのとは違うと思うのですが,ダウスさんの動きがそのまま曲の運動感につながっている良い演奏だと思います(軽いポルカがOEKにぴったりというのは言うまでもありません)。

最後は,お決まりのラデツキー行進曲でした。これもネタをバラしてしまうと...ダウスさんが引っ込んだ後,小太鼓でウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートで使われている序奏が流れ,指揮者なしで曲が始まります。当然,自然に拍手が起こるのですが,指揮者がいないと途中の「ダレる部分」で手拍子を続けるべきか止めるべきか迷います。やはり,どなたかに仕切って欲しかったと思います。曲の最後にダウスさんが客席から手拍子で登場してお終いという,形になります。

というわけで,会場の満員のお客さんはとても喜んでいました。金沢市では,ダウスさんはとても親しまれており,このニューイヤーコンサートも会員の間では完全に定着しています。他の都市でも楽しんでもらえるといいな,と思います。