2000年記念ガラコンサート:活躍する石川の音楽家たちの競演
00/2/12 金沢市観光会館

1)ラモー/「優雅なインドの国々」〜シャコンヌ
2)ミヨー/スカラムーシュ
3)ロドリーゴ/アランフェス協奏曲〜第2楽章
4)モーツァルト/歌劇「魔笛」〜この聖なる神殿では
5)モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〜奥さんこれが恋人のカタログ
6)ムソルグスキー/蚤の歌
7)モーツァルト/フルートとハープのための協奏曲ハ長調,K.299〜第1楽章
8)シュトラウス,R./ブルレスケ
9)ビゼー/歌劇「カルメン」〜恋は野の鳥
10)トマ/歌劇「ミニョン」〜君を知るや南の国
11)サン=サーンス/歌劇「サムソンとデリラ」〜愛よ,私の弱さを助けておくれ
●演奏
本名徹次/Oens金沢/阿川佐和子(司会)
筒井裕朗(Asax*2),太田真佐代(G*3),香田裕泰(B*4-6),吉村智子(Hp*7),岡本えり子(Fl*7),山本純子(Pf*8),串田淑子(A*9-11)

昨年の12月31日にオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)では,ジルベスター・ガラ・コンサートというのを企画していたのですが,「2000年問題」(今ではすっかり懐かしい響き)絡みで中止になってしまいました。そのリターン・マッチともいうべき演奏会が行われました。定期会員は入場料1000円という低価格で行われたこの日の演奏会は石川県関係の演奏家をソリストに招き,協奏曲の一部やオペラのアリアを歌ってもらうという趣向でした。出演者にスターの貫禄はありませんでしたが,その分爽やかな雰囲気がありました。マイナーな曲も聴け,楽しめる演奏会になりました。機転の利いた司会も見事でした。

プログラムはガラ・コンサートということもあり,盛り沢山でした。

最初のラモーの曲は,オープニングの音楽ということで,ティンパニとトランペットの響きが祝祭的に響く曲でした。弦のビブラートは控え目で,さっぱりとした雰囲気を持っていました。華やかさと優雅さを兼ね備えたオープニングに相応しい小品でした。この日のオーケストラの配置は前回の若杉さん指揮の定期公演の時と同じ配置でした。つまり,下手から第1ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,第2ヴァイオリン,下手後方にコントラバス,となっていました。当分,OEKの配置はこれで行くのでしょうか?低弦が正面を向いている分,従来より低音の響きが充実して聞こえるような気がします。

最初のソリストはサックスの筒井さんでした。この方はOEKの新人登竜門演奏会で優秀賞を取った方で,一度聴いたことがあります。クラシックの演奏会にサックスが登場すると,妙に引き立って聞こえ,「得な楽器だな」といつも思います。サックスという楽器の完成度の高さのせいでしょう。ミヨーのスカラムーシュはほとんどポピュラー音楽のような曲で気楽に楽しめました。ただ,冒頭の細かい音の動きなど結構合わせるのが難しそうでした。見事に弾きこなしていましたが,この曲の場合,もっとカラっとした雰囲気,ギラギラした雰囲気があるといいかなと思いました(もっとも真冬の金沢でカラっとした雰囲気というのは無理かもしれません)。この日は演奏後,各ソリストに対して阿川佐和子さんがインタービューを行ったのですが,「クラシックのサックスで仕事はあるのでしょうか?」などと中々鋭い質問をして筒井さんもタジタジという感じでした。

続く太田さんは,スペインギターコンクールというので1位を取った金沢出身のギタリストです。まだ二十歳そこそこの方でオーケストラとの共演も今回が初めてだそうです。仕方のないことですが,1曲目のサックスに比べると音量が小さいなという印象をまず持ちました。とはいえ,演奏後のインタビューで「全然緊張しませんでした」と答えていたとおり,堂々と演奏していました。冒頭の有名なイングリッシュ・ホルンのソロは音が大きすぎて,雰囲気がないような気がしました(とても美しい響きでしたが)。ギターの演奏については,大ホールで聴いても違いがよくわからないので,機会があればもっと小さい場所で聴いてみたいと思いました。

前半最後は,市内で活躍中の新人というよりは中堅の香田さんのバス・ソロでした。実は,香田さんは私の勤務先で非常勤講師をされている方でよく知っている人です。身近な人が晴れ舞台に立つのを観るのは嬉しいものです。ステージ上の姿はいつもよりスマートに見えました。音域もバスとのことでしたが,それほど威圧的に聞こえませんでした。大ホールで歌うには少し声量が不足している感じでしたが,「蚤の歌」などは芝居気もあり楽しめました。香田さんは,コントラバス科出身で,新世界交響曲を演奏する時,弾くかわりに「ボンボン」と口で歌ったことがある,と冗談のようなエピソードを披露されていました。コントラバス奏者が皆,声が低いわけはないと思いますが,なかなかよくできた話です。

後半最初は,ヨーロッパ国際音楽コンクール(ハープ部門)で優勝した吉村智子さんとOEKのフルート奏者の岡本さんによる演奏でした。ハープの音量はそれほど大きくないので,この曲もオーケストラがかなり抑え気味になっていましたが,その伴奏が非常に暖かい雰囲気を出していました。元気いっぱいの雰囲気のある本名さんが指揮だったのでキビキビとしたテンポを予想していたのですが,非常に落ち着いたテンポだったのが意外でした。家族で演奏しているような良い味が出ており,こういうのも悪くないなと思いました。ちなみに吉村さんは3月のOEKの定期演奏会にも登場します。

続く山本さんは今年度のOEKの新人登竜門演奏会で優秀賞を取った方で,聴くのは2回目です。今回はR.シュトラウスのブルレスケというなかなか聴けない渋い曲でした。シュトラウスというよりはブラームスのような曲でなかなかの難曲でした。冒頭をはじめ随所に出てくるティンパニのソロも印象的な曲でした。恐らく山本さんの意向で選んだ曲だと思いますが,ガラ・コンサートにしてはちょっと重い選曲だったと思います。そういう点で,もう少しダイナミックな響きを聴きたい気もしましたが,珍しい曲をきちんとした演奏で聴けたのは収穫でした。数年前のベルリン・フィルのジルベスター・コンサートでアルゲリッチがこの曲を弾いていましたが,それを意識していたのかもしれません。

演奏会の最後は,二期会のオペラでも活躍している串田さんのアルトでした。トリを務めるだけあって,紅白歌合戦の和田アキ子のような(変な比喩で失礼しました。非常に立派な体格の方でした。)見事な歌いっぷりでした。誰がみても,この日の演奏の中でいちばん強い印象を残したのがこの方だったと思います。声量が豊かでステージ上の雰囲気も余裕たっぷりでした。この方の出演するオペラを一度観てみたいものだと期待してしまいました。

スター演奏家を聴くのも良いことですが,地元の演奏家を育て,地域全体の音楽の水準を高める努力というのも大切なことだと思います。そういう点では,OEKは全国に誇って良い活動をしているな,とこの演奏会を聴いて思いました。

PS.OEKの演奏会では,託児ルームというのを用意しており,予約しておけば無料でプロのベビー・シッターに預かってもらえます。今回初めて,これを利用してみました。こういう制度も,もしかしたら全国的に珍しい制度かもしれません。ありがたいことです。