オーケストラ・アンサンブル金沢第89回定期公演B
00/2/26 金沢市観光会館

1)フォーレ/劇音楽「ペレアスとメリザンド」op.80
2)ベルリオーズ/夢想とカプリス,op.8
3)サン=サーンス/序奏とロンド・カプリッチョーソ,op.28
4)ミヨー/バレエ音楽「世界の創造」op.81
5)サティ(プーランク編曲)/グノシエンヌ第3番
6)プーランク/シンフォニエッタ
(アンコール)
7)フォーレ/劇音楽「ペレアスとメリザンド」op.80〜シチリアーノ
8)ビゼー/アルルの女〜アダージェット
●演奏
ジャン=ピエール・ヴァレーズ/Oens金沢/ミカエル・グットマン(Vn*2,3)
江村哲ニ(プレトーク)

今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演は,ジャン=ピエール・ヴァレーズ指揮によるオール・フランス・プログラムでした。ベルリオーズからプーランクまでのフランス音楽史をたどるような選曲で,すべての作曲者が違っていました。こういうケースは珍しいことです。ヴァイオリン・ソロ以外に,サクソフォンの須川展也さんも加わっており,プログラム全体に華やかな雰囲気もありました。

プレトークは,来年度からOEKのコンポーザー・イン・レジデンスに就任する江村哲二さんによるものでした。もう少し要領良く説明して欲しいと思いましたが,慣れない仕事なので仕方がないかもしれません。

最初の「ペレアスとメリザンド」は,4曲からなる組曲版でした。全般に弱音主体で幻想的な雰囲気を出していましたが,先日,名古屋の素晴らしいホールでコンセルトヘボウの音を聴いたばかりだったので,「もう少し残響があれば...」とも思ってしまいました。ヴァレーズさんの指揮は,なんとなくぼんやりとした感じで,あまり強い印象は残りませんでした。有名なシチリアーノは速いテンポでさらりと演奏されており,とても爽やかでした。

続く2曲はミカエル・グットマンというベルギーのヴァイオリニストがソロでした。この人の演奏は数年前に1度聴いたことがあるのですが,その時同様,音程の甘さが気になりました。まだ若い人なのに,私にでも感じられるぐらいだとかなり問題なのではないかと思います。ベルリオーズの曲は初めて聴く曲でしたが,フォーレよりも管の音が明確に聞こえました。ベルリオーズのオーケストレーションのせいかもしれません。ヴァイオリン・ソロの音自体は,軽く甘い音で,フランス音楽には相応しいと思いました。バリバリ演奏する人が多い中で貴重な持ち味だと思いました。曲の終わりの部分が幻想交響曲の第2楽章とそっくりなのには苦笑しそうになりました。序奏とロンド・カプリッチョーソの方もソロの技巧が万全でないと思いました。それよりは,「序奏」の部分が終わった後のオーケストラの「ジャン」の音の気合いの方が印象に残りました。

前半最後の「世界の創造」は素晴らしい演奏でした。この日いちばんの聞きものだったかもしれません。実は,今から11年前のOEKの第1回定期公演でこの曲が演奏されたのですが,その時に比べると,すべての面で状況が変わりました。オーケストラも観客も成長し,すべての面で余裕があったと思います。何となく感慨深いものがあります。曲の編成は,非常に変則的で,オーケストラというよりは室内楽に近い部分もあります。編成は次のとおりです。ヴァイオリン×2,チェロ,コントラバス,ホルン,トランペット×2,フルート×2,クラリネット×2,オーボエ,トロンボーン,打楽器×3そしてアルト・サックス。前述のとおり,アルト・サックスは須川展也さんでした。前日,金沢の能楽堂で須川さんの演奏会があったらしいのですが,それにあわせての客演だと思います。ビラには何も書いてなかったので,得した気分です(ビラに書いておけばもう少しお客さんが入っただろうに,とも思いましたが,そこが奥ゆかしいところかもしれません)。楽器の特性上,やはりサックスの音が目立っていましたが,その他の楽器もすべてソリスティックに動いているのがよくわかりました。打楽器,管楽器の音が目立つ分,原色的な色彩感のある演奏でした。テンポは全般に遅目で,各楽器の音が余裕を持って響いていました。中間部はラプソディ・イン・ブルーのような懐かしいジャズの雰囲気がありました。クライマックスでの管楽器,打楽器の強奏のクリアさも印象に残りましたが,最後の方に出てきたオーボエの超高音の美しさも見事でした。ソプラノ・サックスか何かのようにも聞こえました。フル編成の曲も良いですが,個々の奏者の音がダイレクトに聞こえてくるような曲(例えば「兵士の物語」のような曲)も時々定期公演で取り上げてくれるといいな,とこの演奏の楽しさを聴いて感じました。

後半最初のプーランク編曲のグノシエンヌは,オーボエが主役の曲で,なかなか魅力的でしたが,どちらかというとアンコールとして使った方が良いような気がしました。短い曲だったのでプログラムのバランスが悪くなっていました。

最後の曲は,まさにOEKの編成にぴったりの曲でした。シンフォニエッタという名前にしては,かなり長い曲で30分近くかかりましたが,20世紀半ばに作られた曲とは思えないほど聴きやすい曲でした。ここでも無理のないテンポ設定で,オーケストラの音色の美しさがよく出ていました。特に軽い弦の音が印象に残りました。洒落た演奏という感じはありませんでしたが,とても暖かい感じの演奏でした。ヴァレーズさんの人柄を表しているかのようでした。第1楽章の中間部などは映画音楽か何かのような親しみやすさでした。中間楽章では,クラリネットのじっくり聞かせるソロが印象に残りました。時々,白鳥の湖の有名なテーマのようなトランペットの音も聞こえてきました。第4楽章は,結びに相応しい華やかさで,終結部には「パリのアメリカ人」の結尾のような「おしまい」といった雰囲気がありました。というわけで,この曲は「OEK十八番」の一つに加えてもいいような,とても楽しめる曲だと思いました。

アンコールは2曲演奏されました。2曲目の弦楽器だけで演奏されたビゼーのアダージェットは絶品でした。