オーケストラ・アンサンブル金沢第90回定期公演B
00/3/13 金沢市観光会館

1)コダーイ/ガラーンタ舞曲
2)ピエルネ/ハープと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック,op.39
3)ワイル/ヴァイオリンと吹奏楽のための協奏曲,op.12
4)ワイル(林光編曲)/「三文オペラ」組曲
(アンコール)
5)ワイル(林光編曲)/「三文オペラ」組曲〜モリタート
●演奏
岩城宏之/Oens金沢/吉村智子(Hp*2)/マイケル・ダウス(Vn*3)
プレトーク:林光

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,「20世紀の音楽」「新作」「地元石川県」の3つにこだわったオーケストラですが,今回はその方針をそのまま表したようなプログラミングでした。マイナーな曲ばかり並んでいたので(まだ外は寒いし),会場は満席にはならないだろうと予想していたのですが,意外なことにほぼ満席でした。OEKの活動が金沢市民に理解されているようで嬉しく思いました。

最初の曲は,コダーイのガランタ舞曲でした。実に堂に入った演奏で,小編成にも関わらず非常に堂々とした雰囲気がありました。さすがに岩城さんの指揮の時は,OEKはいつも音が良く鳴ります。テンポの動きが確信に満ちている上,各楽器の響きが強靭なのが素晴らしいと思いました。冒頭のチェロ,ホルンのソロもそれぞれ素晴らしかったのですが,何といってもその後に出てくるクラリネットの聞かせるソロが見事でした。華のあるソリストが演奏しているようでした。

2曲目は,ピエルネのハープ協奏曲でした。原タイトルは"Concertstuck pour harpe et orchestre"ということで,ドイツ語とフランス語が混ざっているのですが,フランス風の響きをドイツ風の形式にまとめたといった感じのなかなか良い曲でした。ハープ・ソロの吉村さんは,金沢市出身の若い女性です。このホールはハープを聴くには大き過ぎるので,全般にやや地味な印象を持ちましたが,小協奏曲という慎ましさには相応しく思いました。冒頭の木管の和音からしてフランス風なのですが,全般にオーケストラの方にはもう少しスマートな雰囲気があると良いと思いました。演奏後の拍手は暖かいものでした。

後半は,今年生誕百年のワイル特集です。ステージ上は,休憩中に弦楽器の椅子が取り払われ,管楽器と打楽器だけになってしまいました。妙に前の方に空間が空き,少々妙な感じでした。曲は「どうしてこれだけ晦渋にしないといけないかな」というくらい難解な雰囲気を持った作品でした。ただし,形式的には古典的な感じで,しかも,ダウスさんはいつもにも増してムラなく美しい音で演奏していたので,聴きやすくはなっていました。ヴァイオリン・ソロは細かく速い動きが多く,演奏するのはとても大変だったと思います。編成は管・打楽器10人余り+ヴァイオリン・ソロという室内楽に近い編成だったのですが,その割に聴いた印象は普通のオーケスラ伴奏の協奏曲とあまり変わりませんでした。なかなか不思議な曲です。中間の楽章で木琴のソロが入るのも印象的でした。ただ(演奏した人には申し訳ないのですが),もう一度聴きたいとはあまり思わないような作品でした。

最後の曲は,林光さんがOEKの編成にあわせて編曲した「三文オペラ」組曲でした。ワイル自身,管楽オーケストラ用に「小さな三文音楽」という組曲を作っていますが,それと曲は大体同じですが,演奏の順番はかなり違います。林さんは,劇音楽をたくさん手がけているようなので,編曲者としてはふさわしいと思います。OEKの編成にぴったり合わせるあたり,「さすが座付き作曲家(コンポーザー・イン・レジデンス)」という感じです(ちなみに。プレトークも林さんでした。全部聴けなかったのですが,ピアノの弾き語りでマック・ザ・ナイフを演奏していました。歌の方もなかなかのものでした)。

前のヴァイオリン協奏曲と比較すると当然のことながら,とても聴きやすい音楽でした。同じ作曲家と思えないほどでした。前の曲ではかなり緊張していたと思われる管楽器群も力を抜いて演奏していたようで,非常に気持ちよい響きを出していました。このことは,木管楽器で手回しオルガン風の響きを出していたモリタートでよく表れていました。このモリタートの中間部に出てきた太鼓の音が,変な音だったのでじっと見てみると何とOEK名物の募金用ポリ・バケツを叩いていました。この辺のチープさも意識的にやっていたようです。「大砲の歌」ではドンと大太鼓が鳴ったり,とても分かりやすい編曲でしたが,全般に気持ち良すぎて,毒気が抜けているような気もしました。冒頭の序曲などは弦楽器が入った分,バロック時代の管弦楽組曲の序曲のような雰囲気もありました。唐突にハッピーエンドとなる最後のコラールも同様でした。間に挟まれた曲はミュージカル風な感じで,これはこれで,ワイルらしさなのかなと思いました。

というわけで,OEKらしいプログラミングだったのですが,最初のガランタ舞曲の響きがいちばん充実していたので,最後の曲の方が軽い印象を持ちました。やはり,メインは交響曲の方がいいな,というのが正直なところです。

PS.なお,この日のプログラムのうち,1曲目が林さんの「トレヌス(哀歌)」になった演奏会が16日に東京で行われます。こちらの方がプログラムのまとまりは良いかもしれません。