第5回石川県新人登竜門コンサート
00/4/9 金沢市観光会館

1)シベリウス/ヴァイオリン協奏曲ニ短調,op.47
2)ハイドン/チェロ協奏曲第2番ニ長調,Hob.VIIb-2
3)プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調,op.63
●演奏
藤原朋代(Vn*1),高田剛志(Vc*2),水上由美(Vn*3)
岩城宏之/Oens金沢

金沢では,毎年4月の第2日曜日に,浅野川宴遊会という春らしい祭が行われるのですが,それと同じ日にオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の新人登竜門コンサートも行われます。今年も,浅野川沿いで着物姿の人々を眺めてきた後,こちらのコンサートに出かけてきました。天気が良かった上,衛星放送で生放送されるということもあり宴遊会の方は非常に賑わっていましたが,コンサートの方もほぼ満席でした。この新人登竜門コンサートというのは,石川県関係者の中からオーディションを行い,合格した人がOEKと共演できるというものなのですが,だんだん市民の中にも春の行事の1つとして浸透してきたようです。

今年は,弦楽器部門で,3人の若い人が登場しました。

最初は,藤原朋代さんによるシベリウスでした。OEKでこの曲を演奏するにはトロンボーン3本とホルン2本を増強しないといけないので,定期演奏会では取り上げられたことはありません。そういう点で楽しみにしていたのですが,「難曲だ」ということを再認識するという残念な結果になりました。冒頭のヴァイオリン・ソロは,よく通る音で「なかなか良い」と思ったのですが,曲が進むにつれて高音部の音程が不安定なのが目立ってきました。第3楽章では止まってしまうのではないか?と思うほど危ない箇所があり,ハラハラし通しでした。オーケストラの方は,全般にかなり増強されていたので,昨年聴いたラハティ交響楽団に近いぐらいの中規模になっていました。クライマックスでの音量など充実しており聴き応えがありましたが,その分ソロがこの響きに耐えられるか,と妙な心配をしてしまいました。

2番目は,高田剛志さんによるハイドンでした。こちらの方はステージ・マナーからして落ち着いていました。この曲も高音部が続出する難曲なのですが,こちらの方は,大変うまく弾きこなしていました。ただ,全般に華のない演奏でした。低音楽器なので地味になるのは仕方がないのですが,アンサンブルの中に埋没気味でした。その辺は,演奏者の意図なのかもしれないのですが,チェロ特有の強い歌い回しをもっと味わってみたいと思いました。高音部になるとリタルダントしながら,ディミヌエンドをするようなパターンが耳につき,繊細さよりは弱々しさを感じました。とはいえ,オーケストラ伴奏の響きは非常に清澄でストレートで,それによく溶け合ったソロというのも悪くはありませんでした。

後半の水上由美さんのプロコフィエフは,この日の演奏の中でいちばん聴き映えがしました。どこに持って行っても誉めてもらえるようなレベルだったと思います。意外なことにこの曲の編成は2管編成で,OEKの通常の編成のままでも演奏できるので,もしかしたら,この組み合わせでまたこの曲を演奏する機会があるかもしれません(ちなみにこの曲をOEKが取り上げるのも初めてだと思います。)。

まず,全体に瑞々しい雰囲気が溢れているのが,非常に魅力的でした。この曲には暗いのか明るいのかよくわからない不思議な魅力があり,弾き方によっては,悪魔的な感じにもなるのかもしれませんが,この日の演奏は,非常に素直な感じでした。それが不満に感じる人もいたかもしれませんが,それを上回る若々しい魅力がありました。若いヴァイオリニストにしかない特権かもしれません。技巧的にも非常に安定しており,セレナード風の第2楽章の高音の美しさなどはゾクっとしました。カスタネットが入る第3楽章もなかなか楽しめたのですが,この辺はもっと華やかな方が良いかなとも思いました。

OEKでは,毎年新曲を取り上げていますが,地元の新人を発掘することにも大変熱心です。今日聴いたような人達がOEKと共演することによって,世界に通用するレベルに育っていくといいなと毎年思っています。