ウェルカム・スプリング・コンサート
00/4/23 石川厚生年金会館

1)モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調,K.297b〜第1楽章
2)モーツァルト/ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491
3)ロッシーニ/歌劇「セヴィリアの理髪師」序曲
4)ヴィヴァルディ/フルート協奏曲ニ長調「ごしきひわ」〜第1楽章
5)カーマイケル/スターダスト
6)榊原栄/キッチン・コンチェルト
7)ベートーヴェン/ロマンスヘ長調,Op.50
8)テレマン/2つのヴィオラのための協奏曲ト長調
9)チャイコフスキー/アンダンテ・カンタービレ
(アンコール)
10)サン=サーンス/白鳥
11)シューベルト/軍隊行進曲
●演奏
ゲアノート・シュマルフス/OEns金沢
水谷元(Ob*1),遠藤文江(Cl*1),金星眞(Hrn*1),柳浦慎史(Fg*1)
小野隆太(Pf*2),岡本えり子(Fl*4),谷津謙一(Tp*5),渡邉昭夫(Perc*6)
サイモン・ブレンディス(Vn*7),サンドラ・パップ,石黒靖典(Vla*8)
大澤明(Vc*9),テオドール・プラッツ(Cb*10)
大熊砂絵子(司会)

このところ,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,地元の聴衆との距離を縮めるような活動を盛んに行っているのですが,この日のコンサートは,年に一度のお客様感謝デーといった雰囲気の面白い演奏会でした。プログラムを見ていただければわかるように,OEKの楽器のすべてがソリストとして登場するような素晴らしい(?)内容です。ソロを担当した各奏者に対するインタービューもあり(もう少し気のきいた質問をしてほしかったですが...),聴きに来ていた人は,OEKへの親近感がさらに増したと思います。「団員すべてがソリスト」というコンセプトの企画は,これからも続けて欲しいと思います。

前半は,モーツァルトの協奏曲2曲でした。

最初の協奏交響曲は偽作だと疑われているもので,私がCDで持っているマリナー指揮のものとはかなり内容が違います(マリナーの方がレヴィン版という変わった版なのですが)。マリナー版では,クラリネットの代わりにフルートが入っており,全然別の曲のようになっています。OEKの木管奏者たちはそれぞれ新鮮な響きを出しておりとても気持ちの良い演奏でした。

次のピアノ協奏曲のソロは,金沢大学教育学部の助教授の小野さんでした。透明感のある響きで率直に演奏されていましたが,全般に味が薄い気がしました。この曲はモーツァルトの曲の中でも特にベートーヴェン的な雰囲気がある曲なので,もっと暗い情念のようなものを聴いてみたいと思いました。この曲の演奏後,有珠山噴火被災者のための募金(おなじみのバケツ募金です)があり,団員と一緒に小野さんもバケツを持って会場を回っていたのですが,その時に学生が「先生,先生」と集まってきて,なかなか,微笑ましい風景が見られました。

後半は,小曲ばかりでした。
最初のロッシーニは,テンポの動かし方が独特でした。指揮のシュマルフスさんは非常に大柄の方なのですが,例のロッシーニ・クレッシェンドをかける時などひざと背中を曲げ,とても小さくなっていたので,見ているだけで楽しめました。

以下は,次々と団員がソリストとして登場しました。なんとなく,NHKのど自慢的な雰囲気もありました。

それぞれ面白く聴けたのですが,特に印象に残ったのは,トランペットと打楽器とチェロでした。OEKの主なレパートリーの中でトランペットが派手に活躍する曲は少ないので,こういう機会はトランペット奏者にとってはとても嬉しい機会だったと思います。谷津さんの演奏は,非常にこなれており,見事でした。盛大な拍手を浴びていました。

渡邉さんの演奏したキッチン・コンチェルトは石川県のジュニア・オーケストラの指揮者としてもお馴染みの榊原栄さんの作品です。台所にある鍋,フライパン類を音階が出せるように並べ,あれこれバチを変えて器用に演奏する,という宴会芸的な作品で,これも,大変ウケていました。曲想はルロイ・アンダーソン風で,とても巧くできています。

チェロの大澤さんによるアンダンテ・カンタービレはソウル・フルな演奏で,演奏会をきっちりと締めてくれました。この方のチェロは,外見も含めて,無骨な雰囲気があるのですが,気合いが入っているのが伝わってきて私はとても好きです。

その他,フルート,ヴィオラ,コントラバスなどのソロもそれぞれ楽しめました。最後に文字通り縁の下の力持ちといった雰囲気のあるコントラバスのプラッツさんが出てきてくれたのも嬉しかったです。

今回のゲスト・コンサート・マスターは,イギリス室内管弦楽団,アカデミー室内管弦楽団のサイモン・ブレンディスさんでしたが,そのソロも素晴らしいものでした。細身の磨かれた音が見事でした。

演奏会の後,OEKと友の会会員との交流パーティーもあったのですが(私は不参加でしたが),こういう演奏会は,楽団員が身近な存在になるので,是非,恒例行事にしてもらいたいものです。