オーケストラ・アンサンブル金沢第90回定期公演A
00/4/28 金沢市観光会館

1)シューベルト/歌劇「謀反人たち」D.787〜序曲
2)ショパン/ピアノ協奏曲第2番ヘ短調,op.21
(アンコール)
3)プロコフィエフ/舞踏会へ向かう王子とシンデレラ
4)シューベルト/交響曲第1番ニ長調,D.82
(アンコール)
5)シューベルト/5つのドイツ舞曲第1番
6)シューベルト/交響曲第1番ニ長調,D.82〜第3楽章
●演奏
ゲアノート・シュマルフス/Oens金沢
清水和音(Pf*3,4)
サイモン・ブレンディス(コンサート・マスター)
小林宗生?(プレトーク)

今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会は,見るからに地味なプログラムだったのですが,予想外に盛り上がりました。拍手がなかなか止まず,清水和音さんのアンコールも含めると3曲もアンコールがありました。その理由は,指揮者のシュマルフスさんとOEKの相性の良さに尽きると思います(清水さんの素晴らしさは言うまでもありませんが)。

この日のOEKの編成は,若杉弘さん指揮のモーツァルトのレクイエムの時と同様の変則配置でした。下手から第1Vn,Vc,Vla,第2Vnと並び,Cbは第1Vnの奥でした。その代わりにHrnは上手奥に行っていました。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの掛け合いの面白さは感じませんでしたが,低音がよく聞こえてきたような気がしました。

最初の曲は,演奏されるのがかなり珍しい曲です。もちろん初めて聴く曲です。素朴な中に時々,翳が感じられるような曲でなかなか良い曲でした。シュマルフスさんはとても大柄で,指揮台を使いません。素朴な雰囲気の方でその雰囲気がそのまま音となって表れているような気がしました。ホルンがいつもより遠い場所にいたので,冒頭の音がずれたように感じましたが,気のせいかもしれません。

2曲目の清水和音さんのソロによるショパンは見事な演奏でした。巨匠の演奏と言っても良いと思います。テクニックのキレもピアノの鳴り方も一段ランクが上という感じで,非常に聴き応えのある演奏でした。ショパンの協奏曲では一般に第1番の方の人気がありますが,こういう演奏で聴くと,第2番の方も立派な曲なんだなと思いました。

清水さんは特に変わったことをしているわけではないのですが,すべてに余裕があり,速いパッセージを含め,すべての音がコントロールの下にありました。それでいて,計算して弾いているような不自然さはありません。ピアノの音も大変美しく,全体としてゴージャスな印象を持ちました。楽章ごとの弾き分けも素晴らしく,第1楽章のおおらかさ。2楽章の深さ。3楽章のきらめき。どれも聴き応えがありました。特に3楽章最後の速いパッセージの軽やかさときらびやかさは圧倒的でした。

オーケストラの方は,所々,見得を切るようにテンポを落とすところがありました。これはシュマルフスさんの特徴だと思います。特に,3楽章のホルンの信号が出てくる直前の休符ではかなり派手にテンポを落としていました。その後のホルンも力強く決まり,まさに大見得という感じでした。

というわけで,清水さんの素晴らしい演奏に対して拍手が続き,アンコールが演奏されました。聴いたことのない曲でしたが,すぐに旧ソ連の作曲家の曲だとわかるようなワルツでした。この演奏もまた圧倒的な演奏でした。威圧的と言って良いほど強靭な音で(それでいて美しい響き),ショパンの印象が吹き飛びそうでした。弦をハンマーで叩いているのがわかるような音でルービンシュタイン,ホロヴィッツといった巨匠が弾きそうなヴィルトーゾ風の演奏だったと思います。

後半のシューベルトは,この素晴らしいショパンを受けてどうなるかと思いましたが,見事に盛り上がりました。OEKはシューベルトの曲を演奏するには最適の編成なので,良い演奏で当たり前のようなところがあるのですが,この日の演奏は,それに加え全曲に渡り暖かい雰囲気に溢れていました。指揮者とOEKとの相性の良さが心地よい熱気として表れていたようでした。

冒頭から快適なテンポで始まりました。トランペットの高音が目立ち,ピッコロ・トランペットか何かを使っているようでした(家にあるCDでは目立たないのですが)。それが独特の壮麗さを出していました。コントラバスのバチンという感じの強い響きも印象に残りました。

繰り返しはきちんと行っていたようでしたが,基本的に快適なテンポだったので長いとは感じませんでした。ショパンの時もそうだったのですが,第1楽章は,第2主題になるとテンポをぐっと遅くしていました。常套的なのかもしれないですが,嫌味な感じはせず,むしろ音楽がわかりやすく,親しみやすくなっていました。

3楽章の前半は私の家にあるCDの倍ほどのテンポでした(楽譜の版の違い?)。ただ,トリオは,非常にたっぷりと演奏されていました。自在なテンポ感が素晴らしく,木管の名残惜しい響きが印象に残りました(3楽章はアンコールでも演奏されましたが,さらに自在な演奏になっていました)。一般的にメヌエット楽章ついては,私はテンポが遅い方が好きなのですが,この日の演奏のように見事な対比が聴かれるのも良いなと思いました。

楽章を追うごとに熱がこもって来たようで,地味な曲なのに4楽章では,素晴らしい高揚感を感じました。シューベルトらしい爽やかさが,熱気と相俟って非常に心地良い雰囲気に満たされました。

というわけで,拍手がなかなか止まず,2曲もアンコールがありました。最初の曲は弦楽合奏のみで,自在にテンポを動かした舞曲でした。美しく磨かれた弦の音色を堪能できました。

シュマルフスさんが定期公演に登場するの今回が初めてですが,これまでに何度か共演しており,お互いに気心が知れあっているようです。今回のお客さんの反応からすると,これからもOEKに客演してくれるような気がします。