オーケストラ・アンサンブル金沢第92回定期公演B 1)モーツァルト/交響曲第38番ニ長調,K.504「プラハ」 2)モーツァルト/フルート協奏曲第2番ニ長調,K.314 3)モーツァルト/フルートと管弦楽のためのアンダンテハ長調,K.315 (アンコール) 4)ドビュッシー/パンの笛 5)モーツァルト/交響曲第39番変ホ長調,K.543 (アンコール) 6)モーツァルト/レ・プティ・リアン〜パントマイム ●演奏 岩城宏之/Oens金沢/工藤重典(Fl*2-4) マイケル・ダウス(コンサートマスター) 江村哲ニ(プレトーク) 今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会は,東京と名古屋で定期的に行っているモーツァルト・シリーズにあわせての演奏会です。このシリーズでは,初期の交響曲から順に演奏してきたのですが,いよいよ後期三大交響曲に入って来ました。 今回のプログラムは,交響曲2曲の間にフルート協奏曲を挟んだもので,後半がやや軽いのですが,シンメトリカルでまとまりの良いものでした。 岩城さんのモーツァルトは,オリジナル楽器による演奏の影響を受けたような新奇さはないのですが,その点がかえって「気概があるな」という,良い意味での頑固さを感じさせます。近頃では,聴けそうでなかなか聴けないモーツァルトだと思います。2曲の交響曲とも,繰り返しは全部無し,すべての音をしっかりと演奏させ,全体はイン・テンポ,という解釈で一貫していました。 プラハ交響曲は,スカッとした響きのやや速目のテンポの序奏で始まりました。マイケル・ダウスさんがコンサートマスターの弦楽器群はキレよく,ピタリと揃っており,非常に充実していました。音の動きが速くなるほど冴えるような気がしました。この曲特有の翳のある響きも聴け,充実感が残りました。ただ,強奏部分は,少々ぶっきらぼうな印象を持ちました。コントラバスは2本だけなのですが,かなり強く演奏していたようで,弦を擦るノイズがかなり聞こえました。ティンパニの音はもう少しカラっとした音の方が私は好みです。2楽章もさらりとしたテンポでしたが,しっかり演奏していたせいか,淡白な感じはありませんでした。慌てないテンポの3楽章は,余裕たっぷりの演奏でした。 続く,フルート協奏曲は,工藤重典さんがソロでした。素晴らしいフルートの音を聴くと刺身に喩えたくなってしまうのですが,今回の工藤さんの音色も,脂の乗った刺身(もちろん生臭くない)のようでした。しかも贅肉がなく,すべての音にムラがありませんでした。音を聴くだけで満腹しました。フルートの音は,音量の面では他の管楽器よりは弱いので,オーケストラの編成は少なめになっていましたが,工藤さんの演奏は,大ホールで聴いても華やかさの感じられるものでした。この曲はいちばんよく演奏されるフルート協奏曲の一つなので,当然,工藤さんの演奏も,完全に手の内に入った内容でした。自由な雰囲気に溢れており,カデンツァをはじめとして,自在に演奏していました。それを,OEKがきっちりとした伴奏でひきしめており,対比の面白さがありました。 続く,アンダンテでは,さらに音の艶が増していたように感じました。ゆっくりした曲なので音色の美しさを一層堪能できました。曲の並びからすると,この曲自体アンコールのような位置付けでしたが,この後に,本当のアンコールがありました。ドビュッシーのパンの笛もよく演奏される曲で,モーツァルト同様,自在さに溢れた演奏でした。特に,最後のp>pp>pppという感じの音量の変化が見事でした。お客さんもじっくりと耳を澄ませていました。 後半の39番もプラハと同様の演奏でした。後半が1曲なので,提示部の繰り返しをするかなと思っていたのですが,1楽章も4楽章も繰り返し無しで,解釈が徹底していました(私は,一般に繰り返しの無い方が好きなのですが,39番の第1楽章に関しては繰り返しの有る方が好きです。何度も聴きたくなる素晴らしい旋律なので)。クラリネットが一瞬変な音を出したりして,一瞬ドキリとしましたが,3楽章の中間部の方の演奏は見事でした。クラリネットとフルートのエコーの表情付けも大きく,とても分かりやすい演奏でした。39番の第4楽章はプログラム全体を締めるフィナーレとしては,弱い面もあるのですが,フッと途切れるような終わり方も余韻があって,腹八分目的気持ち良さがありました。 39番は,実は,モーツァルトの交響曲の中で,私のいちばん好きな曲です。子どもの時は,この4楽章の終わり方が唐突で好きではなかったのですが,聴けば聴くほど,好い曲だと思うようになってきました。明るく,美しいけれども,悲しさ,はかなさも同時に感じます。岩城さんの演奏からは,優美さとか色気はあまりありませんでしたが,はしゃぎ過ぎないないような落着きがありました。ベテランらしい良い演奏だったと思います。 アンコールには,レ・プティ・リアンのパントマイムが演奏されました。アンコールにぴったりの曲の非常に楽しめる演奏でした。 |