オータム・チェンバー・コンサート
00/9/18 金沢市芸術ホール

ハイドン/弦楽四重奏曲第79番ニ長調,op.76-5
モーツァルト/弦楽四重奏曲変ロ長調,K.458「狩」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番ハ長調,op.59-3「ラズモフスキー第3番」
(アンコール)
ハイドン/弦楽四重奏曲第77番ハ長調,op.76-3「皇帝」〜第2楽章
●演奏
サンライズQ(マイケル・ダウス,坂本久仁雄(Vn),石黒靖典(Vla),大澤明(Vc)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,団員による室内楽の活動も頻繁に行っているのですが,その中でも「ザ・サンライズ・クワルテット」という名前をつけて活動しているマイケル・ダウスさんを中心としたアンサンブルはいろいろな場所で演奏会を行っています。この弦楽四重奏団の演奏を聴くのは,ちょうど2年前,3年前の9月に続いて3回目になります。「朝夕涼しくなるころに,OEKの弦楽四重奏を聴く」というのが恒例になりつつあるようです。金沢で弦楽四重奏を聴く機会は少ないので,この演奏会はずっと続けてほしいなと思います。私はこの季節が好きなので,リラックスした気分で楽しむことができました。

サンライズ・クワルテットは,ハイドンのop.76の6曲(エルデーディ四重奏曲と呼ばれているものです)の中から標題のついたものを3曲を集めたCDを出しているのですが,今回最初に演奏された曲は,このCDには収められていないop.76の5でした。冒頭からして,6/8拍子ののどかな曲でなかなか良い雰囲気が出ていました。続く第2楽章のラルゴも同様でしたが,より深い響きが出ていました。ただ,3楽章,4楽章あたりはもう少し切れ味がある方が良いと思いました。このクワルテットは第1ヴァイオリンのダウスさんがリーダーシップをしっかり取るようなタイプの団体ですが,ハイドンの曲だと,あまりに,そのことが強調されるようです。ダウスさんの鮮明な音ばかりが耳につき,その他の楽器がくすんで聞こえるような気がします。4楽章などは,ハイドン独特のユーモアがあると思うのですが,その辺を出すのもなかなか難しいと思いました。

続くモーツァルトの「狩」は,「ハイドン・セット」の中の曲で,しかも,第1楽章がやはり6/8拍子ということで,前の曲との繋がりがある曲でした。第1楽章は,表現意欲の強い演奏でした。冒頭の狩の主題も朗々と歌う感じではなく,短めに切るようなアーティキュレーションで,なかなか面白いと思いました。時々出てくる,ダウスさんのぐっと力こぶを作るような力のこもった弾き方も楽しめました。それ以外の楽章は,速目でそっけない感じでしたが,中間楽章の静かで深い響きは魅力的でした。最終楽章はハイドン同様,もう少しキレの良さがあるといいなと思いました。

後半は,ベートーヴェンのラズモフスキー第3番でしたが,作品の力のせいか,ハイドン,モーツァルトよりも聴き応えがありました。曲自体,第1ヴァイオリン主導型でないのもその理由だと思います。冒頭の意味ありげな響きからして充実していました。第2楽章に一貫して聴かれるチェロのピチカートも迫力がありました。ハイドンの曲もモーツァルトの曲も良いのですが,演奏会で並べて聴くと,やはり,ベートーヴェンの方が聴き映えがするなと思いました。最終楽章のフーガも迫力がありました。これは生ならではの迫力だと思います。最終楽章中間部の生き生きした表情や声部間の対話も楽しめました。この曲を生で聴くのは二回目なのですが(最初に聴いたのはずっと前なので印象は残っていないのですが),これほど楽しめる曲だとは思いませんでした。OEKは,確か昨日東京で演奏会をしていたはずなので,お疲れも残っていたと思うのですが,そういうことを感じさせない,伸びやかで勢いのある演奏だったと思います。

というわけで,ハイドン,モーツァルト,ベートーヴェンという3人の古典派の大作曲家の3曲をじっくりと楽しむことができました。プログラム的にもまとまりが良く,濃密でありながら,リラックスできるという弦楽四重奏を生で聴く魅力を十分に味わうことができました。

アンコールにはハイドンの皇帝の第2楽章が演奏されました。各奏者のソロが順に出てくるので,アンコールには相応しい曲でしたが,なんとなくピッチが揃っていないような感じで,ふやけた印象でした。どうせならラズモフスキーの最終楽章あたりをもう一度聴いてみたいと思いました。