オーケストラ・アンサンブル金沢第96回定期公演B
00/10/28金沢市観光会館

1)ドビュッシー(ビュッセル編曲)/小組曲
2)フォーレ/ピアノと管弦楽のための幻想曲,op.111
3)サン=サーンス/アレグロ・アッパシオナート,op.70
4)ビゼー/交響曲ハ長調
(アンコール)
5)シャブリエ/田園組曲〜村の踊り
●演奏
ジャン=ピエール・ヴァレーズ/Oens金沢
若杉由香(Pf*2,3)

アビゲール・ヤング(コンサート・ミストレス)
ジャン=ピエール・ヴァレーズ(プレトーク)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のプリンシパル・ゲストコンダクターのジャン=ピエール・ヴァレーズさんがOEKに登場して約9年になるのですが,この日の演奏会でこの地位の契約が終了するというアナウンスが開演前にありました。というわけで,一種の「お別れ演奏会」となりました(といっても2002年に再度客演予定があるそうですが)。OEKとヴァレーズさんとはフランス音楽を中心に演奏してきましたが,この日のプログラムもすべてフランスものでした。

最初のドビュッシーの小組曲は,ピアノ連弾曲をビュッセルがオーケストレーションしたものですが,ヴァレーズさんは,このビュッセルにパリ音楽院時代に会ったことがあるそうです(プレトークでそうおっしゃっていました)。その時,ビュッセルはかなりの高齢だったそうですが,そういうつもりで聴くと「本場の有り難い演奏」に思えました。全般にじっくりとしたテンポでしたが,冒頭のフルートからして,非常にさっぱりとしていて気持ちの良い演奏でした。愛情のこもった表情にも溢れ,聴いていて幸福感に満たされてくるような演奏でした。フォルテでうるさくなることもなく,演奏会の冒頭にふさわしい曲であり演奏でした。

続く2曲には昨年の石川県新登竜門コンサートに登場した若杉由香さんのピアノ独奏でした。若杉さんは,金沢大学出身ということもあり,個人的に親近感を持っています。

今回の2曲は,かなり渋めの選曲で,それほど演奏効果の上がる曲ではなかったので,若杉さんにとっても一種の挑戦だったのかもしれません。両曲とも美しい音で滑らかに演奏されていたのですが,残念ながら強い印象は残りませんでした。フォーレの方が曲の規模が大きく,協奏曲に近い感じでしたが,曲の盛り上がりがどこにあるのかよくわかりませんでした。最後の音もピアノとオーケストラでズレていたようで,何となくすっきりしませんでした。サン=サーンスの方は曲名からすると,かなり派手そうだったのですが,こちらもそれほど華やかではありませんでした。若杉さんの音は軽やかで,フランス音楽には合っていると思うのですが,その軽さが味の薄さのように感じられました。というわけで,室内楽やソロでの演奏の方が良いかなと思いました。

後半のビゼーは,OEK十八番(私が勝手に考えているだけですが)の一つの曲で,OEKの歴史の節目節目で演奏されています。今回もやはり節目ということになりました。というわけで,「良くて当たり前」の曲なのですが,やはり,期待どおりの見事な演奏になりました。

まず,ティンパニがいつもと違う人なのが目につきました。曲の冒頭の「ジャン」からして重めの音で,いかにもタイコという感じでした。個人的にはもう少し軽い音の方がOEKには合うと思うのですが,これから馴染んでいくことでしょう。ただ,ヴァレーズさんの指揮はややルーズな感じがすることもあるので,こういう音の方が演奏が引き締まるかもしれません。

この日の白眉は何と言っても,第2楽章でした。この楽章のオーボエのソロを聴くと,いつも「いいな」と思うのですが,この日は特に良かったと思います。非常に伸びやかで素直な演奏で,若々しいこの曲の雰囲気にぴったりでした。オペラ・アリアのように流れる演奏は,ずっと続いて欲しいと思うくらいでした。この日の第1オーボエは加納さんという女性だったのですが,もちろん,演奏後,ヴァレーズさんをはじめ団員から盛大な拍手を浴びていました。「加納さんはOEKの宝だ」と,つい熱狂的に思ってしまいました。その他,ホルンの高音も美しかったし,この日のOEKの管楽器群は充実していたと思います。第2楽章の中間部の情感のこもったヴァイオリンの美しさも聴き応えがありました。

第3楽章の田舎風の雰囲気も良かったのですが,第4楽章の軽さには唖然とするほどでした。この日のコンサート・ミストレスはゲストのヤングさんだったのですが,速いパッセージを見事にまとめていたと思います。速く軽いだけでなく,表情も豊かで,まさにプロの演奏という感じに仕上がっていました。

アンコールの曲は,初めて聴く曲でしたが,後で張り紙を見ると,シャブリエの田園組曲の中の「村の踊り」という曲でした。いきなり,クラリネット2本の強いユニゾンで始まる曲でとても面白い曲でした。原色的な音に溢れており,是非,今度全曲を聴いてみたいものです。

最後に団員及び事務局の女性からヴァレーズさんに花束を2つ手渡され(フランス人らしく熱烈な抱擁及びキスで,お2人とも戸惑い気味?),盛大な拍手の中で閉演になりました。時間的にも短かったこともあり,さっぱりとした後味の残る良い演奏会になりました。