オーケストラ・アンサンブル金沢アートホール・シリーズ
Bach Mozart Two concerts

00/11/13金沢市アートホール

1)バッハ,J.S./オーボエ・ダモーレ協奏曲イ長調,BWV.1055
2)バッハ,J.S./フルート,ヴァイオリン,チェンバロのための協奏曲イ短調,BWV.1044
3)バッハ,J.S./ブランデンブルク協奏曲 第6番 変ロ長調,BWV.1051
4)モーツァルト/弦楽五重奏曲第4番ト短調,K.515
(アンコール)
5)モーツァルト/弦楽五重奏曲第4番ト短調,K.515〜第2楽章
●演奏
原田智子(Vn*2,4,5),大隈容子(Vn*1),江原千絵(Vn*1,2,,4,5)
シャンドール・パップ(Vla*1,3-5),石黒靖典(Vla*3),軍司玲美子(Vla*3,4,5),アニタ・ヴチェティチ(Vla*2,3)
十代田光子(Vc),今野淳(Cb),シルヴィア・エレク(Cem*1-3),上石 薫(Fl*2),加納律子(Ob*1)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は室内オーケストラのくせにバロック音楽を演奏する機会は非常に少ないのですが,団員の間では,バロック音楽をもっと演奏したいという要望が多いようで,たまに定期演奏会でバロック音楽を演奏する時はいつも意欲にあふれた演奏を聴くことができます(ただし,いつもの大ホールだとそれほど演奏効果が上がらないのですが...)。今回のOEKメンバーによる室内楽の演奏会は,これからOEKはバロック以前の音楽をどんどん演奏するようになるのではないか,と期待を持たせるような演奏会になりました。

今回の演奏会は,ヴィオラのシャンドール・パップさんが中心になったアンサンブルのようで,OEKのヴィオラ奏者は全員参加していました。

前半はバッハの渋めの曲によるプログラムでした。

最初のオーボエ・ダモーレ協奏曲というのは初めて聴く曲でした(チェンバロ協奏曲と同じ曲のようです)。オーボエ・ダモーレという楽器のソロを聴くこと自体も初めてです。加納さんの音色はいつもながら伸びやかでした。オーボエよりは甘い感じの音で,その辺が「ダモーレ」と呼ばれる由縁かなと思いました。ただし,演奏全体のリーダーシップを誰が取っているのかよくわからず,いつのまにか曲が終わってしまった感じでした。オーボエ・ダモーレの音の印象は残ったのですが,曲全体としての印象はあまり残りませんでした。コントラバスの音ももたれて聞こえ,まだエンジンがかかっていない感じでした。弦楽器はヴィブラートを少なめにして演奏していましが,脱力して,緊張感がないだけのようにも聞こえてしまいました。

2曲目も初めて聴く曲でした。この曲では,ヴィオラのパップさんが指揮をしていました。それほど大きい編成ではないのですが,ソロが3人もいたので,その方が演奏しやすいのかもしれません。演奏の方も1曲目よりは,表現にメリハリがあり楽しめました。全体に弦のピチカートが耳につき,面白い効果を上げていました。上石さんのフルートは黒っぽい色をしていたので,もしかしたら金属製ではないのかもしれません。フルートの音色と弦楽器の音とがよく溶け合っていたと思います。短調の曲で耳にひっかかるような曲でしたが,こちらの方も,全体としては散漫な感じがしました

3曲目のブランデンブルク協奏曲第6番は打って変わって力感のある演奏でした。前2曲と比べると迫力が全然違い,意表を突かれました。この曲を生で聴くのも初めてだったのですが,この日の演奏は,非常に元気で,攻撃的な演奏でした。この曲はヴィオラ以下の楽器だけで演奏される変わった編成の曲で,地味なイメージを持っていたのですが,それが覆され,冒頭から速いテンポで演奏され,アタックの強いアクセントが耳に残りました。冒頭部分は,音がもやもやと響き合うようなイメージを持っていたのですが,この日の演奏は,ロックのリズムに近いような鮮烈さがありました。パップさんは,名前からすると,ハンガリー人だと思うのですが,この辺の強いリズム感というのは,パップさんのリーダーシップによるのかもしれません。完璧な演奏ではなかったと思いますが,アピールする力の大きい演奏で,非常に楽しめました。バロック音楽は,編成は小さいとはいえ,演奏をまとめるリーダーシップの有無が,演奏の面白さを大きく左右すると感じました。というわけで,これからも「リーダー奏者+OEK」という形で,バッハの他の作品も聴いてみたいものだ,と期待を持ちました。

後半は,モーツァルトの弦楽五重奏曲でした。やはり,この曲の方が演奏の密度は高いような気がしました。それだけ,この曲は名曲なのだと思います。

この曲では,第1ヴァイオリンの原田さんの音が目立っていました。冒頭からしてハッとさせるような演奏でした。バッハの時同様,ヴィブラートは少な目でスリムでクールな雰囲がありましたが,演奏のメリハリは効いており,芯の強さを感じさせる演奏でした。原田さんの体の動きは非常に機敏なので,演奏全体も原田さんが引っ張っているような印象を持ちました。

第2楽章は,かなり速目のテンポで,とても新鮮な雰囲気のある演奏でした。メヌエットということなのですが,踊りの速さではなく,第1楽章の雰囲気の延長のような印象でした。この楽章がいちばん個性的だったと思います。すべて弱音器付きで演奏された第3楽章では,後半で出てくる,天上から響いてくるような美しいヴァイオリンの響きが印象的でした。第4楽章は暗い序奏の後のロンド主題が非常にしなやかでした。このロンド主題は,かなり唐突に出てきますが,このようにしなやかに演奏されると,短調から長調への推移が非常に滑らかに感じられました。ただし,4楽章になると原田さんのヴァイオリン音に慣れて来て,少々飽きてくるような気もしました。

とはいえ,原田さんの演奏は,見事だったと思います。原田さんは,OEKの首席奏者ではないのですが,そういう方が「普通の奏者」であるOEKというオーケストラは非常に自発的な演奏能力のある団体なのだと改めて感じました。

今回の演奏会では,全体にヴィヴラートを控え目にし,新鮮な表現を目指していたようでした。恐らく,古楽器による演奏を意識していたのだと思いますが,それに,現代の楽器の表現力・音色の豊かさも加わっており,非常にトレンディ(死語?)な感じの演奏になっていたと思います。バッハについては,古楽器の指揮者を招いて演奏してみたら,きっともっともっと個性的な演奏になるのではないかと期待しています。OEKはそれだけの柔軟性と適応力を持っていると思います。