オーケストラ・アンサンブル金沢第97回定期公演B
00/11/24金沢市観光会館

1)ブトリー/アルカン(アルレキン)の衣装(古代風の舞踏組曲)
2)ルーセル/室内管弦楽のための協奏曲,op.34
3)トマジ/クラリネット協奏曲
4)グノー/交響曲第2番変ホ長調
(アンコール)
5)ラヴェル/組曲「クープランの墓」〜リゴードン
●演奏
ロジェ・ブトリー/Oens金沢
シルヴィー・ユー(Cl*3)
松井直(コンサートマスター)

今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会は,前回の定期演奏会に引き続きフランス物だけのプログラムでした。指揮者は,ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の指揮者のロジェ・ブトリーさんで,前回のヴァレーズさんに続いて,フランスの指揮者ということになります。まさに続編(というか双子)のようなプログラミングでした。前回も地味目の曲が多かったのですが,今回はさらにマイナーな曲が並んでいました。初めて聴く曲ばかり,しかも,ルーセル,トマジと普通の人が全然知らないような作曲家の曲が並んでいたせいもあり,客席にはかなり空席がありましたが,全体の雰囲気には統一感があり,十分楽しめる演奏会になりました。

最初の曲は,指揮者のブトリーさんの曲でした。吹奏楽指揮者のイメージのあるブトリーさんの曲が弦楽合奏の曲というのも,意外だったのですが,とてもよくできた曲でした。擬バロック的な感じの組曲で,非常に聴きやすい曲でした。ラヴェルのクープランの墓を思わせるようなタランテラがあったり,ヴァイオリンとチェロのデュオによるセレナードがあったり,とても洒落ていました。弦楽器の厚くなり過ぎず,キリっと締った響きが曲想によくあっていました。

次のルーセルの曲は,ハープが入っていましたがOEKの編成にピッタリでした。管弦楽のための協奏曲というタイトルですが,こちらの方もバロック時代の合奏協奏曲をイメージしていたのかもしれません。第1楽章はかなりゴツゴツした感じでしたが,野性的というよりは都会的で,洒落た雰囲気もありました。管楽器を中心にソロが次々出てくるのが楽しめましたが,全体の雰囲気が堅めで,曲を弾きこなしていないような気がしました。OEKならばきっともっと生き生きと演奏できると思います。第3楽章もあっけなくフッと終わってしまいました。こういうのがフランス風なのかな,とも思いましたが,ちょっと物足りなさが残りました(聴きこめば印象が変わるかもしれませんが)。中では2楽章の微妙で繊細な雰囲気がいいな,と思いました。

前半最後のトマジの曲は,シルヴィー・ユーさんのソロが最高でした。ユーさんは,ギャルドの首席クラリネット奏者でブトリーさんの奥様にあたります。ギャルドの演奏会は以前一度生で聴いたことがあるのですが,その時の印象が蘇ってくるような演奏でした。まさに「フランスの管」という感じの明快な音色とフレージングが爽快でした。特に高音に独特の美しさがありました。以前,カール・ライスターさんの演奏を生で聴いたことがありますが,それとはまさに対照的でした(曲自体も対照的でしたが)。トマジの曲の作風は,かなり現代的でしたが,このような明確な演奏で聴くと非常に説得力がありました。2楽章はロマンティックというわけではないけれども非常に耽美的で,ぐっと引き付ける魅力がありました。こういうのを官能的演奏と呼ぶのかなと感じました。3楽章は,終結部の切れ味の鋭さが印象に残りました。前のルーセルの曲でもユーさんのような明快さがあればもう少し楽しめたのかな,と後になって感じました。いずれにしても,ユーさんの派手過ぎない華やかさは,クラリネットという楽器の魅力の1つの極地なのではないかと感じました。

お客さんの拍手も盛大でした。ユーさんは大変小柄で,非常に良い雰囲気を持った方です。演奏会終了後のサイン会では,一人ずつ名前を尋ね(お名前は?と日本語で尋ねていました),一人ずつ丁寧に名前入りのサインを書いていらっしゃいました。目尻の皺(?)が非常に魅力的でした。私も書いてもらったのですが,その色紙となった会場で販売していたCDも非常に素晴らしいものでした(La clarinette de le belle epoqueというタイトルで19世紀末〜20世紀前半のフランスのクラリネット曲がブトリーさんのピアノ伴奏で収録されています。番号はREM 311209です。)

後半は,グノー1曲だけでした。この曲もほとんど演奏されることのない曲ですが,まとまりの良い曲で,フランス風のプログラムを締めるには相応しい曲でした。冒頭の1音は何となくシューマンのライン交響曲を思わせる響き(調べてみると同じ調性)。序奏の感じはちょっとベートーヴェンの第7番風で前回の定期で聞いたビゼーの交響曲や以前聞いたサン=サーンスの交響曲第2番当りと似た傾向の作品でした。少しメンデルスゾーンの雰囲気もあるようで,形は古典的でオーソドックスですが,それほどシリアスにはならず,甘さや優雅さ,軽やかさが漂うような作品でした。ブトリーさんは,小細工をせずに率直に演奏させているようで,好感が持てました。

第1楽章は,形は立派だけれども,あまりにも聞きやすくて(?)内容が伴っていないような印象を持ってしまいました。そういう面で,少々中途半端かなと思いましたが,第2主題で流れるような主題が出てくると,やはりフランス風の気持ち良さが出てきました。それ以外の楽章も,聞きやすい楽章でした。1楽章のような形の重さがない分,グノーらしさがより出ていたのではないかと思います。オーボエをはじめ,管楽器が大活躍していました。繊細で生き生きとしたソロは,ルーセルの曲の時より冴えていたように感じました。やはり,ビゼーの交響曲のようなタイプの曲はOEKの得意なジャンルなのだと思います。

アンコールはクープランの墓の中の1曲でした。最初の曲を聴いた時に「クープランの墓」のことを思っていたので,「我が意を得たり」と感じました。響きにふくらみがあり,管楽器の生彩もプログラムの中でいちばんあったような気がしました。これはラヴェルの曲とグノーの曲の差によるのかもしれません。