名曲いっぱいコンサート
00/11/30 金沢市観光会館

1)スッペ/喜歌劇「詩人と農夫」序曲
2)バッハ,J.S.(鈴木行一編曲)/カンタータ第208番「わが楽しみは、元気な狩りのみ」〜羊は安らかに草を食み
3)オッフェンバック/ホフマンの舟歌
4)ワルトトイフェル/ワルツ「女学生」
5)スーザ(マカリスター編曲)/星条旗よ永遠なれ
6)エロール/歌劇「ザンパ」序曲
7)ヘンデル/歌劇「セルセ」〜オンブラ・マイ・フ
8)ヴォルフ=フェラーリ/歌劇「マドンナの宝石」間奏曲
9)シベリウス/交響詩「フィンランディア」
10)モーツァルト/ピアノと管弦楽のためのロンドニ長調,K.382
11)グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調,op.16
(アンコール)
12)ショパン/英雄ポロネーズ
●演奏
山下一史/OEns金沢
高田匡隆(Pf*10-12)
松井直(コンサートマスター)
トロイ・グーキンス(司会,OEK第1Vn)

今回紹介するOEKの演奏会は,開進堂という楽器店が主催した「名曲いっぱいコンサート」という,盛り沢山の演奏会です。ピアノの先生とその生徒といった感じのお客さんが多く,かなり空席が目立っていました。また,客層のせいか会場の盛り上がりにも欠けていました。私自身は,最後に登場するピアノの高田匡隆さんのグリーグを目当てに聞きに行きました。高田さんは1999年の日本音楽コンクールで第1位を取った人で,今後の成長を見込んで,聴けるときに聴いておこうという目論見です。グリーグの協奏曲をOEKで聴くのも初めてのことでしたが,この曲に関しては期待どおりの見事な演奏でした。

まず,前半のプログラムですが,統一感がなく,長過ぎました。恐らく,後半のグリーグを演奏するのにトロンボーン3本,ホルン2本を増強したので,前半の方もそれに合わせて,金管楽器を増強した曲を集めたので,こうなったのではないかと思います。

山下さんの指揮は,いつもどおり若々しくきびきびとしており,気持ちの良い演奏でしたが,ポピュラーな名曲にしては,表情が硬いような気がしました。また,全般にアレンジが良くなかったと思いました。バッハの「羊は安らかに草を食み」(この曲は大好きな曲だったのですが...)もヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」もかなり華やかに編曲されており,「シンプルなままの方が良いのに」と思って聴いていました。チューバまで入る(しかし弦の人数は少ないまま)フィンランディアは,どうみてもOEK向けの曲ではないので,居心地の悪さを感じました。エロールの「ザンパ」序曲は,後半部分が,かなり昔のNHK-FMの「朝の名曲」という番組のテーマ音楽として使われており,懐かしくなりました。前半の曲の中では,力が抜けて,爽快に演奏された「星条旗よ永遠なれ」がいちばん楽しめました。後半の盛り上げ方には,やはり管弦楽版で演奏しているバーンスタインのレコードの演奏を彷彿とさせる豪快さがありました。

前半が終わったところで,すでに8:15になっており,後半が始まったのは8:30でした。「名曲いっぱい」といっても前半は曲が多過ぎました。後半の高田さんのピアノを目当てに来ていた人もいたと思うので,前半は,もう少し軽くすべきだったと思います。
後半は,まずモーツァルトのロンドが演奏されました。どこかで聴いたことがあるようなないような何ともいえない曲でしたが,それほど楽しめませんでした。きれいな音で演奏されてはいたのですが,全般に抑え気味で,冷たい雰囲気でした。曲自体が単純過ぎて,今の高田さんにはあまり合わない曲なのかもしれません。後半もグリーグ1曲で良かったと思います。ただ,OEKの方は弾きなれたモーツァルトということで,やっと「いつもの雰囲気」が出ていました。

最後の曲のグリーグは本当に見事でした。その見事さは,高田さんのピアノの音の素晴らしさに尽きると思います。強い和音を弾いても,速いスケールを弾いても全然音が濁らず,常に透明感があるのです。重厚な音ではないのですが,力感にも不足せず,スケールも大きいと思いました。私はピアノの技術的なことはわからないのですが,手の動きを見ていると,非常に柔軟で,ピアノを叩くようなところは全然ありませんでした。その辺が素晴らしさの秘密なのかもしれません。

冒頭のティンパニーの後に出てくる,ピアノ・ソロの部分からして非常に生彩がありました。モーツァルトの時とは別人のようでした。高田さんの透明感のある音は,若々しいイメージのあるグリーグの協奏曲には大変良くあっていました。OEKの伴奏も,弦楽器が重くない分,透明感に溢れ,高田さんの演奏に相応しいものでした。2楽章などは,星がきらめくノクターンといった趣きでした。最終楽章も北欧の爽快さを思わせるフルート(この部分が私は大好きです)や何時になくのびのびと吹いていたトランペットなどを始めとして,OEKの方も非常に気持ちの良い盛り上がりを作っていました。

高田さんの演奏は,聴かせどころをちゃんとわきまえた,非常に落着いた演奏だったのですが,ステージマナーの方は,初めてオーケストラと共演するような初々しさ(というか出入りの仕方が滅茶苦茶)で,お客さんも,ハラハラと見ているような感じもありました。ただ,そのギャップでさえ,かえって,ピアノを弾く才能の方を際だ出せていました。

グリーグでは,1楽章の後に非常に盛大な拍手が入ってしまったのですが(それももっともだと思いましたが),全曲終了後にも盛大な拍手があり,アンコールで英雄ポロネーズが演奏されました。グリーグ同様,柔軟な手の動きから出てくる,のびのびとした音が非常に魅力のある演奏でした。