クリスマス・コンサート:無伴奏チェロ組曲全曲コンサート
00/12/10金沢ステンドグラス美術館(モリス教会)

バッハ/無伴奏チェロ組曲第1番ト長調,BWV1007
バッハ/無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調,BWV1008
バッハ/無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調,BWV1009
バッハ/無伴奏チェロ組曲第4番変ホ長調,BWV1010
バッハ/無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調,BWV1011
バッハ/無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調,BWV1012
●演奏
ルトヴィート・カンタ(Vc)

バッハ没後250年の記念イヤーの最後を締める企画として,無伴奏チェロ組曲を全曲を1日で演奏するリサイタルが行われました。恐らく,「全曲を1日で」というのは金沢では初めてのことだと思います。演奏は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんでした。場所は金沢ステンドグラス美術館にある教会でした。狭い場所だったのですが「演奏会2回分を1回分の料金(2500円)で聴ける」「無伴奏チェロ組曲を一度生で聴いてみたい」という私と同じことを考える人が多かったせいか,補助席が出るほどでした。これも,カンタさんの地元での人気を示すものだと思います。

演奏会前の(まだ明るかった時の)外観無伴奏チェロ組曲は1番から順に演奏され,2曲ごとに休憩が入りました。6曲はそれぞれプレリュード,アルマンド,クーラント,サラバンド,ジーグにメヌエット(1,2番),ブーレー(3,4番)またはガヴォット(5,6番)のどれかが加わった6曲から成っているのですが,その加わった舞曲の種類によって3つのステージに分かれたことになります。

私の座席は最前列の左端で,チェロの生の音がダイレクトに聞こえ,無伴奏チェロ組曲を堪能できました。CDで聴くと6曲の区別がつきにくいのですが,こうやって生で聴き比べるとかなり雰囲気が違うことがわかりました。その違いは,調性の違いによるところが大きいようです。演奏会の前に,曲の構造を把握しておこうと思い,各舞曲の並びとテンポを覚えていったのですが(アルマンド(普通),クーラント(速い),サラバンド(遅い),ジーグ(速い)はアイウエオ順。サラバンドとジーグの間に3種類の舞曲が入ると覚えました。),最初のプレリュードの性格が曲のいちばん大きな個性になっているような気がしました。正直なところ,その他の舞曲については,曲の間での区別がつかないところがあります。

それと,解説書などに書いてあるとおり,1番から6番に向けて曲がだんだん複雑になっている印象を持ちました(正確にいうと,5番と6番だけは楽器や調弦方法自体が違うため難しくなるということのようですが)。1番から順に弾くと,最後の最後に難曲が来ることになり,演奏者にとってはかなりの負担になるのではないかと思いました。事実,6番の演奏はかなり技術的に破綻していました。しかし,難行を演奏者と聴衆が一緒になって切りぬけたような快感があったのも事実でした。全曲を聴くのは疲れましたが,その分,6つの楽章からなる大曲を聴いたような充実感もありました。

カンタさんは,曲と格闘するような感じで弾くのではなく,サラリと弾いている感じでした。それでいて深い味が残るような,渋みのある演奏だったと思います。舞曲間のインターバルは短か目で,一気に全曲を演奏している感じでした(テンポがぐっと落ちるサラバンドの前では休んでいましたが)。6曲ごとの統一感と勢いを重視していたのかもしれません。

各曲の演奏では,第3番がいちばん良かったと思いました。輝かしくダイナミックな感じで,非常に聴き映えがしました。プレリュードでの柔軟な弓の使い方を間近で見て,これがプロの技術か,と感動しました。唯一,フーガ風の楽章を持つ第5番のスケールの大きさも印象に残りました。

その他の曲では結構,演奏のミスが目立ちました。線だけで出来ている音楽の恐さ(=切れるとすぐわかる)を痛感しました。第4番のプレリュードは,弾きにくい調性のせいか,かなりぎこちない演奏でした。第6番の方は,輝かしい高音の速い動きが非常に魅力的だったのですが,本当に難しそうな曲でサラバンドではついに止まってしまいました(音を忘れたようでした)。ジーグもなんとか切りぬけたという感じでした。やはり,緊張感の持続を考えると,2回に演奏会を分けた方が良かったのかな,という気もしました。今度,やる機会があれば,2回に分けて,普通のコンサート・ホールで聴いてみたいものです。
休憩時間中は外でワイン,コーヒーなどが出されました。
というわけで,この演奏会は午後3時から6時までの3時間もかかる長い演奏会になったのですが,2曲弾くごとに,コーヒー,ワインなどのサービスがあり,非常に和やかな雰囲気でした。この日の演奏会は,「カンタさんを囲む会」というファンクラブ(?)が主催だったのですが,主催者の方にも,カンタさんとともに「無伴奏を全部やった」という充実感が残ったのではないかと思います。カンタさんはOEKに来て10年目ですが,10年後にまた無伴奏全曲を聴けたら素晴らしいだろうな,と思っています。