横山幸雄ピアノ・リサイタル
三井ホームスーパー・クラシックコンサート

01/1/6金沢市アートホール

ショパン/ノクターン第4番op.15-1
ショパン/ノクターン第5番op.15-2
ショパン/バラード第3番op.47
ラヴェル/水の戯れ
リスト/スペイン狂詩曲
バッハ,J.S./ゴルトベルク変奏曲,BWV.988
(アンコール)
バッハ,J.S./主よ人の望みの喜びを
グノー,バッハ,J.S./アヴェ・マリア
●演奏
横山幸雄(Pf,話)

21世紀最初に出かけた演奏会は,横山幸雄さんのピアノ・リサイタルでした。ただし,この演奏会は,三井ホームのお得意様だけを無料で招待したもので,一般には全く宣伝をしていなかったものでした。私が行くことができたのは全くの偶然でした。私と同じ職場の人が「横山なんとかという人のピアノの演奏会があるが行かないか?」「横山幸雄ですか?そんな有名な人の演奏会がタダというはずは...」というような会話をしているうちに,有名な横山幸雄さんの演奏だということがわかり,早速タダ券を頂いて出かけてきました。タダで聴くには惜しい(?)ぐらいの素晴らしい演奏でした。

会場に入るとピアノの調律を念入りにやっているのが目に付きました。横山さんのリサイタルには以前にも一度行ったことがあるのですが,その時も相当念入りにやっていましたので,ピアノの音程には非常に厳密なのだと思います。お客さんの多くは「タダ券をもらったから来た」といった人で,下手をすると,横山さんのことを知らない人も多かったと思うのですが,この辺はさすがプロだと思いました。

そういう聴衆を見越してか,曲の合間に横山さんの解説が入りました。また,各曲の終わりでは,モーションをかなり大きくして曲の終わりだということを強調していました。プログラムは,ご覧のとおり本格的なもので,初心者向けの「名曲リサイタル」にしなかったのも立派だと思いました。

横山さんの演奏は,本当に見事でした。どの曲についても模範的で最高水準の演奏だったと思います。プログラムの中での重みづけや曲の性格に応じた弾き分けもきちんとされており,プログラム全体としての充実感も十分でした。その演奏を支えるのが,どんな速いパッセージでも安定しているテクニックと磨かれた音です。調律を熱心に行っていただけあって,音には常に透明感があり,粗いところが全然ありませんでした。低音はフォルテでも威圧的になることはなく,バランスも非常に良いと思いました。素晴らしいテクニックに圧倒されるけれども,アクの強さのようなものがないのは,そのせいだと思います。泥臭いところは全然なく,すべての曲について納得し,安心して聴くことができました。本当にこれがタダの演奏会で良いのだろうか?と改めて思いました。

プログラムの最初は,ショパンのノクターン2曲でした。2曲とも右手はシンプルな旋律だけを弾くような曲ですが,センチメンタルになることはなく,さらりと演奏されており,美しい音色を堪能できました。続く,バラードは,曲の作りがもう少し大きくなり,中間部から後半にかけてかなりドラマティックに演奏されていました。

続く,ラヴェルは,非常に聴き映えがしました。この曲を生で聴くのは初めてのような気がしますが,高音の美しさ,繊細さが特に素晴らしく,どんどんアッチェレランドがかかってくると目が眩むような気がしました。

リストの方は,スケールの大きな演奏でした。横山さんのテクニックの良さと音の強靭さがいちばんよく表れていました。粗いところは全くないのですが,華やかな技巧が続くと一種グルーヴ感のようなものも出てきて,聴き手にまで熱気が自然に伝わってきました。中間部は少し繊細で,スペイン情緒があるような感じになり,雰囲気の対比も楽しめました。それにしても,リストやラヴェルの曲は,CDで聴くより生で聴くと非常に映えます。これまで,生で聴いて楽しめなかったことはないような気がします(その分,CDだとあまり楽しめないのですが)。水準以上のピアニストが弾けば,拍手喝采は間違い無いかもしれないですね。

後半のゴルトベルク変奏曲は,何と33分で終わってしまいました。テンポが速目だったことに加え,繰り返しをすべて省略していたからですが,こうなってくると全然別の曲のようにも聞こえました。繰り返しを省略していたのは,演奏時間が長くなるのを避けたかったからだと思うのですが,私には少々聴き応えがなかったように感じました。音量のダイナミクスも大きくなく,テンポの変化も大きくなかったので,一気呵成に演奏された感じでした。爽快な演奏ともいえるのですが,「ちょっと待ってくれ」と感じる所もあり,曲をじっくり味わいたい人には向かない演奏だったと思います。とはいえ,この名曲を息つく間もなく弾かれるのを聴くのもスリリングなものです。腕を交差させるような場面(2段チェンバロ用だと楽に弾けるそうです)が続くと,曲芸(?)を見るような面白さもありました。

最後にアンコールが2曲演奏されました。個人的には,アンコール無しで十分でしたが,やはり,ここはお客様へのサービスということで有名な曲が,雰囲気たっぷりに演奏されていました。特に,グノーのアヴェ・マリアの方は,さらに編曲されており,バッハの原曲の清潔感は全然なくなっていました。悪く言うと,ムード音楽風で,ゴルトベルクと全然雰囲気が合わないと思いました(リストの後なら合いそうでしたが)。アンコールについては,目当てにしている人も多いと思うので,仕方のないところかもしれません。

PS.私の斜め前に招待席があったので,誰が座るのかなと思ってみていると,俳優(というか「クイズ王」)の辰巳琢郎さんが来たので驚きました。辰巳さんは,金沢に親戚がいるらしいのですが,三井ホームの宣伝にでも登場するのでしょうか?横山さんと対談,という企画もなんとなくありそうな話かもしれません。ちなみに,横山さんは,先日,テレビで放送された名古屋のニューイヤー・コンサートの時と全く同じ赤いチョッキを着ていらっしゃいました。テレビと同じ服装だったので,理由もなく嬉しくなってしまいました。