オーケストラ・アンサンブル金沢第98回定期公演A キリンクラシックニューイヤーコンサート 01/1/15 石川厚生年金会館 ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番変ホ長調,op.73「皇帝」 シュトラウス,J.II/加速度円舞曲,op.234 シュトラウス,J.II/ポルカ「訴訟」,op.294 シュトラウス,ヨゼフ/ポルカ・マズルカ「とんぼ」,op.204 シュトラウス,J.II/皇帝円舞曲,op.437 ランナー/お気に入りポルカ,op.201 シュトラウス,J.II/ワルツ「フェニックスの羽ばたき」,op.125 シュトラウス,J.II/エジプト行進曲,op.335 シュトラウス,エドアルド/ポルカ「駅伝馬車で」op.259 シュトラウス,J.II/ワルツ「美しく青きドナウ」,op.314 (アンコール曲) シュトラウス,J.II/ポルカ「雷鳴と電光」 シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲 ●演奏 マイケル・ダウス(Vn)/Oens金沢,マインハルト・プリンツ(Pf) この日の金沢は15年ぶりの大雪になり,会場に行くまでに一苦労でした。雪に慣れた北陸とはいえやはり平地に88cmも積もるとバスのダイヤが目茶苦茶になるので,私は氷点下の中を40分ほど歩いて会場にまで行きました。到着した時にはスキーをした後のように快い汗が出て(湯気が出ていたかもしれません),心地よい音楽の中で眠ってしまうかと思いましたが,幸いそういうことはありませんでした。さすがにお客さんの数は少なく(例年この演奏会は満員になり,お祭り気分になるのですが...)半分ぐらいの入りでした。演奏会前に,景気づけのブラス・セクション(ほとんどがエキストラでした)によるファンファーレの演奏があったのです,少々寂しい雰囲気になりました。それでも,「雪の中を根性で来たありがたいお客様」ということをオーケストラの方も分かっていたようで,悪くはない雰囲気でした。 オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤー・コンサートはいつも前半が協奏曲,後半がシュトラウス・ファミリーの曲という構成になっています。前半の協奏曲では,ダウスさんがソロをとることもあるのですが,今回は,マインハルト・プリンツさんのソロによる,ベートーヴェンの皇帝でした。 プリンツさんは,小柄な感じの方で,音もかなり軽い(というかピアノの鳴りが悪い)ような気がしました。その分,高音のキラキラとした音が目立ちました。第2楽章などはショパンの協奏曲を聴くような雰囲気でした。OEKの方は,いつもながらの颯爽とした演奏でしたが,ピアノの方は,「ちょっと立ち止まりたいな」というようなところがあり,指揮者なしだと合わせるのが難しかったのではないかと思いました。実際,1楽章の終わりの方ではかなり危なげな場面があったのですが,何とか切り抜けていました。3楽章では,キラキラとした高音とOEKの爽快さが合わさり,楽しめる演奏になりました。というわけで,かなりスケールの小さい演奏でしたが,お客さんからは温かい拍手が続きました。 後半は,ボスコフスキー指揮ウィーン・フィル・スタイルのニューイヤー・コンサートになります。昨年同様,チェロのフロリアン・リームさんとヴァイオリンのトロイ・グーキンズさんの掛け合いによる曲目解説が入りました。2人とも日本語が上手なのですが,特にリームさんの発音はとても奇麗です。やはりこういうプレゼンテーションについては,一般に外国人の方が上手ですね。 今回は,ニューイヤー・コンサートにつきものの「サービス」が意外に少なかったのですが,その分,演奏が近年になく充実していたような気がしました。コントラバスに元ウィーン・フィル主席のブルクハルト・クロイトラーさんが今回は参加していたのですが,もしかしたらそのせいかもしれません。客席から見ていても存在感のある方で,実に良い雰囲気のあるおじいさんでした(リームさんの話によると,日本語で「黒い虎=クロイトラ」と書けるそうです)。 ワルツは,全般に余裕のある自然なテンポでした。ダウスさんの弓の動きに合わせて演奏するので,とても滑らかな演奏になります。テンポの動かし方も自然で,加速度円舞曲の最初の方などとても楽しめました。小編成ならではの,軽やかさと明るさもあり,新年には相応しい演奏でした。 皇帝円舞曲は,OEKのニューイヤー・コンサートではよく取り上げられる曲ですが,チェロのカンタさんのソロ,最後の方の名残惜しさなどは,何度聴いても幸福感に満たされます。 ポルカの方は,すべて小編成ならではキレ味の良い演奏でした。ピシッとした雰囲気はあるけれども,緊張感が張り詰めているわけでもなく,とてもバランスの良い演奏でした。この辺は指揮者なしの効用でリラックスしているせいかもしれません。アンコールに演奏された「雷鳴と電光」もOEK十八番の一つと言って良いほど爽快で見事な演奏でした。 ポルカの中では,ヨーゼフ・シュトラウスの「とんぼ」が良い曲でした。ヨーゼフならではの,ロマンティシズムのあふれる曲です。ポルカ・マズルカとなっているとおり,ゆっくりとしたテンポです。マズルカ風のリズムになると急に田舎っぽくなるのが面白いと思いました。 エジプト行進曲も,ゆっくりとしたテンポで,エキゾチックな雰囲気を出していました。こういう曲が1曲入るとプログラム中のアクセントになって大変盛り上がります。この演奏では,もちろん団員(男だけ?)の歌入りでした(「ペルシャの市場にて」みたいなやつです)。皆さん,大きな口を開けて楽しげに歌っていらしゃいました。 プログラム最後は,定番の「美しく青きドナウ」でした。ゆっくりとした序奏を聴かせた後,快適にワルツを流し,ところどころテンポを落としてじっくり聴かせるといういつも通りの気持ちの良い演奏でした。今回も終結部は,短く省略されていましたが,毎年,そうしているということはダウスさんの好みなのだと思います。このタイプには違和感がありましたが,毎年聞いているうちに段々馴染んできました。ダウスさんのヴァイオリン弾き振りの姿は相変わらず見事です。ことしは白いマフラーも格好よく決まっていました。この曲は,こういうスタイルで演奏するととても映える曲だと思います。 最後のラデツキー行進曲も例年どおり拍手しやすいゆっくりしたテンポでした。今年は,ティンパニのオケーリーさん(一度退団したはずだったのですが復帰したのかもしれません)が手拍子の見本を示してくれていたので,皆さんそれに合わせて叩いていました。 今回のニューイヤー・コンサートでは,ラデツキー行進曲でクラッカーが入りましたが,それ意外に遊びの部分は全然ありませんでした。それでも,非常に楽しげな雰囲気が漂っていたのは,ダウスさんをはじめとして演奏者の表情が非常に楽しげだったからです。来年のこのコンサートは新ホールで開催されることになりますが益々楽しさがアップすると思います。ウィーン・フィル並みに「金沢のニューイヤー」と呼ばれるようになる日も来ないかなと期待しています。 |