オーケストラ・アンサンブル金沢第99回定期公演
01/1/28 金沢市観光会館

1)ハイドン/歌劇「薬剤師」序曲
2)ハイドン/交響曲第92番ト長調「オックスフォード」
3)ハイドン/チェロ協奏曲第1番ハ長調
(アンコール)
4)バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第3番〜ブーレ
5)ハイドン/交響曲第104番ニ長調「ロンドン」
●演奏
アンドラーシュ・リゲティ/Oens金沢
マリオ・ブルネロ(Vcl*3,4)
グレゴール・ジーグル(コンサート・マスター)
江村哲ニ(プレトーク)

今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会は,オール・ハイドン・プログラムでした。これまでハイドンの曲は,プログラム前半に取り上げられることが多く,プログラム全部がハイドンというのは,初めてのことだと思います。もともと,OEKの編成は「ハイドンの時代のオーケストラのサイズ」ということを基準にしていましたから,このプログラムについては,「もっと早く取り上げて欲しかった」と個人的には思っています。

指揮は定期登場2回目のハンガリーのアンドラーシュ・リゲティさんでした。前回は,モーツァルトの交響曲を取り上げたのですが,その時は,オーケストラが非常によく鳴っていた記憶があります。ハンガリーの指揮者のハイドンというのは,一種,ご当地ものなので,その点でも期待をして聴きました。結果は,その期待どおりの見事な演奏になりました。もちろん,ソロで登場したマリオ・ブルネロさんのチェロも最高の出来でした。

最初の曲は,「薬剤師」という聴いたこともない歌劇の序曲でした。序曲とはいえ,短い3つの部分からなっていました。モーツァルトの交響曲第32番あたりと同じ雰囲気です。あっという間に終わったので強い印象は残りませんでしたが,冒頭から弦の響がいつにも増して透明かつ引き締まっており,交響曲への期待が膨らみました。

次の曲は,オックスフォード交響曲でした。全般にテンポは速目で,弦楽器のすっきりとした透明感のある響きが非常に心地よい感じました。古楽器風とまでは言いませんが,ヴィヴラートはかなり控え目にしていたようでした。2,3楽章では,フルート,オーボエなど木管の音が弦の音にうまく絡み合い,良い味付けになっていました。4楽章はさらに颯爽としたテンポになり,雰囲気としては,騎手が馬をドライブしているような感じでした。鞭で叩いているわけではありませんが,フルートなどに出す指示はかなり大きな動作でした。全般にテンポ感が直線的な感じでしたが,この辺はハンガリーの指揮者の特徴かもしれません。拍手はそれほど多くなかったのですが,大変新鮮な雰囲気のある響きで個人的には,もっと大きな拍手が続けば良いのに,と思いました。

後半は,まず,マリオ・ブルネロさんがソリストとして登場しました。小柄で,坊主頭に近い短い髪,というのは,十年以上前にテレビで見た時(チャイコフスキー・コンクールで優勝後,来日をした時だと思います)とあまり変わらないようでした。

ハイドンの曲は,バロック風の協奏曲ですが,チェロにとっては高音の続出する難曲です。特に最終楽章はスピード感もあり,演奏するのは相当難しいと思います。ただし,ブルネロさんの演奏は,その辺の技巧的な難しさを全然感じさせない演奏でした。技巧を誇示するというよりは,センスの良さを感じさせるところが多く,素晴らしいチェリストだと思いました。快速なテンポで一気に聴かせる3楽章も気持ちの良かったですが,2楽章の伸びやかな歌も素晴らしいと思いました。音を朗々と響かせる感じではありませんでしたが,全体の雰囲気が引き締まっており,現代的なセンスがなかなか格好良いと思いました。オーケストラの方も暖かみのある音で,良い雰囲気を作っていました。

拍手に応え,無伴奏チェロ組曲の中の1舞曲が演奏されました。明るい響きのバッハで異空間に連れて行かれるような,気持ちの良い演奏でした。

最後は,ロンドン交響曲でした。オックスフォード,ロンドンと,今回の演奏会は「英国つながり」でまとめたのかもしれません。この演奏では,何と,今演奏し終えたばかりのブルネロさんが,チェロ奏者としてオーケストラに加わっていました。チェロの人はアンサンブルを作るのが好きみたいですが,ブルネロさんもきっと,仲間と一緒に演奏するのが好きなタイプなのだと思います(売店に置いてあったCDにもヴィラ=ローボスのチェロのアンサンブルによる曲を収録したものがあったので,1枚買ってみました。演奏会後,サイン会をやっていたので,そのCDにサインをしてもらいました。)。

ロンドンは,ハイドンの交響曲の中でも特に立派な曲ですが,演奏の方も演奏会を締めるのにふさわしい,スケール感と集中力に溢れていました。基本的には速いテンポでしたが,序奏部は実に堂々としていました。フレーズをあまり切らずに長く延ばして演奏していたので,音がホールに響き渡るようでした。主部になると,きびきびした緊張感が爽やかでした。他の楽章も厳しすぎることはないけれどもダレたところのない見事な演奏でした。時々,トランペットやホルンなどの音を強調していたのも効果的でした。最終楽章はもう少し遅くても,という気もしましたが,オックスフォードの最終楽章同様の疾走感のある演奏は魅力的でした。

というわけで,今回の演奏を聴いて,改めて「OEKとハイドンはよく合う」と感じました。もちろん,OEKの美点をうまく引き出したリゲティさんの力によるところも多いと思いますが,これからも,ハイドンの交響曲を集中して取り上げてくれないかな,と期待をしています。