ルドヴィート・カンタ・チェロ・リサイタル
01/2/3金沢市アートホール

1)コダーイ/無伴奏チェロ・ソナタ,op.8
2)パーレニーチェク/コラール変奏曲
3)ショスタコーヴィチ/チェロ・ソナタニ短調,op.40
(アンコール
4)ドヴォルザーク/ロンドト短調,op.94
5)モンティ/チャールダッシュ
●演奏
ルドヴィート・カンタ(Vc)
ノルベルト・ヘラー(Pf*2-5)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の団員は,室内楽でも県内を中心に活発な活動をしていますが,その中でもいちばん活発に活動しているのが首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんです。その活動を支えているのが「カンタさんを囲む会」というファン・クラブです。昨年末も「無伴奏チェロ組曲を1日で」というすごい企画があったのですが,今度はコダーイとショスタコーヴィチを中心とした渋いプログラミングのリサイタルがこの会主催で行われました。恐らく,どちらの曲も金沢で演奏されるのは相当珍しいことだと思います(いちばん珍しい曲であるパーレニーチェクは前に一度カンタさんのリサイタルで聴いたことがあります。)。

まず,コダーイですが,曲のすごさにまず驚きました。超高音を弾きながら別の指でピチカートを弾いていたりしていて,「本当に1本のチェロで弾いているのだろうか?」という感じでした。チェロで使える多彩な技を駆使しており,見ているだけで難曲だとわかりました。それを,カンタさんは平然と弾いていました。この辺がカンタさんの格好良いところです。ただし,CDで聴くよりも(私が持っているのはCMで流れているヨーヨー・マのものです)曲全体の形がはっきりしないような気がしました。やはり,それだけ生で演奏するには難しい曲だということだと思います。CMで使われている冒頭の和音2つはもっと荒々しく始まるのかと思ったのですが,意外にあっさりしていました。2楽章の前半は日本の民謡風な印象でした。気のせいか,ヨーヨー・マの方が東洋的な感じがしました。3楽章は特に技巧的・ハンガリー風で3つの楽章の中でいちばん楽しめました。フラジオレットの速いパッセージなど,すごいところも多かったのですが,やはり,全体としての印象がはっきりせず,お客さんも「よくわからないうちに終わった」といった感じで少々戸惑い気味でした(演奏後の拍手ももう少し続くかと思ったのですが,1回で終わってしまい残念でした)。いずれにしても,この難曲を初めて生で聴けたということでも大変な収穫がありました。

休憩後は,カンタさんの友人でもあるノルベルト・ヘラーさんのピアノの伴奏が付きました。後半1曲目はパーレニーチェクという1912年生まれのチェコの作曲家の曲でした。先に書いたとおり,この曲は以前カンタさんの別のリサイタルでも聴いたことがあるのですが,その時も聴き映えのする曲だと思った記憶があります。今回もそのとおりでした。チェロの音が美しく響くテノールの音域が非常に魅力的でした。コダーイの曲がかなり難渋だったので,非常に晴れやかで生彩がある響きに聞こえました。このような,チェコやスロヴァキアの「知られざるチェロの名曲」をこれからも紹介してもらいたいと思います。この辺の国は「弦の国」と呼ばれるだけに,たくさん名曲が埋もれているのではないかと思います。

最後のショスタコーヴィチの曲は,非常に聴きやすい曲でした。フランス音楽風といって良いほどの優しい雰囲気で始まり,意外に思ったお客さんもいたかもしれません。ただし,1楽章後半には「やはり」という感じで,ショスタコーヴィチ独特の暗い世界が出てきました。2楽章には解説によると「1本の弦でフラジオレットのグリッサンド・アルペジオ」という変わった奏法が使われているとのことでした。が,コダーイの曲を聴いた後のせいか,それほど変わった音には聞こえませんでした。4楽章では,伴奏のヘラーさんのきらめきのある音色が非常に効果的でした。この方のピアノは,高音が非常に美しいと思いました。カンタさんの音も前の曲同様のびやかで素晴らしいと思いました。1楽章前半の甘い雰囲気も良かったし,3楽章の内省的な雰囲気も良かったと思います。2楽章とか4楽章は,もっとアクの強い,ブラック・ユーモア的な演奏もできそうですが,カンタさんの演奏は正統的でまじめだったと思います。

こちらの曲の方は,分かりやすい曲だったせいもあり,盛大な拍手が続き,アンコールが2曲演奏されました。中では,ドヴォルザークのロンドが見事でした。この曲はカンタさんのソロのCDの中にも含まれているのですが,「美音と美しい旋律を聴く」というチェロの楽しみの原点を思い出させてくれました。

この演奏会と同様の演奏会が東京と名古屋でも行われるのですが,そちらでの成功も祈っています。いずれにしても「カンタさんを囲む会」の活動は積極的ですごいなと思っています。カンタさんには,次のような「プロが作ったような」ホームページがあります。関心のあるかたはご覧になってください。
http://www.kanta-cello.tms.to/