オーケストラ・アンサンブル金沢第100回定期公演
01/2/23金沢市観光会館

1)ブラームス/悲劇的序曲,op.81
2)ブラームス/ドイツ・レクイエム,OP.45
●演奏
高関健/Oens金沢,Oens金沢Cho(合唱指揮:大谷研二)
豊田喜代美(S),小松英典(Br)
アビゲール・ヤング(コンサート・ミストレス)
大谷研二,Oens金沢Cho(プレトーク)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期演奏会も回を重ねて,今回で100回目になりました。この数字に大きな意味があるわけではなく,100回の内の1回という意味しかないのですが,100回の内の95回ぐらいは聴いてきた私のような者にとっては感慨深いものがあります。そのことを意識したのか,今回は編成がかなり大きくなっていました。毎年この時期にはレクイエムを聴くのが恒例になっているのですが,今回はOEKでは滅多に聴くことのできないブラームスのドイツ・レクイエムを中心としたものでした。指揮は定期登場2,3回目ぐらいの高関健さんでした。

演奏に先立ち,恒例のプレトークがありました。今回は,合唱指揮の大谷研二さんとOEK合唱団による実演入りのプレトークでした。大谷さんのプレトークは前回も大変面白かったのですが,今回も楽しめました。ドイツ・レクイエムの構造を「男男男女男男男」と合唱団員を並べて「シンメトリー,つまり,十字架です。」と視覚的に示したり,大谷さん自身がカウンターテノールばりに第5曲のソプラノ独唱を歌われたりと,演奏を聴く前からこの曲への期待が高まりました。こういうプレトークならお金を払って聴いても良いぐらいです。

ドイツ・レクイエムに先立ち,前半には悲劇的序曲が演奏されました。前半がこの曲だけというのは短か過ぎるのですが,後半が長いので,仕方のないところかもしれません。実は,悲劇的序曲というのは私の苦手な曲で,自ら好んで聴こうと思ったことのない曲です。残念ながら,今回の演奏を聴いてもあまり好きにはなれませんでした。高関さんは指揮棒なしで指揮されていましたが,弦楽器の音が非常にスリムに聞こえました。弦楽器の配置も,下手から第1Vn,Vla,Vc,第2Vnという並びでしたので,高関さんは弦楽器にかなりこだわりがあるのかもしれません。ただし,音はスリム過ぎてスカスカという感じにも聞こえました。中間部の楽器の間の旋律の受け渡しは面白いと思ったのですが,もう少し緊張した感じがあるといいかなとも思いました。

メインのドイツ・レクイエムの方も弦楽器の配置は同じでした。悲劇的序曲の時と同様,トロンボーン,チューバ,ピッコロのエキストラが加わっていましたが,さらに,ハープ2台,オルガン(電子オルガン?)も加わっており,OEKにしては,かなり大きな編成になっていました。

ドイツ・レクイエムは,あまり聴いたことのない曲だったので,カラヤン/ベルリン・フィルのEMI盤で予習をしたのですが,その印象とはかなり違っていました。カラヤン盤は,非常に起伏が大きく,音の迫力がものすごいのですが,この日の演奏は,それに比べると淡白な印象を持ちました。その点で少々物足りない気もしたのですが,室内オーケストラによるブラームスの場合,そうならざるを得ないのかもしれません。ただし,この曲の素晴らしさは十分実感できました。OEKとOEK合唱団の演奏には整っていて抑制された美しさがあったと思います。

第1曲は,意外なことに両翼配置のヴァイオリンが全く出てきません。その分,ヴィオラとチェロの音が前面に出てくるようで,室内楽を聴くような味がありました。第2曲は,3拍子の行進曲で,葬送行進曲のイメージです。オーボエと合唱との絡みが悲しい雰囲気を盛り上げていました。やはり宗教音楽にオーボエはよく合うと思いました。ただ,合唱はかなり抑え気味だったような気がします。後半はもっと盛大に歌って欲しい気もしましたが,この辺は高関さんの指揮によるものだと思います。

第3曲冒頭にはバリトン・ソロが出てきます。小松さんのソロは非常に安定感があり,見事でしたが,歌詞の内容からすると,もっと苦しげなの方が雰囲気が出るのかもしれません。楽章の最後には,Dの音が延々と続く上にフーガが展開されます。プレトークでの「この部分はすごいですよ」という説明からすると,もっと壮大に響くのかと思ったのですが,意外に地味でした。ただ,ティンパニが延々と同じ音を叩いているのは,まさにオルガンのペダルのようで,とても独創的だと思いました。その他,金管とティンパニと合唱が一斉にフォルテを出すような箇所では「ビシッ」という感じの壮絶な響きがしていたのが印象に残りました。他の部分でも,そう感じることがあったので,高関さんの特徴なのかもしれません。

真中の第4曲はさらりと流れて行くようで,全体の中での息抜きのような感じでした。第5曲にはソプラノ独唱が出てきます。豊田さんの歌は以前もっと小さなホールでソロを聞いたことがあります。その時は,日本の歌曲などを素晴らしい声で歌われていた記憶があるのですが,今回の歌は,少々期待はずれでした。何となく音程が甘いような気がしたし,声質にも癖があるような気がしました。この楽章自体,母性愛のイメージがあるとのことですが,それにしては声が可愛らし過ぎるような気もしました。

第6曲は第2曲に対応する曲です。後半はかなりドラマティックなフーガになり,合唱はフォルテが続きます。ずっと抑え気味だったのが,ここで全開になったような感じでした。声の響きにもう少し余裕や伸びやかさがあると良いと思いましたが,これは天上の低いホールのせいのような気もしました。

最後の第7曲は,非常に美しい演奏だったと思います。第6曲目までのテンポは比較的あっさりした感じだったのですが,この曲は落ち着いたテンポで,じっくり聴かせてくれました。通常のレクイエムの「怒りの日」にあたる第6曲の雰囲気をカーム・ダウンするようで見事でした。プレトークでも「ブラームスは合唱曲の作曲家だ」とおっしゃっていましたが,こういう曲をしみじみと聴くのも良いものです。

演奏後の拍手は,ややフライイング気味になり残念でしたが,とても長く続きました。その拍手の多くは,合唱団に対してのものだと思います。この曲を生で聴く機会は滅多にないのですが,これほど合唱部分の多い曲というのも少ないと思います。技術的なことはわかりませんが,(体力的にみても)歌い通すだけでもかなり大変なことだったのではないかと思います。

高関さんの指揮はテンポに弛緩したところがありませんでした。全体の雰囲気も非常に堅実で,ドラマティックになり過ぎないようにしていたような気がします。質実剛健で宗教音楽としては,相応しいのかもしれませんが,カラヤンの押し出しの強いCDを聞いた後だとちょっと物足りないような気がしました。この辺はどちらが良いとは言えない,好みの問題だと思います。

このプログラムと同じ演奏会が,25日に名古屋でも開かれます。こちらの方は別の合唱団でもう少し大人数で歌われるようです。バランス的にはOEK合唱団ぐらいの人数の方が丁度良いのかもしれませんが,声の迫力の点では名古屋の方があるかもしれません。

PS.この日,OEKの新しいCDが発売されました。モーツァルトの後期交響曲を4枚組に集めたセットです。東京の浜離宮朝日ホールでのライブを収録したものです。指揮は岩城さんです。4枚で5000円とかなりお得な価格になっています。ALMレコード(コジマ録音)から発売されるようですが,通常の店では入手しにくいかもしれません。OEKの事務局に申し込めば購入できます。次のページに内容が書いてあります。
http://www.oek.or.jp/unt/untnews/mozartcd.htm
これから楽しみに聴いてみようかと思っています。



オーケストラ・アンサンブル金沢第100回定期公演