NHK交響楽団第13回オーチャード定期
01/3/1 オーチャード・ホール

1)ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
2)ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番ニ短調,op.30
3)ビゼー/交響曲第1番ハ長調
4)ラヴェル/ラ・ヴァルス
●演奏
シャルル・デュトワ/NHKSO
広瀬悦子(Pf*2)
山口裕之(コンサートマスター)

東京に行く出張があったついでにNHK交響楽団の定期演奏会に出かけてきました。本当は一度NHKホールに行ってみたかったのですが(広すぎて音響が良くないという評判ですが),今回はたまたま同じ渋谷でもオーチャードホールでの定期演奏会でした。指揮は音楽監督のデュトワさんでした。デュトワさんの指揮を聴くのも初めてのことですが,テレビで良く見かけているせいか,どうも初めてのような気がしません。もしかしたら売り切れかな,と思いつつホールまで行ったのですが,幸い3階席が空いていました。

オーチャードホールに来たのは2回目ですが,ここで大オーケストラを聴くのは初めてです。前回もやはり出張のついでに来たのですが,その時は8月でモーストリー・モーツァルトというシリーズものの演奏会の一つをやっていました。ナージャ・サレルノ=ソネンバークの過激なヴァイオリンでヴィヴァルディの四季などを聴いた覚えがあります。この時の方が編成は小さかったのですが,今回の3階席の方が音が遠い印象を持ちました。この日の最後のラ・ヴァルスではありませんが,下の方の別室から音が漏れ聞こえて来るという感じで,音響的には物足りなさが残りました。

最初のオベロン序曲は冒頭のホルンの柔らかい響きからして美しく,傷のない演奏でした。最近は,こういう曲は生ではあまり演奏されませんが,良い曲だと改めて思いました。曲想の変化が面白く私は大好きです。デュトワさんの指揮は,しなやかで格好良く,軽やかな感じが妖精の出てくるような曲にはとてもふさわしいと思いました。

次の曲は,昨年のショパンコンクールで3次予選まで進出した広瀬悦子さんの独奏によるラフマニノフでした。ただし,プログラムの紹介文にはショパンコンクールのことが一言も書いてなく,第1回アルゲリッチ国際ピアノコンクールで優勝とだけ書いてありました。デュトワさんと共演ということで「アルゲリッチつながり」なのかなしれません。これでショパンコンクールに入賞でもしていれば話題のコンサートになり,もしかしたらチケットも取れなかったのかもしれません(梯さん同様,大変惜しいところで入賞できなかったようですが。)。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番は映画「シャイン」では,「すべてのピアノ曲の中でいちばん大変な曲」という感じで描かれていましたが,広瀬さんはその難曲を見事に演奏していたと思いました。非常にしなやかで瑞々しく,それほど大変な曲に聞えなかったところがかえってすごいと思いました。音が遠かったせいもあり,スケールが大きい感じはしなかったのですが,叙情的で柔らかい音と強く鋭い音の対比が見事だったと思いました。デュトワさんの伴奏も,冒頭からしてピアノをいたわるような感じでセンスが良いと思いました。邪魔せずそれでいて聴かせる演奏でした。最後の盛り上げと切り上げ方も格好良いと思いました。

後半の1曲目は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏では何度も聴いたことのあるビゼーの交響曲でした。指揮台に乗ってオーケストラの方を向くと,いきなり「ジャン」と始まる,というのは「いかにもフランス風」でした。オーケストラの反応も良く,気持ちの良い緊張感が走りました。オーケストラの人数はOEKよりかなり多いのに,不思議なほど重苦しくない演奏でした。テンポも颯爽としていて軽い感じでした。ここでもシンプルでセンスの良い雰囲気を感じました。第2楽章の北島さんのオーボエソロは控え目だけれどもアリアのようにじっくり聴かせる見事な演奏でした。楽章の最後の方の高音の強い響きも印象に残りました。オーボエだけでなく他の管楽器とのバランスも良いと思いました。3楽章は本来田舎風の感じのある楽章ですが,今回の演奏は,都会的にすっきりと洗練されていました。第4楽章はヴァイオリンの技巧を見せつけるような速く軽い響きが楽しめ,まさに「ブラボー」という感じでした。

ただ,OEKでこの曲を聴く時にいつも感じる「明るさ中のせつなさ」のようなものは,今回の演奏からは感じられませんでした。デュトワさんの指揮にもよると思うのですが,N響は全体としてクールですました雰囲気があるからなのかもしれません。

最後のラヴェルには,この辺のクールですました感じがぴったりだと思いました。ラヴェルの曲は情緒的過ぎるとかえって白けると思います。この曲を生で聴くのは初めてですが,本当に多彩な響きが楽しめました。生だとソロの楽器が出てくるたびに音が空間を飛びまわり,楽しさも倍増する感じです。打楽器が出てくるラストの盛り上げ方もさすがデュトワという感じでした。

この日のプログラムを通して聴いてみて,N響はやはり素晴らしいオーケストラだと思いました。弦楽器が良いという評判は昔からよく聴きますが,管楽器も同様に素晴らしいと思いました。管楽器を美しく演奏させるのことがフランス音楽の演奏のための必要条件だと思いますが,デュトワさんを満足させるだけのオールマイティなオーケストラになったのではないかと感じました。

せっかくの機会なので,サインをもらおうと,楽屋出口付近でデュトワさんが出てこないか待っていました。風邪気味でサインはしません,ということだったのですが,それでもしつこく待ってたかいがあって,何とかサインをもらってきました。「旅の恥は...」といったところです。
NHK交響楽団第13回オーチャード定期