オーケストラ・アンサンブル金沢第101回定期公演B
01/3/16 金沢市観光会館

1)レスピーギ/リュートのための古代舞曲とアリア第3組曲
2)ロドリーゴ/セレナード協奏曲
3)ロドリーゴ/遥かなるサラバンドとヴィリャンシーコ
4)ロドリーゴ/ある貴紳のための幻想曲
5)ファリャ/バレエ音楽「三角帽子」第1組曲
(アンコール)
6)ファリャ/バレエ音楽「恋は魔術師」〜「火祭の踊り」
●演奏
ジャン=ピエール・ヴァレーズ/Oens金沢
竹松舞(Hp*2),村治佳織(G*4))
マイケル・ダウス(コンサートマスター)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の3月の定期公演は,毎年岩城音楽監督が指揮をしていましたが,今年は病気療養中ということで,プリンシパル・ゲスト・コンダクターのジャン=ピエール・ヴァレーズさんに急遽変更になりました。昨年の定期でヴァレーズさんのこの地位での仕事は終わりだったはずなのですが,意外なアクシデントから再会することになりました(ちなみに,ヴァレーズさんの後任はアルバン・ベルク四重奏団のギュンター・ピヒラーさんでこれも楽しみな組み合わせです)。

会場は超満員になりました。OEKの定期公演が満員になるのは,有名女性ソリストの登場する時と決まっているのですが,今回はそういうソリストが2人も登場することもあり,満員になって当然という感じでした。

最初の曲は弦楽合奏だけによるレスピーギでした。この曲についてはBGM的な曲かなと少々甘く見ていたのですが,この日の演奏を聴いて考え直しました。曲全体が繊細な生き物のように,自然に息をしているような見事な演奏でした。音量はmfまでに抑えられているような感じで,何とも言えない悲しみに溢れていました。

次のロドリードのセレナード協奏曲は,かなり珍しい曲です。形としてはハープ協奏曲なのですが,ハープという楽器の音は威圧的ではないので,管楽器のソロもかなり目立っていました。管楽器の不協和音の合いの手が入るあたりは,アランフェス協奏曲とも似ていると思いました。第1楽章は気持ちの良いリズムの弾みの上にハープが軽やかに登場し非常に爽やかな雰囲気があります。このハープのメロディは何度も繰り返し登場していたのですが,解説によるとこの楽章は「夜を徹して演奏するギターバンド」を表していると書いてあり,納得しました。第2楽章は全般に夜の雰囲気がある間奏曲という感じでした。3楽章は,サラオというスペイン舞曲風の楽しい楽章でした。竹松さんのソロは,前述のとおり目立つものではありませんでしたが,とても颯爽としていました。この日の衣装は真っ白のひらひらのドレスで,ステージへの出入りのたびに微風が吹いてくるようでしたが,演奏のイメージもそのとおりでした。

ちなみにこの日は,クラリネットにベルリン・フィルの首席奏者のヴェンツェル・フックスさんが加わっていました。この曲の中でも積極性のある音を随所に聞くことができました。他の管楽器奏者にもかなり刺激になったのではないかと思います。

後半はロドリーゴの幻想的な小曲で始まりました。ギターの曲を弦楽合奏に編曲したものらしいのですが,何とも言えない神秘的な雰囲気があり,ずっと浸っていたい気分でした。

続いて,ギターの村治佳織さんが登場しました。こちらは,黒っぽく「かっちり」とした衣装で「ひらひら」の竹松さんとは対照的でした。弾きっぷりも出てくる音も格好良く,クールという表現がピッタリでした。さっぱりとしているけれども堂々ともしており,シンプルでゆっくりしたメロディをじっくり聴かせてくれるあたりには,貫禄のようなものさえ感じました。PAを使っていたようですが,非常に自然な雰囲気でした。最終楽章にちょっと危なっかしい箇所がありましたが,全般に切れの良い演奏でした。曲の中では2楽章の中間部のファンファーレ風の部分の気分の変え方が面白いと思いました(それにしてもこの楽章の前半はレスピーギのシチリアーノとよく似ています)。和音をバラっ弾いても全然重くならないのが格好良いと思いました。最終楽章の最後の方にトランペットとオーボエの鋭い音に応答するように,ギターのソロが登場するところがあるのですが,その辺の間合いの入れ方も見事でした。この曲もOEKには相応しい曲で,やはり管楽器の積極的な活躍が目立ちました。

最後はファリャの「三角帽子」第1組曲でした。この日の曲目はラテン系の軽目の曲で統一されており,なかなか考えられたプログラミングだったのですが,最後にファリャのこの曲を置いたことはかなり問題があったと思います。実は,曲が終わっても拍手が入らなかったのです。こういう経験は初めてのことです。派手にジャンと終わるのですが,終結感のない和音なので,ほとんどのお客さんはまだ続くものだと思っていたようでした(私もかなり迷いました)。ヴァレーズさんが指揮台から降りてから拍手が起こる,という間の悪いことになったのですが,プログラムの最後に置くにしては中途半端な曲だったと思います(この日の指揮は岩城さんの予定だったので,代役のヴァレーズさんに責任はないのですが...)。

ただ,演奏自体は見事でした。この日のプログラムはハープとギターの協奏曲及び弦楽合奏の曲だったので,ここまでは,ほとんどフォルテがないような感じでしたが,三角帽子で一気にフォルテを爆発させた感じです。冒頭の重いティンパニの連打からして目がさめるようでした(この日は,外国からのエキストラが多く,ティンパニはシュトゥットガルト放送交響楽団のシュミット=ラウックスマンという人でした)。全曲版では,その後,掛け声が入り,メゾ・ソプラノの声が入るはずなのですが,今回は組曲版ということで省略されていました。その後に続く,弦の音色は妙に色っぽい感じで雰囲気たっぷりでした。トランペットを中心として管楽器群も原色的な音でのびのびと演奏していました。何度も書いていますが,この日の管は非常に積極的な演奏だったと思います。以前の定期演奏会でヴァレーズさんの指揮でファリャを聞いたことがあるのですが,その時同様,ファリャの色彩感溢れる響きを見事に引き出していました。それだけに最後の拍手だけが残念でした。ここは,掛け声,声楽入りの全曲版(ハイライト版でも良かったのですが)で是非聴いてみたかったところです。

最後に,三角帽子の消化不良を補うかのようにアンコールで火祭りの踊りが演奏されました。これも余裕たっぷりの見事な演奏で,今度は「待ってました」という感じで非常に盛大な拍手が超満員の会場から起こりました。同様の演奏会は3月中全国各地で行われるようですが,くれぐれも最後の拍手にはご注意下さい。
オーケストラ・アンサンブル金沢第101回定期公演B