オーケストラ・アンサンブル金沢特別公演
ギュンター・ピヒラー プリンシパル・ゲスト・コンダクター就任記念コンサート
01/4/3 金沢市観光会館

ハイドン/交響曲第85番変ロ長調「王妃」
ハイドン/交響曲第101番ニ長調「時計」
ハイドン/交響曲第100番ト長調「軍隊」
●演奏
ギュンター・ピヒラー/Oens金沢
サイモン・ブレンディス(コンサート・マスター)

今年度からオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のプリンシパル・ゲスト・コンダクターに就任することになったギュンター・ピヒラーさんの,いわば「お披露目」の演奏会が開かれました。ピヒラーさんは,もちろん,アルバン・ベルク四重奏団の第1ヴァイオリンとして有名な方ですが,室内オーケストラを中心に指揮活動も始めており,1年半ほど前にはOEKにも客演しています。その時は,非常に緊張感のある音楽を作る方だな,という印象があり,今回の演奏会も期待を持って聴きに行きました。この日のプログラムはCD化する計画があるせいか,非常に完成度の高い,期待どおりの演奏会になりました。

プログラムはハイドンの交響曲3曲だけ,というまさに指揮者とオーケストラのためだけの演奏会でした。3曲を通しての雰囲気の統一感と3曲それぞれの個性をバランス良く楽しめました。OEKは編成的にはハイドンのためのオーケストラのようなものですから,これからも,ピヒラー/OEKのハイドンを聴いてみたいと思いました。

前半は,「王妃」と「時計」でしたが,こちらの方により強くピヒラーさんの主張が出ていたような気がしました。この日のOEKは,弦の音が非常によく揃っており,各パートが1つの楽器のようでした。「ピヒラーさん=室内楽」という固定観念があるせいかもしれませんが,非常に室内楽的な演奏だったと思います。音がスリムで強いので,アタックの鋭さが際立っており,古楽器による演奏に近い雰囲気もありました。比較的聞く機会の少ない「王妃」の方は,全般に早目のテンポで演奏されて,潔癖といっても良いような爽やかさがありました。その一方,冒頭の第1ヴァイオリンの出てくるところでは,コンサート・マスターのブレンディスさんの身振りがものすごく大きく,この日の演奏会にかける気合いのようなものも感じました。

「時計」の方はトランペットとティンパニが加わり,さらにキビキビした感じが強調されていました。1楽章の序奏はかなりゆっくりとしていて雰囲気たっぷりでしたが,主部になると一気に快速になり,展開部〜再現部と生き生きとした迫力が楽しめました。2楽章は,やや速めという感じの気持ちの良いテンポでしたが,各変奏ごとの気分の変え方が面白く,かなり起伏がありました。大胆に休符を入れたり,大きな盛り上がりを築いたり,木管の美しさを聞かせたり,とても楽しめました。3楽章は速いテンポで始まったので,トリオでテンポが落ちるのかな,と思ったら,ここでも速いテンポが続きました。楽譜のことはよくわかりませんが,意表を突く軽く速いテンポ感が新鮮な空気を作っていました。4楽章になると,トランペットの高音が強調されており,祝祭的な盛り上がりを作っていました。もともと「時計」は立派な曲ですが,この曲で締めても良いぐらいの充実感がありました。

後半の「軍隊」は,前半の2曲よりは穏やかな感じに聞えましたが,こちらの方はシンバル,トライアングルなどの鳴り物が加わり,自然に演奏してもプログラムを締めるに相応しい華やかさが出ると判断したのかもしれません。それでも,2楽章の最後に出てくるファンファーレのあたりは,「マーラーの五番か?」と思わせるほどの緊迫した空気が一瞬流れ,強い表現を味わうことができました。最後の音も短く,バシっと決まり,一本締めのような感じで演奏会が締りました。

#「軍隊」の大太鼓は,バチの堅い方で叩いていることがわかりました。和太鼓と同じ?

ピヒラーさんのハイドンは,遊びのある感じではありませんが,室内楽的な引き締まった響きで,くっきりと曲の形を見せてくれるような面白さがありました。曲のセクションごとに休符を入れたりしているのも特徴的でした。一言でいうと「緻密にして大胆」な演奏で(アルバン・ベルク四重奏団もそう?),この日の演奏のCDがどのような仕上がりになるのか非常に楽しみになってきました。

ちなみに,CDを収録するのは富山県の小杉町で行われる明日の演奏会の方です(小杉町のホールの方が各段に良いホールなのです)。ライブ録音になるようですが,秋の発売を楽しみにしたいと思います(この日のパンフレットには「協力:ヤマチク」と書いてあったので,レコーディングには地元のCDショップのヤマチクさんが関係しているようです)。
オーケストラ・アンサンブル金沢特別公演