モスクワ放送交響楽団来日公演
01/7/13 金沢市観光会館

チャイコフスキー/祝典序曲「1812年」
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調
チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調
(アンコール)
リムスキー=コルサコフ/歌劇「雪娘」〜道化師の踊り
外山雄三/ラプソディ〜後半
●演奏
ウラディーミル・フェドセーエフ/モスクワ放送SO
中村紘子(Pf)

ロシアのオーケストラによるロシア音楽,しかも週末,ということで半分暑気払いのような気分で出かけてきた演奏会でしたが,なかなかに考え抜かれた演奏で予想とは少々違った印象を持ちました。それは,悪い意味ではなく,「ロシア=荒々しいだけ」という単純な先入観を打ち破ってくれるものでした。モスクワ放送交響楽団は全国各地をまわっていますが,それぞれ,違ったプログラムで演奏しているようです(今回,パンフレットを全く販売していなかったのですが,かなり珍しいことです。金沢だけでしょうか?)。金沢では,序曲,協奏曲,交響曲というまとまりのよいプログラムとなりました。

まず,オーケストラの配置が,いつもの違うのに目が行きました。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが向き合う配置は時々見られるのですが,コントラバスが第1ヴァイオリンの奥のホルンの後ろあたりの段の上にずらりと並んでいるというのはあまり見た事がありません。このオーケストラの普通の配置なのでしょうか?そのせいか,コントラバスの低音がグッと前面に出てくるようでした。

最初の曲は1812年でした。まず,チェロとヴィオラによる冒頭のメロディが浮遊感と透明感のある響きで印象に残りました。続いて,それを打ち破るかのようにティンパニの一撃があるのですが,このティンパニの音の強さと重さはこのオーケストラのいちばんの特徴だと思います。以下の曲でも随所で聞かれました。オーケストラの音は思ったほど重苦しくはありませんでしたが,明るい感じでもありませんでした。その意味で,派手な印象のあるこの曲でも,奇をてらったところがなく,真面目な演奏に聞えました。神経質なところもなく,スケールの大きい正統的な演奏になっていた思います。最後の方には,鐘の音がたくさん出てくるのですが,個人的な感覚からすると,ちょっと鳴らし過ぎのように思えました。この辺は,ロシア人の感覚と日本人の感覚の違いかもしれません。

続く,ラフマニノフは,中村紘子さんのピアノ独奏でした。ちょうど1年前の同じ時期にオーケストラ・アンサンブル金沢と共演するために金沢に来られたのですが,人気の高さは相変わらずです。ただし,今回の共演は,全体のテンションがやや低く,第3楽章のクライマックスだけをキメたような印象を持ちました。オーケストラの方はかなり控え目に演奏していたような気がしました。中村さんのピアノの音は硬質で,低音があまりたっぷりと響かなかったので,なんとなく物足りなく感じました。ピアノの聞かせどころになるとテンポを落としてくれたので分かりやすい演奏だったのですが,ピアノの響きに酔うことができませんでした。1年前のチャイコフスキーの時はそれほど感じなかったので,オーケストラとの相性の違いのせいかもしれません。3楽章の終結部は,ティンパニの一撃の後からは目が覚めたように華麗な雰囲気になりました。ピアノの華麗な技巧と弦のカンタービレを見せつけてくれました。

後半のチャイコフスキーの第4番は,先に書いたとおり,考え抜かれた演奏だったように思えました。ティンパニの重くて堅い音やトランペットの非常に鋭い音が随所で耳に残りましたが,テンポも楽器のバランスも指揮者の思い通りにコントロールされた演奏になっていました。第1楽章は,前半とくに抑え気味で少々物足りないぐらいの感じでしたが,トランペットによる運命の主題だけは非常に強烈に演奏されており,楽章が進むにつれて凄みが出てきました。ティンパニの弱音に乗ってヴァイオリンの演奏する旋律が揺れ動き,だんだん速くなってくるあたりの自在感も独特のものでした。全体にいろいろな楽器の音がバラバラに聞え,初めて聞く曲のような新鮮な響きがしていましたが,曲全体としての流れが分かりにくくなっているような印象も持ちました。

第2楽章は,オーボエの音色に鄙びた感じがありました。他の木管楽器の音色も素朴な感じで全体として暗めの色合いが出ていました。フェドセーエフさんの指揮は,他の楽章でもそうでしたが,全般にレガートで演奏することが多いようで,独特の粘りが感じられます。この2楽章では,テンポが非常に遅かったこともあり,意外なほどの迫力がありました。この楽章は,中間楽章としてすっと聞き流してしまいそうですが,1楽章に負けないほどの聞き応えがありました。

第3楽章では,中間部の管楽器が入ってくる部分の素朴さが,いかにもロシアの田舎の祭という感じになっていました。弦のピツィカートはかなり暗めの響きに思えました。弦楽器の音色が基本的にかなり地味目なのかな,という気がしました。

第4楽章は,もっと速いテンポで演奏されるのかと思ったのですが,煽るようなところは全然なく,堂々と聞かせてくれました。第1楽章の冒頭のファンファーレがトランペットで再現してくるあたりに一つのヤマがあったようで,一瞬物凄い緊張感が漂いました。その後の,ホルンの弱音からはじまる終結部ではその反対に軽やかさが感じられました。もちろん,最後の最後の方は,強烈な音なのですが,それほど煽らないテンポだったので,運命を乗越えた後の明るい爽やかな勝利の気持ちが出ているようでした。強引なところがなく,年季の入ったいい味が出ているな,と感じました。

というわけで,思ったよりは,おとなしい感じの演奏でしたが,聞かせどころでは粘り気味に遅くするあたりに,フェドセーエフさんらしさを感じました。ティンパニを始めとする打楽器には物凄い強烈さがあるのですが,むしろ弱音で演奏する部分を大切に演奏しているように思えました。

チャイコフスキーの4番の後だと盛り上がらないはずはなく,アンコールが2曲演奏されました。1曲目はいかにも「お国もの」という感じのリズミカルな曲で楽しめました。タンバリン奏者が最初から最後まで叩きつづけているような曲で,そちらの方ばかり見ているうちに曲が終わってしまいました。非常に小柄な人が,ものすごく派手な叩き方をしていたので曲芸か何かを見ているようでした。

アンコール2曲目は,意外なことに外山雄三のラプソディでした。冒頭の「あんたがたどこさ」とかが出てくる部分は演奏せず,フルート独奏の部分からの演奏でした。この曲は岩城さんの指揮で数回聴いたことがありますが,それに比較すると八木節の部分の「テンポが速過ぎる」と感じました。やはり,ここは揉み手で手拍子できるぐらいのテンポでないと感じが出ません。八木節に入る直前には拍子木の代わりに銅鑼を叩いていましたが,ここもやはり拍子木でないと感じが出ないと思います。フルートの音は,非常に太くヴィヴラートのかかった音で独特の味を出していましたが,全般に「ちょっと勘違いしているかな」という印象を持ちました。ただ,その辺が,外国人の話すたどたどしい日本語を聞くようなほほえましさがあり,アンコールとしてはなかなか楽しめるものになっていたと思いました。
モスクワ放送交響楽団演奏会