オーケストラ・アンサンブル金沢第105回定期公演AB
01/7/21金沢市観光会館
1)ウェーバー/歌劇 「魔弾の射手」序曲
2)ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調,op.77
3)ブラームス/交響曲第1番ハ短調,op.68
(アンコール)
4)ドヴォルザーク/スラブ舞曲,op.72-2
●演奏
ジャン・レイサム=ケーニック/Oens金沢
ルドヴィート・カンタ(Vc*2)
サイモン・ブレンディス(コンサートマスター)
ジャン・レイサム=ケーニック,大澤明,トロイ・グーキンズ(プレ・トーク)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演は,この10年間ほど金沢市観光会館ホールで行われてきましたが,この日の演奏会で最後となり,9月から新ホールで定期公演が行われることになります。「観光会館」という名前からして,わけのわからない名前なのですが,私には,それなりに愛着があります。室内オーケストラにとっては広すぎるホールですが,音の通りはそれほど悪くないのでこれからも時々使われるようです。その「最後」の演奏会ですが,ジャン・レイサム=ケーニックという立派な名前の指揮者とOEKの首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんが登場しました。オーケストラは第1ヴァイオリンが10人の編成で,トロンボーン,チューバ,ホルンなどもエキストラで増強されていました。というわけで,中型の編成による演奏となりました。

最初の「魔弾の射手」序曲は,非常に静謐な雰囲気で始まりました。有名なホルン四重奏も美しく決まり,要所で出てくるクラリネットのソロも非常に爽やかでした。終結部は,落ち着き払ったような間合いを取っており,非常に充実していました。熱くなりすぎることはないけれども,ピタリと揃った金管の響きがスケールの大きい盛り上がりを作っていました。

ドヴォルザークのチェロ協奏曲は,おなじみのカンタさんのソロということで,演奏前から盛大な拍手が起きました。この日は,OEK友の会会員招待の演奏会だったので超満員だったのですが,その中にはカンタさんの応援団もかなりいたのではないかと思います。この曲は,チェロ協奏曲の中でもいちばん有名で,それだけに難しい曲ですが,カンタさんは,見事に演奏していました。ただし,この日のカンタさんのチェロの音はやや力感に欠けていたと思います。第1楽章の第2主題のような「泣かせる」ような旋律は非常にせつなく聴かせてくれて絶品なのですが,第3楽章あたりでは音が埋もれ気味になっていました。オーケストラの方は,非常によく鳴っていたので,その落差が目立っていたような気がしました。この曲は,冒頭のクラリネットからして木管楽器やホルンが大活躍する曲で,チェロの弾く旋律の対旋律を演奏したり,チェロと旋律を受け渡ししたりする箇所が多いのですが,その点では,団員でもあるカンタさんとの息はよくあっていました。木管とチェロのための協奏曲と言っても良いような雰囲気でした。中では,やはりクラリネットの清潔な感じが特に印象に残りました。第1楽章序奏の気合いの入ったホルンも聴き応えがありました。第3楽章の最後の方にコンサート・マスターとチェロの掛け合いの部分があるのですが(私はこの部分が大好きです),ここでは,残念ながら,コンサート・マスターの艶やかな音がチェロを圧倒していたような感じでした(ヴァイオリンの方が目立つように書かれているのかもしれませんが)。3楽章のクライマックスは,魔弾の射手の時同様,金管楽器のファンファーレ的な響きが見事で,全曲をピシっと締めていました。この曲の演奏は,ライブ収録をしていたのですが,そのうちFMで放送されるのではないかと思います(それともCDになるのでしょうか?詳細は不明です)。

後半は,ブラームスの交響曲第1番ということで,満員のお客さんが盛り上がるのが目に見えていました。個人的には,少々響きが散漫な気はしたのですが,演奏後は予想どおり盛大な拍手が起こりました。この曲のティンパニは,トム・オケーリーさんだったのですが,ティンパニが重要な役割を果たす曲については,この方がこれからも登場するのかもしれません。冒頭は,そのティンパニの響きが,ホール全体を圧倒していました。テンポも非常にゆっくりとしており,これから何事が起こるのか,と思わせるような素晴らしい序奏でした。その後,主部に入ってからは軽く明るい感じになったので,序奏のスケール感が持続したら凄かったのにと思いました。レイサム=ケーニックさんの指揮は,音を弱音で結ぶ時や休符が入るときに大きなタメを作るのが特徴で,そういう部分になると特に細かく指揮をしていました。第2楽章の最後のコンサート・マスターのソロの部分でも相当長く音を伸ばしていました。この日のコンサート・マスターのサイモン・ブレンディスさんは,非常に繊細かつ,よく通る音を聴かせてくれました。第4楽章も序奏はじっくりとしたテンポでしたが,主部に入ると軽くなるような感じでした。オーボエ,ホルンをはじめ,管楽器群はみんな見事な演奏だったと思います。ホルンは,数年前,金星さんという人が入団して以降,最近特に安定感が増してきたような気がします。この日の演奏会でも,すべての曲で,ホルンが素晴らしかったと思いました。4楽章のコーダでは,見事な盛り上がりを作っていましたが,ここでは金管が鳴り過ぎていたせいか,散漫な印象を受けました。弦楽器の人数がもっと多ければ,また違った印象を持ったのかもしれません。

アンコールには,ドヴォルザークのスラブ舞曲作品72−2が演奏されました。この曲は有名な曲ですが,OEKが取り上げるのは意外に珍しいかもしれません。

というわけで,8月のサマー・コンサート類が終ると,9月14日からいよいよ石川県立音楽堂の柿落とし公演が行われることになります。ウィーン・フィルの公演をはじめとして,金沢市民だけでは,行ききれないほど多くの演奏会が開かれることになるので,他県からも是非来てもらいたいものだ,と思っています。
オーケストラ・アンサンブル金沢第105回定期公演AB