2001いしかわミュージックアカデミー:オーケストラコンサート
01/8/21金沢市観光会館

1)モーツァルト/歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」序曲
2)モーツァルト/2台のピアノのための協奏曲変ホ長調
3)チャイコフスキー/ロココ風の主題による変奏曲
4)ハイドン/交響曲 第88番 ト長調「V字」
(アンコール)
5)ホフシュテッター(伝ハイドン)/セレナード
●演奏
原田幸一郎/Oens金沢
ロハン・デ・シルヴァ,デジン・キム(Pf*2),ジャン・ワン(Vc*3)

数年前から,毎年,夏休み期間中に石川県と金沢市主催で「いしかわミュージックアカデミー」という弦楽器とピアノを中心とした夏期講習会が行われています。今回紹介する「オーケストラ・コンサート」というのは,その講師がオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と共演する演奏会です。指揮は,このアカデミーのディレクターでもある原田幸一郎さんでした。アカデミーの講師には,毎年,かなり有名なソリストが来られるので,関連行事として行われるオーケストラコンサートと室内楽コンサートは,入場料(2000円)と比較して,かなりお徳なのではないかと思います(その分,受講生が負担しているのかもしれませんが)。というわけで,会場には,受講生らしき若者や小さな子供がたくさん来ていました。この時期は,OEKの方も夏休みのようで,オーケストラの中にはエキストラがかなり沢山いました。また,編成もOEKの基本編成だけで演奏できる曲ばかりでした。

最初の,コシ・ファン・トゥッテ序曲は,ダイナミックな感じはしませんでしたが,よくまとまったまろやかな響きが楽しめました。弦楽器に絡んでくるオーボエから始まる木管群の動きもバランスの良いものでしたが,全般に何となくテンポが落ち着かない気がしました。

続く,2台のピアノのための協奏曲は,生で聴くのは初めてです。奏者を2人揃えるのも大変ですが,ピアノを2台用意するのも面倒なので,あまり演奏会には出てこないのかもしれません。2人の独奏者も譜面を見ながら弾いていたので,演奏者にとっても珍しい曲なのでしょう。ピアノは,下手側(1番ピアノ?)がシルヴァさんで上手側がキムさんでした。オーケストラの音は,序曲と同様丸い感じの音で伴奏に回っている感じでしたが,2台のピアノの音とはバランスがよく取れていました。独奏者は2人とも強く主張するタイプではないようで,対話が心地よく流れて行くような気持ち良さがありました。特に,高音部を担当していたシルヴァさんのキラリと光るような音が美しく響いていました。ただし,音が抜けるような箇所もいくつかありました。2人で同じメロディを弾いたりすると1台のときより目立つかもしれません。ピアノの方はもっと走りたそうな感じでしたが,そのギャップもまた面白く感じられました。

後半は,チェロのジャン・ワンさんが登場しました。個人的に,今回の講師の中でいちばん注目をしていた人なのですが,予想を上回る見事な演奏でした。会場全体も技巧の見事さに唖然としているような感じでした。これだけ技巧が安定している人は,世界中にもそれほどいないのではないかと思います。ロココ・ヴァリエーションという曲のせいもあるかもしれませんが,表現力の多彩さと的確さが素晴らしく,一言で言うと「完璧な演奏」だったように思えました。音は,軽めで透明感があり,ガサガサしたところが全然ありませんでした。高音の続出する曲でしたが,音程も正確で,音階をすばやく駆け上って行く速いパッセージも勢いと迫力があり,しかも余裕がありました。粗くならず常に軽いというのが本当に凄いと思いました。チャイコフスキーらしさの溢れる叙情的な第6変奏も集中力があり,合いの手のフルートやクラリネットも非常に雰囲気がありました。チェロの演奏に触発されたに違いありません。というわけで,非常に盛大な拍手が(OEKの方からも)かなり長く続きました。

最後のハイドンは,このロココ・ヴァリエーションの後だと,聞く方も演奏する方も気が抜けてしまいそうだったのですが,自然な素朴さと暖かさのある演奏になっており,演奏会をきちんと締めてくれました。第1楽章は,家にあったCD(ベーム指揮ウィーン・フィルのもの)に比べるとぶっきらぼうに聞えたのですが,これはホールの残響のせいだと思います。第2楽章は,オードリー・ヘップバーン主演の「昼下がりの情事」で,退屈なチェロの練習曲として使われていた曲ですが,どういうわけか,オーボエとチェロのバランスが非常に悪いと思いました。オーボエの音はとても美しかったのですがチェロの音が全然聞こえてこなくて残念でした。3楽章は,おおらかでスケールの大きさがありました。第4楽章も「昼下がりの情事」で使っており,個人的には,パリの街の中を走るバスの風景などを思い浮かべてしまう曲です。最後に,やりすぎない程度に盛り上がりを付けており,極端になりすぎないハイドンらしいハイドンになっていたと思います。

アンコールには,「ハイドンのセレナード」が演奏されました。第1ヴァイオリンだけがメロディを弱音で弾き,それ以外の曲がピチカートで支える曲なのですが,妙に集中して聞き入ってしまう曲です。ハイドンの作曲でなかったとしても,この曲は名曲だと思います。

いしかわミュージックアカデミー関連の演奏会は,これから,室内楽コンサートが2つと若手演奏家によるフェローシップコンサートが開かれます。ジャン・ワンさんがあまりにも素晴らしかったのでもう1回ぐらい聴いてこようかな,と思っています。
2001いしかわミュージックアカデミ:オーケストラ・コンサート