2001いしかわミュージックアカデミー:フェローシップコンサート
01/8/25金沢市アートホール
1)ラヴェル/ツィガーヌ
2)プロコフィエフ/ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ長調op.94bis
3)ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調op.30-2
4)ストラヴィンスキー/イタリア組曲
5)ミルシュタイン/パガニーニアーナ
6)ヴィエニャフスキ/ヴァイオリン協奏曲第1番嬰ヘ短調op.14
●演奏
庄司紗矢香(Vn*1),木嶋真優(Vn*2),ミヒャエル・オブルスキー(Vn*3),梁美沙(Vn*4,5),メングラ・ハン(Vn*6),ロハン・デ・シルヴァ(Pf)

現在,金沢市内で行われているいしかわミュージックアカデミー(IMA)という夏期講習会の関連行事として,世界の有名コンクールで入賞した若い奏者によるフェローシップコンサートが行われました。登場した人は,いずれもIMAのマスタークラスの受講生(または過去の受講生)です。そして,驚いたことに最近ドイツ・グラモフォンからCDを発売して注目を集めている庄司紗矢香さんが急遽出演することになりました。この方は一昨年のIMAの受講生だったのです。当初のビラには何も書いてなかったのですが,当日の新聞に小さく記事が載っていたので,何としてでも聞きに行こうと思って出かけてきました。このコンサートは入場無料だったのですが,整理券が必要で,入れてもらえないかな,と期待して出かけたのですが,しばらく待っていたら運良く入れてもらえました。

最初にその庄司さんが登場しました。庄司さんは,1999年のIMAでザハール・ブロンさんの指導を受けた後,パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールで優勝したとのことです。小柄な方でしたが,音がたくましく,美しく響くのに驚きました。しかも高級感があり,ちょっと聞いただけでゾクっとしました。技巧のキレも良く,曲全体の印象が非常に鮮やかでした。テンポも落ち着いており,スケールも大きいと思いました。実は,今回も講習を受けるために金沢に来たとのことですが,これ以上一体何を学ぶのでしょうか?庄司さんの登場で,会場は一気に盛り上がった感じでした。

続く,木嶋さんは,庄司さんよりさらに小柄な感じでした。2000年のヴィエニャフスキ国際コンクールで2位(1位なし)とのことでしたが,パンフレットを調べてみると何とまだ中学3年生でした。このプロコフィエフも見事な演奏で,音楽の流れに非常にうまく乗った演奏だと思いました。特にスピード感のある,2,4楽章は力いっぱい弾いている感じで,見ていて胸がすく思いがしました。音はスリムな感じで,叙情的な1,4楽章にもよく合っていました。

次のミヒャエル・オブルスキーさんは,多分,ロシアの方だと思います。この人は,1999年のサラサーテ国際ヴァイオリンコンクールで優勝しています。この日のプログラムの中では,いちばん渋い曲を演奏していましたが,演奏自体も内省的な雰囲気がありました。曲が短調のせいもあるのですが,常に何かを問い掛けているような感じの音で,ピアノと対話をしているような魅力的な雰囲気がありました。ただ,音質の方は,ずっと聞いているとちょっと疲れて来るかな,という気がしました(3人目だったせいもあるかもしれませんが)。

後半は,梁美沙さんが最初に登場しました。この方も木嶋さんと同じぐらい小柄の方で,やはり中学3年生でした。2000年のメニューイン国際ヴァイオリンコンクールジュニア部門で優勝しているのですが,恐るべき中3だと思いました。特にミルシュタインの曲の方は,この日演奏された曲の中でいちばん盛大な拍手が起きていました。パガニーニのカプリースの続編のような難曲ですが,もの凄い迫力がありました。会場に来ていた講師の先生(すぐ近くにいたのですが)も演奏後「ブラボー」と言っていました(叫んでいたわけではなく,思わず,出たという感じでした)。演奏中,弓の毛を何回かむしり取っていましたが,それだけ熱演だったのだと思います。この曲の前に演奏されたイタリア組曲の方は,曲想にふさわしく明るい音色でのびのびと演奏していました。レガートがとても美しかったですが,速い楽章は,ちょっと重いかな,という気もしました。

最後のメングラ・ハンさんは,木嶋さん同様,2000年のヴィエニャフスキ国際コンクールで第2位になっています。また,2001年第1回仙台国際音楽コンクールで優勝しています。曲がいちばん大規模で,非常に聞き応えがあったのですが,演奏の方も,各楽章ごとに違った雰囲気を出しており,表現の幅がとても広いと思いました。音は透明だけれどもとてもしっかりとしており,楷書を見るようでした。見ていると,右手の動きもとても正確で,キレも良いと思いました。この曲を聴くのは初めてでしたが,最後の楽章が民族的な舞曲のような雰囲気になり,ショパンを思わせるようなところがあり,楽しめる曲でした。

というわけで,5人の若手の演奏を2時間以上に渡って聞いたのですが,カロリーの高いケーキを5つ続けて食べたようで,すっかり満腹してしまいました。伴奏のシルヴァさんも非常に大変だったと思います。メインになるような曲ばかり立て続けに聞いて,コンクールの審査員の苦労(?)がわかるような気もしました。どの演奏も的確な演奏で,後は好みの問題,となっている点がすごい所です。というわけで,来年以降のIMAでもフェローシップコンサートがあれば注目してみたいと思います。
2001いしかわミュージックアカデミー:フェローシップコンサート