2001いしかわミュージックアカデミー:室内楽コンサートII
01/8/28金沢市アートホール
1)フォーレ/ピアノ四重奏曲第1番
2)ブラームス/チェロ・ソナタ第2番
3)ドヴォルザーク/ピアノ五重奏曲
●演奏
原田幸一郎(Vn*1),長谷川弥生(Vla*1)ルドヴィート・カンタ(Vc*1),植田克己(Pf*1)
ジャン・ワン(Vc*2),ロハン・デ・シルヴァ(Pf*2)
ザハール・ブロン,ミヒャエル・オブルスキー(Vn*3),毛利伯郎(Vc*3),馬渕昌子(Vla*3),デジン・キム(Pf*3)

8月18日から行われていた「いしかわミュージックアカデミー」も終盤になり,講師による室内楽コンサートが開かれました。室内楽コンサートは2回行われたのですが,前回のオーケストラコンサートで素晴らしい演奏を聞かせてくれたチェロのジャン・ワンさんのソロを聴きたいと思い,2回目の方に出かけてきました。会場は,受講生がたくさんいたこともあり超満員でした。翌日にはこの講習会も閉会するということもあり,会場のロビーは,何となく開放的な気分があふれていました。

最初のフォーレの曲は,とても美しい演奏で,室内楽のプロによる,お手本のような演奏でした。この曲を聴くのは初めてだったのですが,品の良さの中に第2楽章スケルツォのようなユーモアもあり,親しみやすい作品だと思いました。弦楽器がユニゾンで出てくる時の美しさも印象に残りました。

が,実は,次のジャン・ワンさんのチェロ演奏を聴いた後では,このフォーレの印象はほとんど吹き飛んでいました。それほど凄い演奏でした。冒頭の強靭な音による主題の提示からして聞き惚れてしまいましたが,その後,ぐっと音が弱まっていくあたりの緊張感も見事でした。最初から最後まで集中力がものすごく,表現の幅もとても広いと思いました。ちょっと気合が入り過ぎかな,と思うほどだったのですが,それがしつこく感じられないのは,音が常に純粋で芯が一本通っているからだと思います。2楽章のピチカートも,とても強い音で迫力がありました。こんなに訴えて来る力をもったピチカートを聴くのは初めてのことです。曲全体に渡って,聴衆をグッと引き付けるような魅力を持った見事な演奏だったと思います。ピアノのシルヴァ氏も熱演で,力と力のぶつかり合いのような場面もありましたが,こちらの方も常に美しい音で応えており,ワンさんとの相性は抜群だと思いました。演奏後,会場からは,ブラボーの声が飛び交い,非常に盛り上がりました。これから,ワンさんのCDをいろいろ探して,他の曲も聴いてみたいものだと思いました。

後半のドヴォルザークは,好みが分かれる演奏だったと思います。非常に熱気のある演奏でしたが,私はあまり良いとは思いませんでした。第1ヴァイオリンのブロンさんのヴィブラートをたっぷり掛けた音ばかりが目立っており,アンサンブル全体としての響きは,かなり雑然としてうるさく感じられたからです。冒頭は,毛利さんのチェロでしっとりと始まったのですが,ブロンさんの音が入ってくると,常に前に前に出ようとしているようなアグレッシブな雰囲気になり,ちょっと疲れました。もう少し引いてくれる場面もあっても良いかなと思いました。2楽章の終り頃でヴィオラのソロが落ち着いて出てくると,思わずホッとしました。3楽章は,基本的なテンポ設定が速すぎるのではないか,と思いました。キムさんのピアノは,軽やかに見事に決まっていましたが,全体の雰囲気は落ち着きがありませんでした。というわけで,全般にブロンさんだけが,浮いてるような感じでした。前半の第1曲目のフォーレとは対照的な演奏だったといえそうです。ブロンさんは,世界的なソリストを育ててきた教育者として有名な方ですが,室内楽の演奏にはあまり向かないのではないか,という気さえしました。なお,当初,この演奏の第2ヴァイオリンは辰巳明子さんが担当するはずでしたが,急病のため,受講生の1人であるミヒャエル・オブルスキーさんが演奏していました。
2001いしかわミュージックアカデミー:室内楽演奏会II