石川県立音楽堂柿落公演:石川県民交響楽団・合唱団演奏会
2001年9月15日 石川県立音楽堂

1)ハイドン/オラトリオ「四季」〜春,秋
2)ホルスト/組曲「惑星」
●演奏
岩城宏之/石川県民SO,Cho(合唱指揮:大谷研二)
トロイ・グーキンズ(コンサートマスター*1)
松井直(コンサートマスター*2)
ヤーナ・ハヴラノヴァ(S*1),クラウス・シュナイダー(T*1),ルドミル・クンチュウ(Br*1)

石川県立音楽堂柿落公演2日目は,石川県のアマチュア演奏家による演奏会でした。参加していた人々の年齢層は,かなり幅広かったようで,県内のアマチュア・オーケストラと合唱団が総結集したような感じでした。そういうことができるようになった,というだけで嬉しいのですが,演奏された内容も高い水準でした。やはり,OEKの設立が県内の音楽教育に与えた影響は大きく,結果としてアマチュアの演奏水準も高くなってきたのではないか,と感じました。ステージ上には,これ以上入らないぐらい大勢の奏者が乗り,指揮者や独唱者が通るのも大変そうでしたが,その窮屈そうなステージを見るだけで,エネルギーのようなものを感じました。

前半は,ハイドンのオラトリオ「四季」から春と秋が演奏されました。弦楽器は相当の大編成でしたが,音量的には,少々物足りないと思いました。もっと小編成で演奏しているOEKの弦楽器の方がはっきりと聞えるような気がしました。が,この辺はアマチュアがOEKに太刀打ちするのは無理なことでしょう。合唱団の方は,男声がかなり少なく,女声の半分ぐらいしかいないようでしたが,バランスは良く,暖かみのある響きを出していたと思います。フーガでクライマックスを作る時にも十分な力感を感じました。この曲には,レチタティーヴォの時にチェロとチェンバロで通奏低音が入りますが,これはOEK関係者が担当していました。独唱者としては,昨日の第9に登場した3人が再登場しました。3人ともコントロールのきいた見事な歌唱で,長い曲を引き締めていました。特に,テノールのシュナイダーさんの歌には,宗教的な曲に相応しい節度があると思いました。

曲全体としては,春の曲の方が親しみやすいような気がしましたが,秋の方も,狩りのホルンや終曲の鳴り物などにハイドンらしいユーモアがあり十分楽しめました。どちらも,素朴な祈りと喜びが溢れ,日本人にとっては,純粋にキリスト教的な曲よりは親しみやすいのではないかと思いました。

秋の中で,畑を荒らす動物を鉄砲で撃つ場面があるのですが,そこでのティンパニの一撃が印象に残りました。実は,私の隣の席の人は,秋の途中からウトウトしていたのですが,この一撃でビクっと起き上がりました。交響曲第94番「驚愕」のエピソードなどを思い出してしまいました。秋の終曲も素晴らしいと思いました。この日の柿落公演は,石川県民自らが演奏に参加してお祝いをするという趣向なのですが,秋の終曲の庶民による収穫の祝いと重なる部分がありました。この日に演奏するには相応しい選曲だと思いました。この部分は,ハイドン自ら「泥酔のフーガ」と呼んだそうですが,あまりに巧過ぎる演奏よりも雰囲気が出ていたのではないかと思いました。岩城さんの指揮は,アマチュアだからといって妥協するところはなく,速いテンポ設定で演奏していた部分もあったようでした。長い曲でもあったので,演奏者は大変だったと思います。

後半の,ホルストの「惑星」は,生で聴くのは初めてのことでした。恐らく,会場にいた人の多くにとっても同様だったでしょう。合唱とオルガンの入る大規模な曲を石川県民自らが演奏するということは,このホールができるまでは考えられなかったことです。この日の演奏のためには,相当,ハードな練習をしたと思われます。管楽器・打楽器が派手に活躍する曲なので,ソロを担当した人などは相当プレッシャーがかかったと思いますが,いずれも見事に演奏していたと思います。

火星は,冒頭のコルレーニョ奏法からして生でないと味わえない面白さに溢れていました。この日の編成は,後ろ半分はブラスバンドなのではないかと錯覚するぐらい沢山の管楽器奏者がいました。そのせいかフォルテの音には壮絶な迫力がありました。制御不能と思わせるような強い音からは,若いエネルギーのようなものを感じました。それでいて粗っぽくならなかったのは,練習の成果だと思います。岩城さんの指揮も直線的だったので,ダイレクトに曲の迫力が伝わってきました。

金星は,一転して静かな曲になるのですが,こういう曲になると,弦の音程などでちょっと粗が目立つかな,という気がしました。冒頭のホルンなどはいい雰囲気を出していたと思います。水星は,CDで聞くよりもずっと色彩的に聞えました。

木星は,もともと親しみやすい曲ですが,この日の演奏は,弦が派手過ぎないのがさらに親しみやすい味になっていたと思います。ホルンやトランペットもピタリと決まっていたと思います。土星での弦楽器は非常に美しく,全体として,とてもよくまとまった演奏になっていたと思います。

天王星は,火星と並んでこの日の演奏の中で特に楽しめたものでした。今までじっくり聴いたことのなかった曲だったのですが,生で聴いてみると非常に変化に富んでいて楽しめました。こういう曲は雑然とした感じになることもありますが,岩城さんの指揮は,鳴らすところと抑えるところのメリハリをきっちり付けていたので,とてもわかりやすい演奏になっていたと思いました。この曲も金管楽器と打楽器が大活躍しますが,ティンパニが特に素晴らしいと思いました。若い女性奏者の素早いバチさばきは格好良く,見事でした。

結びの海王生もCDで聴く印象よりも,ずっと変化に富んでいる印象を持ちました。CDでは,ただ「あー」と言っているだけの曲だと思っていたのですが,結構いろいろな楽器が微妙な味付けをしているのがわかりました。女声合唱は,宇宙の遥か遠くから聞える非人間的な響きというよりは,人間的な暖かみのある響きでしたが,良いバランスだったと思います。演奏後,初めてステージに登場するというのも,目立つことができて(?)良いですね。

というわけで,昨日の第9とはまた違った意味での盛り上がりがありました。今回,とても素晴らしい成果を上げたので,練習は大変だと思いますが,こういう機会が再度あると良いのではないかと思いました。
石川県立音楽堂柿落公演:石川県民交響楽団・合唱団演奏会