オーケストラ・アンサンブル金沢第106回定期公演PH
01/9/20 石川県立音楽堂コンサートホール

1)モーツァルト/交響曲第40番ト短調K.550
2)モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調K.218
3)モーツァルト/ミサ曲ハ長調「戴冠式ミサ」K.317
●演奏
岩城宏之/Oens金沢
角田美樹(Vn*2)
ヤーナ・ハヴラノヴァ(S*3),アンドレア・ベーカー(A*3),クラウス・シュナイダー(T*3),ルドミル・クンチュウ(Br*3),バンベルクSOCho(合唱指揮:ロルフ・ベック*3))
マイケル・ダウス(コンサートマスター)岩城宏之(プレトーク)


Review1 by管理人hs 六兼屋さんの感想かきもとさんの感想

石川県立音楽堂が完成して初めての定期公演でした。このところ岩城さんの指揮による柿落公演が続いたせいか(私は,9月になって岩城さんの指揮を見るのが何と5回目です),満席にはなりませんでしたが,新しいスタートを切るオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)を応援しようという雰囲気が会場にはあり,なかなか良い雰囲気でした。岩城さんのプレトークにもあったとおり,今回のプログラムの意図は「OEKにとっていちばん重要なレパートリーであるモーツァルトが新ホールでどう響くかを,いちばん大切なお客さんである定期会員に聴いてもらおう」という点にあったと思います。1988年11月にOEKが出来た時のプログラムもオール・モーツァルト・プログラムでしたが,これからも,このホールからたくさんのモーツァルト演奏が生まれることになるでしょう。

最初の交響曲第40番は,深刻になり過ぎない演奏でした。「疾走する悲しみ」とも呼ばれる4楽章もそれほど速く走っていませんでした。プレトークにもあったように「OEKの音」を自然に聴かせようとした演奏といえます。その「音」ですが,以前定期公演の行われていた金沢市観光会館の時に比べると,すべての楽器の音に厚みが出てきたような気がしました。木管楽器が特に美しく聞こえます。中でも「入る,入らない」という版の問題のあるクラリネットの音が積極的な感じで印象に残りました。2楽章などでは,弦楽器の残響が美しく響き,なんともいえない寂寥感が漂っていました。というわけで,このホールで力まず普通に演奏すれば,悪い演奏になる確率は相当低いのではないか,と思ったりもしました。

2曲目は,ヴァイオリン協奏曲第4番でした。新ホールでの定期公演のソリスト第1号は,有名な演奏家ではなく,角田美樹さんという若いヴァイオリニストでした。岩城さんは,新人を育てようという気持ちがとても強い方ですが,その意図が表れていたのかもしれません。角田さんの音は細身で,見た目の印象もあわせるととても清潔な感じでした。音量的にはやや不足するような気もしましたが,室内オーケストラとのモーツァルトを聴く分には丁度良いバランスでした。音楽の流れによく乗って演奏していましたが,ヴィルトーゾ風にバリバリと弾くという感じではなく,とても爽やかな演奏になっていました。ただ,音程が悪くなるようなところが少しありました。曲がシンプルなだけに目立ちやすい―というのが,モーツァルトの怖さかもしれません。OEKの演奏の方も,角田さんの雰囲気によくあっていました。特にオーボエの美しい響きが気に入りました。

後半には,先日の柿落公演でも共演したバンベルク交響楽団合唱団が登場しました。その時同様,大変立派な演奏でした。その時,この合唱団のことを「プロの合唱団」と書いてしまったのですが,岩城さんの話によると「プロのように上手なアマチュア」ということでした。この場を借りて訂正させていただきます。プロのように感じたのは,やはり何といっても雰囲気が堂々としているからです。OEK合唱団と同じような団体ということになるので,OEK合唱団の方も,バンベルク交響楽団に招かれて共演でもできたら面白いと思います。いろいろなオーケストラとの交流は既にありますが,他の合唱団との交流もそのうちに出てくるかもしれません。

さて,戴冠式ミサの演奏ですが,この合唱を中心として,とても重厚な演奏になっていました。タテの線がビシっと揃っていて,曲の最後の盛り上がりも堂々としていました。その一方,ソプラノのソロの方はオペラのアリアそのもので,こちらの方にはヨコの流れを感じました。この両面を楽しめる,良い曲だと思いました。CDで聴いた感じでは,素朴で明るい部分の印象が強く残ったのですが,この日の演奏は陰影に富んだ演奏だったと思います。クレドで念を入れるように強くアクセントを入れていたのも印象に残りました。

ソリストも,先日の第9の時と全く同じだったのですが,この曲では,ソプラノとテノールのソロが中心でした。何と言っても,アニュスデイでのソプラノの印象が強く残る曲です。非常に聴きごたえのある歌唱でしたが,宗教曲として聴くならばもう少し清潔感があるといいかな,とも思いました。テノール・ソロの方は,先日聴いた「四季」の時同様,コントロールのよくきいた歌で,とても良い雰囲気が出ていました。

楽器編成は,ヴィオラ抜きという不思議なものでした。オルガンも加わっていましたが,あまり目立っていませんでした。この日のメンバー表によるとティンパニ奏者としてクリスティアン・シュティアさんの名前がありました。この方は,OEK設立時のティンパニ奏者だったのですが,新ホール完成を機会に復帰したのでしょうか?その他,おなじみのジェフリー・ペインさんもトランペットに加わっていました。

新ホールになって気づいたのですが,曲が終わった後の拍手の出方が遅くなったような気がします。多分,ホールの残響を聴き終わってから拍手をしているのだと思いますが,これは良い傾向だと思います。OEKの響きも大人っぽくなった気がしますが,聴衆の方も優雅になったのでしょうか?この辺は,これからの演奏会でどうなるか様子を見てみようかと思います。



Review2 by六兼屋さん

昨晩、新ホールでの最初の定期に行きました。八割ほどの入りだったと想像いたします。3階の前の方でしたが、かなり響きます。大編成のオケをコントロール無くならすと、(物理の用語を勝手に比喩的に使いますが)音が飽和状態になって、聴くに堪えないだろうと思います(オペラシティーなどでそういうことがある)。観光会館も響きすぎるのが難点の一つだったので、この点はちょっと心配です。

19時開演の予定でしたが、岩城監督によるプレトークが19時からということで、異例の始まりでした(OEK では時々あるのでしょうか)。最初は多発テロの犠牲者への追悼のための黙祷でした。黙祷の途中、ホール所属の案内の青年のひそひそ声が聞こえたのは残念でした。バケツ募金がなかったので、まあ、いつもやっているわけではないのだろう(金沢を離れていた3年以上定期会員ではありませんでしたので)、と、そう勝手に納得しました。詮索はやめておきます。

スピーチの内容については、岩城氏の意とするところを受け止めるようにしたいと思います。私の斜め後ろに座っている人は、定期会員の方々はOEK の本当の音を知らない、と言った岩城氏に小声でブーイングでした。まあ、もっと違う言い方があるのでは、と私も思いましたが(モーツァルト等の古典はあまりやらなかったと言っていたが、当ホームページのデータベースをご覧になって下さい)。

岩城氏の声は、闘病の結果でしょうか、聞き取れない語やフレーズが沢山ありました。もう少し発声の練習をなさらないと、日常生活にも事欠くのではないか、と思うほどでした。

演奏についても、一言、二言。交響曲第40番ト短調を聴いていたときの私は、勤務の疲れが出て集中力を欠いていました。そう断った上で、弦の響きには、ちょっと残念なものを感じました。聴く者の心に翳りを残す曲ですが、響きはあくまでも透明でなければ、と思うのに、ちょっと、、、。ただ、2曲目のヴァイオリン協奏曲は、単に朗らかなだけではない曲想を、弦はよく表現していたと思います。協奏曲を交通整理する岩城氏の力量は、ベテランの域に達した方ならではのものと感じました。3曲を通じ、OEK の管のメンバーは皆、本当に素晴らしい(例えば、トロンボーンなどと比して。彼らもエキストラとは言え、常連かも知れないが。因みに、エキストラの名前もプログラムのメンバー表に載っているのは良い!)。

戴冠式ミサは速めのテンポ。もう少し遅かったほうが、オケ、合唱、独唱群とも、もっと綺麗に響いたのではないかと思います。4人の声楽家のうち、テナーが良かったと思います(声の質が私好みということか?)。ソプラノはアニュス・デイでのソロには責任を全うしようとする姿勢が見られましたが、キリエのソロはあっけらかんとしているだけで、微妙なニュアンス付けに欠けていたように思いました。合唱は力強い!。第9では更に活躍しただろうと想像いたします。曲後の拍手で合唱指揮者が出てこないのは残念でした(来日していないのか?)。オケは大雑把な鳴らし方(指揮者のコントロールが甘いのだろうか)に聞こえるところと、良い響きのところ、様々でした。

客席の照明は暗くし過ぎだと思います。歌詞カードやスコアを見る上で、不便です。まあ、そういうものを見る人がいると、騒音源になりかねないのですが。以上、取り留めもなく記しました。(2001/9/21)



Review3 byかきもとさん

遅ればせながら、9月20日の新音楽堂になって初めての定期公演の感想を投稿させていただきます。すでに皆様の投稿にも書かれているように、岩城さんのプレトークで、OEKの最も大切なレパートリーであるMozartの取って置きの名曲を、地元の定期会員の方に聴いていただきたいという旨のお話があった後、最初のプログラムである交響曲第40番の演奏が始まりました。

音楽の流れが実にスムーズで、しかもふくよかな管弦楽の響きを堪能できる演奏でした。必要以上に重厚にもならず、かといって古楽奏法のときのように鋭角的でもなく、あくまでも疾走するMozartであり、OEK本来の自然体のMozartであったように思いました。基本中の基本のような名曲でしたが、新生OEKの新しい船出を飾るのにはやはり最も相応しい曲だったのではないでしょうか。

次のヴァイオリン協奏曲第4番では、特に十分に歌い込まれ、ヴァイオリンの美音が堪能できた第2楽章が出色のできばえでした。小生は不勉強のためソロの角田さんという奏者を今まで全く知らずノーマークだったのですが、岩城さんもお話していたように、着実なあゆみをされてきた実力者だと思います。今後きっと大輪の花を咲かせてくれることでしょう。

さて、最後の戴冠式ミサ曲ですが、これはバンベルクの合唱団の実力が遺憾なく発揮された名演でした。残念ですがOEK合唱団とはかなりレベルの差があるのは、如何ともしがたいところでしょうか。かなり早めのテンポにもかかわらず、合唱には全く不安定なところはなく、透明な響きが音楽堂の高々とした空間に広がっていくのが実に気持ちよく聞き取れました。ソロについてはすでに書き込みのあるとおりですので、私があえて言うことはありません。アーニュスデイでのSop.のソロと実力者ぞろいのOEKの管楽器奏者のからみあいが実に美しく感動的でしたが、惜しむらくはSop.のソリストのややフラット気味の音程とビブラートの多さでした。

休憩を挟んで前半は1階席(右翼側)で、後半は2階席(左翼側)で聴きましたが、詳しいことはよくわかりませんが、2階の方が音響がより優れているようです。ただ、2階席の両翼では座席の背もたれによりかかっていると、時として音が目の前を素通りしていくような感じがあり、体を起こしてやや前のめりになって聴くと俄然音場の中に身を置く感じが得られるように実感いたしました。(2001/9/25)









オーケストラ・アンサンブル金沢第106回定期公演PH