バーデン市立劇場来日公演「セヴィリアの理髪師」
01/9/24 金沢市観光会館

ロッシーニ/歌劇「セヴィリアの理髪師」(全2幕,イタリア語)
●演奏
クリスティアン・ポラック/モーツァルティアーデO,ルチア・メシュヴィッツ(演出)
パウル・アルミン・エーデルマン(フィガロ,Br),イザベラ・マーツァッハ(ロジーナ,S),ズリンコ・ソーチョ(アルマヴィーヴァ伯爵,T),マルティン・ヴィンクラー(バルトロ,Br),シュテファン・コツァン(バジリオ,B),アンナ・クララ・ハウフ?(ベルタ,S)他


Review1 by管理人hs ひよこさんの感想

このところJR金沢駅前に新しく完成した石川県立音楽堂の方にばかり行っていたのですが,金沢では珍しく外国のオペラ劇場の公演が行われるということで,久しぶりに(といっても1ヶ月ぶりですが)金沢市観光会館に行ってきました。今回,来演したのは,ウィーン郊外のバーデン市にあるバーデン市立劇場で,ロッシーニの「セヴィリアの理髪師」が上演されました。バーデンは,いわゆる「ウィーンの森」の中にある都市で,その名のとおり温泉地として有名です。温泉地で保養しながら,オペラやオペレッタを楽しむ,という優雅な土地のようです。

今回の上演には有名な歌手は登場しなかったのですが,全体として小粋なオペレッタを観るような楽しい雰囲気があり,この作品を初めて観る人にも十分楽しめる内容になっていました。その楽しさを作っていたのは,何といっても,バルトロ役のヴィンクラーさんの演技でした。カツラなど小道具を使って笑いを取ったり,わざとらしく足音を立ててチョコチョコと歩いたりと非常に芸達者な人でした。声量も十分あり,歌の方も見事でした。バルトロのソロでは,1幕に早口を駆使したアリアがあるのですが,その早口言葉がチョコチョコとした歩き方と呼応しているようで,巧くキャラクターを出しているなと思いました。

その他の歌手も,それぞれ美声で,不満はなかったのですが,オペラとして見るとやや押し出しの強さのようなものが足りなかったかもしれません。ロジーナは,本来はメゾ・ソプラノが歌う役柄ですが,この日はソプラノが歌っていました。こういうケースもよくあるようですが,やはり,メゾ・ソプラノ版の方が聴き慣れているせいか,やや装飾過剰に思えました。また,今回ロジーナ役だったマーツァッハさんの歌い方は,やや品の無いものに思えました。これ見よがしに息継ぎを入れたりしていたのも少々気になりました。このオペラでは,ベルタという女召使が登場し(多分ハウフというソプラノだったと思うのですが不明),1曲だけアリアを歌うのですが,この人の雰囲気は,「老けた脇役」という役柄にぴったりでした。このベルタ役は,以前から「何故か気になる役柄」だったので,何となく嬉しく感じました。

各幕切は,全員が登場するアンサンブルになるのですが,この辺もバルトロを中心として,楽しめる演技になっていました。もう少し,オーケストラにダイナミックさがあると,さらに弾んだ感じになったかもしれませんが,編成が小さかったので仕方のないところかもしれません。

その他,演出もセットも照明も衣装も,変わったところのないオーソドックなもので,安心して観られました。私のような,初めてこの作品を生で観るような観客にとっては,今回のような作品の質を歪めないような演出の方がありがたいと思いました。唯一気になったのが,1幕前半で延々と,噴水の音がBGM的に聞こえていたことです。セットには確かに噴水があるのですが,その音をわざわざ鳴らす必要はないと思いました。アルマヴィーヴァ伯爵のセレナードからフィガロによる「町の何でも屋」まで,背後に水の音がザーザーと鳴っているのは相当耳障りでした。これはもしかしたら何かの手違いだったのかもしれません(それとも西洋人は気にならない?)。1幕前半は,せっかく有名曲が続くのに集中できなかったのが非常に残念でした。

1幕の「今の歌声は」の前には舞台転換があり,しばらく空き時間があったのですが,これも本来は回転舞台などでスムーズに転換すべきところだったと思います。この辺は舞台の構造場仕方がないことかもしれません。

今回の上演は,重量感のある上演ではありませんでしたが,その分,観ていて全然疲れませんでした。オペラの持つ素朴な楽しさが伝わってくるような舞台で,お客さんからも盛大な拍手が続いていました。客席には,新ホール完成の影響もあったのか,かなり空席も目立ちましたが,拍手はとても熱心なものでした。しかもとても良いタイミングで拍手が入っていました。ここ数年,金沢では毎年オペラが上演されていますが,徐々にオペラを観る作法(?)をわきまえた聴衆が増えてきたのかもしれません。

PS.入場料はそれほど高くはなかったのですが,その割に非常に詳細な解説書がプログラム代わりに付いていました。特に第1幕の方は,全曲の楽譜まで掲載されていました(第2幕の方になると急に簡単になっているのがやけに不均衡でしたが)。巻末にはマンガ版「セヴィリアの理髪師」まで載っていました。役柄の表記も「フィガロォ」「バルトォロ」「ロシィナ」などと恐らく原音に近いと思われる表記を使っていました。いろいろな「こだわり」がある解説書で,なかなか読みごたえがあったのですが...やはり,上演前に読むには,筋書きがシンプルに書いてあるものの方が便利かなと思いました。(2001/9/24)



Review2 byひよこさん

こんにちは。初投稿します。ひよこと申します。このようなHPを立ち上げてくださった管理人hsさんに感謝します。私は年に数回OEKの演奏を聞く機会があるのですが、ほかに聞いた方々の反応を幅広く知る場があればいいなあと常日頃思っていたので、このようなHPができてとてもうれしいです。ときどき登場したいなと思っていますのでどうぞよろしくお願いします。

ところで、私も昨日「セヴィリアの理髪師」見てきました。hsさんの演奏会レビューも拝見しました。同じように感じた方がいらっしゃるとなんだかホッとしますね。最初の噴水の音は本当にうるさかったです。アルマヴィーヴァ伯爵が「静かに、静かに」と楽師たちを制している場面なのに、「水の音うるさいよ!」と突っ込まずにはいられませんでした。

このオペラは、伯爵とフィガロとロジーナの3役はいずれも超有名なアリアで登場するので歌手たちのプレッシャーはかなり大きかっただろうなと思います。伯爵のアリアはロジーナを慕う誠実さが良く出ていたと思います。フィガロは「町の何でも屋」のアリアは良かったのですが、まだ若くてしかもハンサム?だったので3枚目に今ひとつなりきれなかったような気がします。ロジーナはhsさんがレヴューに書いていたようにメゾソプラノ用のアリアを装飾でかなり音域を上に上げていて、しかもピッチが微妙に高かったので何度か耳をふさいでしまいました。ずっとこのまま歌われたらどうしようかと思いましたがアンサンブルになると別人のように音程が良くなっていたので、きっとアリアはかなり気合を入れて歌ったのでしょう。

全体的にはロッシーニのオペラの特性を良くつかんだスタンダードな演奏だったと思いました。客席からは「ブラボー!」もかなり飛んでいましたし、空席が目立ったわりには盛り上がった演奏会でしたね。

それとちょっと首をかしげたのは字幕です。前回、同じくバーデンの「魔弾の射手」を見たときも思ったのですが、字幕に使われている日本語が古めかしい気がしたのですがどう思われましたか?時々聞き慣れない(見慣れない)意味不明な熟語が出てきたりして、眼がスムーズに動かなかったのですけど・・・。訳詞を作られた方のプロフィールが解説の後ろに載っていましたが、日本を離れたのがかなり昔のようですし、今もウィーンに住んでいるようなので、そのせいで日本語が古いのでは?と思いました。妙な解説書でしたしね。字幕付言語上演のオペラの場合はいかにコンパクトにわかりやすく字幕を作成するかが勝負どころになると思うのですが、人名の読み方を本来の発音にこだわってかえってなじみ難い表記に執着していたのがとても気になります。先日の柿落としの「呼びかわす山河」の字幕とは役割が違いますしね。

それともうひとつ欲を言えば、レチタティーヴォは本物のチェンバロで聞きたかったです。キーボードで代用してそれに近い音は出していたのですが、残響がありすぎてアーティキュレーションに不満が残りました。観光会館にはチェンバロがありませんし、すると当然調律などのメンテナンスをする人もいないので、あの低価格チケットでチェンバロに文句をいうのはぜいたくというものでしょうか。

感想をいろいろ書いて長くなってしまいましたが、金沢のような地方都市にも音楽堂のような良いハードとOEKのような良いソフトが共存していける環境ができたというのはすばらしいことだと思います。わたしもこのHPともども応援していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。10月のカルメンはいけませんが、11月に富山にザクセン・アンハルト劇場の「サロメ」には行くつもりです。なんといっても見所は「七つのヴェールの踊り」をどう演出するかです。またご報告します。(2001/9/25)
バーデン市立劇場来日公演「セヴィリアの理髪師」