オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ
ブルクハルト・クロイトラー/ウィーン・アンサンブル
01/9/26 石川県立音楽堂邦楽ホール

シュトラウス,J.II/喜歌劇「くるまば草」序曲
シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」〜チク・タク・ポルカ
ランナー/シュタイアー風舞曲
シュトラウス,J.II/ポルカ「クラップフェンの森で」
シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」〜チャールダッシュ
シュトラウス,J.II/喜歌劇「ヴェネツィアの一夜」から
レハール/喜歌劇「メリー・ウィドゥ」〜メリーウィドウ・ワルツなどのメドレー
レハール/喜歌劇「メリー・ウィドゥ」〜ヴィリアの歌
レハール/ワルツ「金と銀」
シュトラウス,J.II/ワルツ「南国のバラ」
(アンコール)
レハール/喜歌劇「メリー・ウィドゥ」〜マキシムに行こう
シュトラウス,J.II/ワルツ「美しく青きドナウ」
●演奏
マイケル・ダウス,江原千絵(Vn),石黒靖典(Vla),ルドヴィート・カンタ(Vc),ブルクハルト・クロイトラー(Cb),岡本えり子(Fl),遠藤文江,木藤美紀(Cl),金星眞(Hrn,司会)


Review by管理人hs

石川県立音楽堂は,コンサートホールの他に歌舞伎などの上演も可能な邦楽ホールを備えている点が大きな特徴となっていますが,この邦楽ホールで初めて「洋楽」のコンサートが行われました。邦楽の柿落公演は既に終わっているので,「邦楽ホールでの洋楽の柿落」(わけのわからない言いまわしですが)ということになります。このところコンサートに行き過ぎなのですが,私は,「初めて」という言葉に弱いので,この日も「どんなところだろう」という興味半分で当日券を買って出かけてきました(定期会員だったので500円引きで券を買うことができました。しかも,当日券と前売券の価格の差がなかったので,1500円で2階最前列に座ることができました。)。

このホールなのですが,コンサートホールと比較すると,「見るためのホール」になっているのが大きな違いです。ステージの幅が広い割に客席の奥行きが小さく,最高列でもステージは近く感じます。1階には桟敷席もあったのですが,今回は使っていませんでした。広さの印象としては,文教会館ホールの幅をぐっと広げて,2階建てにしたような感じです。ステージの方は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)なら何とか全部乗るぐらいの広さはあります。

音響の方は,残念ながらあまり良くありませんでした(当然といえば当然ですが)。ステージが近い割に音が客席まで届いていませんでした。この日はステージ上に屏風のようなものが置いてあり,その前で演奏していたのですが,ステージの後方に音を反響させるものがないと,洋楽を演奏するにはかなり苦しいのではないかと思います。花道の七・三のあたりで演奏したらよく聞えるだろう,と思いましたが,これはちょっと実現不可能でしょう。この日は,花道は取り外してあったのですが,花道を通ってクラシックの演奏家が入場する,というのも一度見てみたいものです(飛六法はやらなくても良いですが)。というわけで,室内楽を聞くなら,ホテル日航にある金沢市アートホールの方がずっと良いと思います。

それでも,このホールにこだわる理由があるとしたら,それは,やはりホールの雰囲気です。赤と青を基調とした座席には,普通のコンサートホールにはない和風の雰囲気があるし,何といっても2階席最前列の手すり下にずらっと並んでいる赤提灯が魅力的です(その提灯に,県立音楽堂のマークであるオタマジャクシのような絵が書いてあるのがまた良い味)。開演前のブザーは,まさに「ブー」というブザーだったのですが,こういう無愛想な音も邦楽には相応しいかもしれません。

というわけで,洋楽用に音響を改善することが可能ならば,演奏する方にとっても聞く方にとっても,かなり楽しめるホールになるのではないかと思いますが,そこまで音響を改善できないとしたら,あえてクラシック音楽用として使わなくても良いと思いました(金沢市アートホールの方がずっと良い音響なので)。

ホールのことばかり書いてしまいましたが,この日の演奏者は,柿落公演以来,客演コントラバス奏者としてOEKに参加しているブルクハルト・クロイトラーさんを中心とした大き目の室内アンサンブルでした。ダウスさん,カンタさんなどお馴染みの弦楽器奏者5人に管楽器奏者が4人加わった9人編成でしたが,この編成は,ウィーン・リング・アンサンブルと全く同じもののようです。クロイトラーさんは,元ウィーン・フィルの方ですが,ウィーンの酒場で演奏されているような編成ということになります。クラリネットが2本というのが面白いところです。1人はフルートといっしょに旋律を演奏し,もう1人はホルンと一緒に伴奏をしている,といった感じでした。

演奏された曲目は,すべてウィーンゆかりの作曲家のもので,ニューイヤーコンサート的な雰囲気がありました。レハールの「メリー・ウィドウ」の曲も何曲か演奏されましたが,クロイトラーさん自身,そういうオペレッタに登場してきそうな暖かくて洒落た雰囲気を持ったおじいさんといったという趣きでした。どの曲にも,重過ぎないけれども,激しくもなり過ぎない落ち着きがあったのは,全体のテンポを支えていたクロイトラーさんの力によるものだと思います。柔らかで穏やかな感じの演奏は,OEKのニューイヤーコンサートの雰囲気とはまた別の魅力がありました。

中では,レハールの曲が印象に残りました。この編成だと弦の音がやけに艶っぽく聞こえ(ダウスさんのヴァイオリンだからだと思います),レハールの雰囲気にぴったりでした。ダウスさんは,前半最後のチャールダッシュで見事な技巧を見せ,クロイトラーさんから「ハンガリーのウォッカ」(いかにも強そう)のプレゼントをもらっていましたが,音がもっとよく通るホールだとさらに迫力が感じられたことと思います。

この日の女性奏者たちは,非常に華やかに着飾っており,夜会の雰囲気でキメていました。これももしかしたらクロイトラーさんの趣味(?)かもしれません。管楽器では,クラリネットの遠藤さんの音が非常によく聞えました。この方のクラリネットにはソリストのような雰囲気があるので,いつも大変聞き映えがします。チャールダッシュの冒頭は,ダウスさん同様に見事でした。

「クラップフェンの森で」では,最後におもちゃの笛がチョコっと登場して終わりになるはずだったのですが,ちょっと拍手とのタイミングがズレてしまいました。この辺は,ご愛嬌という感じで微笑ましかったです。その他,曲間にトークが入ったりして,あれこれ趣向を凝らしていたのですが,演奏しながら司会(ホルンの金星さんがクロイトラーさんの話を訳しながら司会を進めるという形でした)というのは大変そうだったので,司会専門の人がいた方が良かったような気がしました。

邦楽ホールでの初めて演奏会ということで,演奏者の方も,やってみないとわからない点がいろいろあったと思います。その点で,完成度はやや低い演奏会だったかもしれませんが,何よりも,クロイトラーさんの人柄がダイレクトに伝わってきて,とても後味の良い演奏会になりました。(2001/9/26)
オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ:ブルクハルト・クロイトラー/ウィーン・アンサンブル