オーケストラ・アンサンブル金沢第107回定期公演M
01/10/2 石川県立音楽堂コンサートホール

1)サン=サーンス/「糸杉と月桂樹」作品156〜月桂樹
2)モーツァルト/交響曲第35番ニ長調K.385 「ハフナー」
3)ファリャ/バレエ音楽「三角帽子」第2組曲
4)シュトラウス,R./交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」op.30
(アンコール)
5)ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」〜「ワルキューレの騎行」
●演奏
井上道義/Oens金沢(1,2,4,5),大阪PO(1,3-5)
マイケル・ダウス(Vn*4),井上圭子(Org*1,4)
マイケル・ダウス(コンサートマスター*2,4,5),岡田英治?(コンサートマスター*1,3)
井上道義(トーク)


Review by管理人hs 六兼屋さんの感想

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の新しい定期公演シリーズは,フィルハーモニー・シリーズ(PH),マイスター・シリーズ(M),ファンタジー・シリーズ(F)の3シリーズに分かれているのですが,今回の演奏会は,そのうちのMの第1回目ということになります。今回の演奏会には,大阪フィルハーモニー交響楽団がゲスト・オーケストラとして登場し,OEKとの合同演奏会になりましたが,MではPHより規模の大きな曲,派手目の曲を取り上げる機会が多くなるようです。

過去,合同演奏会は何回か行われましたが,いずれもお祭りのような感じで盛り上がりました。今回も新ホール完成のお祝いを兼ねたような雰囲気で大変盛り上がりました。演奏された曲自体,盛り上がる曲ばかりだったのですが,指揮者の井上道義さんの派手なキャラクターによるところも大きいと思います。この日は,プレトークがなかったのですが,休憩時間に井上さんが登場し,この日のプログラムやこのホールのこと,大阪フィルのことなどについてお話をしてくれました(プレトークをすっぽかしてしまったのでこの時間にやったのかもしれません)。大阪フィルの昔の練習場の話(OEKはめぐまれている),朝比奈さんはすごい(90歳を過ぎても段々良くなっている),サン=サーンスのオルガン付き交響曲は嫌い...など相変わらずの楽しいトークで会場は大いに沸きました。この方は,風貌からして他の指揮者にはない強い個性がありますので,今回の登場でさらに人気が出たと思います。

まず最初に,合同演奏で,サン=サーンスの「月桂樹」という曲が演奏されました。トークにもあったとおり,井上さんはサン=サーンスのオルガン付き交響曲が嫌いらしいのですが,この曲については,オルガニストの井上圭子さんのアドバイスで選んだようです。かなり珍しい曲ですが,オープニングにぴったりの曲でした。もともとは,「糸杉と月桂樹」という曲の中の一部なのですが,冒頭からオルガン付き交響曲のフィナーレが出てきたような明るさがありました。オルガンの音色もバッハなどを聴く時よりは色彩感があると思いました。大編成でも重苦しくならないのがサン=サーンスらしさです。ずらっと並んだトランペットの演奏も気持ちの良いものでした。

2曲目は,OEKによるハフナー交響曲でした。余分な椅子や使わない楽器が沢山並んだ中での演奏ということで,少々見た目は悪かったですが,演奏は見事でした。曲の最初の方では,派手な曲の後だっただけに音量の面で物足りなさが残りましたが,次第に慣れてきて,いつものOEKの音を楽しむことができました。井上さんは,指揮棒なし,指揮台なしで指揮をしていましたが,細かいニュアンスの変化に富んだ面白い演奏になっていました。全体に遅めのテンポでとても丁寧に表情をつけていました。井上さんは,指揮の動作自体とても大きいのですが,OEKはその井上さんの手足となったような見事な反応を示していました。こういう味の濃い演奏でも小編成なのでもたれることはありません。井上さんは,トークの中で「ハフナー,良かったでしょ?私もやっていて気持ち良かった」と言っていましたが,これだけ,オーケストラの反応が良ければ満足だと思います。楽器の中では,オーボエの音がよく聞こえました。前回の定期公演の時もそうでしたが,このホールだと木管楽器の音が特に美しく響くようです。

前半最後は,大阪フィルによる「三角帽子」第2組曲でした。この曲も遅目のテンポでエネルギー感たっぷりに豪快に聴かせる演奏でした。ただし,こちらについてはやや腰が重いように感じました。ここでもトランペットをはじめとした金管楽器は野性的といってよいほど鋭い響きを出していましたが,もう一つオーケストラのノリが悪かったからかもしれません(井上さんの指揮ぶりはここでも派手で,フラメンコを踊っているような雰囲気があったのですが)。

後半は,「ツァラトゥストラはかく語りき」でした。有名な冒頭部分を含めて生で聴くのは初めてのことでした。まず,ステージ上の人数に圧倒されました。120〜130人はいたのではないかと思います。前半最初の合同演奏では,大阪フィルの奏者がトップを務めていたのですが,「ツァラトゥストラ」では,コンサートマスターのダウスさんをはじめとしてOEKの奏者がトップを務めていました。弦楽器は,1プルトごとに両楽団が交互に配置するような並び方でした(つまり,後ろの方は皆,大阪フィルということになります)。前回のNHK交響楽団の時は,1つの譜面を別の楽団の2人が使うという形だったと思いますが,やはり今回の形の方が演奏しやすいのだと思います。

有名な冒頭部分ですが,ステージ上の空間的な距離があるので,まず,きっちり合うかどうかという緊張感がありました。見事に決まりました。オルガンの迫力のある重低音も,抑制の効いたトランペットも良かったのですが,その後のティンパニのソロも見事でした。品格の漂う充実した響きでした。その後,音の塊のような全奏があり,うねるようなクレッシェンド,デクレッシェンドがあって,キッパリと序奏が終わるのですが,この部分を聴いただけで大満足でした。この日のOEKは,コンサートマスターにダウスさん,チェロにカンタさん,首席トランペットにペインさん,そして,ティンパニにオケーリーさんという最強の布陣だったのですが,それに「ツァラトゥストラ」初挑戦という気合いが加わり,演奏全体にも何とも言えない充実感が出ていたような気がします。

以下はあまり有名ではないのですが,山あり谷ありの変化のある部分が続き非常に楽しめました。全般に,オーケストラの人数が多い割に非常に明快な演奏になっていました。この曲は,哲学書を題材としているだけに,重苦しくドロドロとした感じにもなりそうな曲ですが,非常に爽やかな印象を受けました。序奏でもそうだったのですが,「ドー・ソー・ドー」のテーマを強烈に演奏して区切りをつける前半最後の部分もスカっと切るような感じで終わっていました。低弦がモゴモゴと動いている「科学について」の辺りは,CDだと退屈しそうな部分ですが,やはり,音の動きが明確に聞こえ,とても面白く感じました。音の空間的な広がり方もCDとは全然違います。オルガンの音もCDで聴くよりも分離して,大きく聞えました。派手な曲ですが,一瞬,パイプオルガンが入るだけで,宗教的な雰囲気にパッと変わるのも面白いと思いました。その半面,弦楽器の方はそれほどゴージャスには感じませんでした。CDの方は「録音の魔術」が入っているのかもしれません。

後半では,何といってもペインさんのトランペット・ソロが見事でした。このソロは急に高音に跳ぶので,演奏するのがとても難しく,外しやすいのですが,ペインさんの演奏は,余裕さえ感じられる弾きっぷりでした。ダウスさんのソロも軽やかで品の良いものでした。先日,邦楽ホールで聴いたウィンナ・ワルツを思い出してしまいました。クライマックス近くの鐘の音も,衝撃的でしたが,それでも,全体のバランスを崩すほどではなく,効果的に響いていました。最後の終わり方は,まさしく「尻すぼまり」なのですが,これはこれで,独特な雰囲気があって面白いと思いました。

というわけで,改めて,この曲はよくできた曲だと感じました。井上さんは,こういう振幅の大きい曲がよく似合う指揮者ですが,ただ情熱的に指揮しているわけではなく,冷静な計算もあり,曲全体がガッチリとまとまっていました。OEKのメンバーの中にはこの曲を演奏するのが初めての人が多かったと思うのですが,お客さん同様に楽しんでいたのではないかと思います。

アンコールは,やはり合同で,ワーグナーの「ワルキューレの騎行」が演奏されました。この曲を生で聴くのも初めてのことでしたが,金沢の聴衆も,大きなプレゼントをもらった気持ちで聴いていたのではないでしょうか。私は,途中から妙に打楽器が気になり,「やけにシンバルがよく出てくるなあ」と,連打をしているシンバルの方ばかりを感心しながら見ていました。

この日の演奏会では,大編成のオーケストラを聴く喜びを痛感できたのですが,実は,このことは,日頃,小編成のオーケストラばかりを聞いているから味わえることなのではないかと思いました。大編成のオーケストラばかりを聴き続けるよりは,小編成を聴き続けていて,時々大編成を聴く方が「幸せ感」が大きいのではないか,と思ったりしました。金沢の聴衆は,大も小も楽しめますが,世の中には大しか味わえない人も結構多いような気もします。

演奏会終了後,楽屋出口付近で,偶然,トランペットのペインさんに出会いました。小泉首相のように「よく頑張った。感動した」と言いたかったのですが...やはり,とっさに言葉は出ず,何か適当にしゃべり掛けたら,ペインさんの方も嬉しそうに"Thank you"とか何とか言っていました。終演後も興奮が残るような演奏会でした。(2001/10/03)


Review by六兼屋さん

ご無沙汰しています。合同演奏会に、私も行って来ました。マイスターシリーズの会員ではありませんが、妻の職場の上司が行けなくなったのを、チケットを譲っていただきました(隣の席の方が上司の配偶者でいらっしゃったのに気づかず、先方も黙っておられたので、失礼をしてしまうという「オチ」もつきました)。
 充分なリハーサルをして演奏に臨んだ、という点ではモーツァルトの交響曲が一番の名演奏になったと思います。井上の、テンポはゆっくりだが、舞曲的なリズム感を大切にし、だれない演奏に仕上げるという方針は、大変成功したと感じました。
 「ツァラトゥストラ」ではやはりこの曲に対する井上の解釈というか方針というか、それがしっかりしていたのが、よい演奏につながったと思います。ただ、オケの響きが引き締まっていたか、という点ではちょっと難があります。特にチェロ、コントラバス、それから時々金管が今ひとつ。最初の方と後半に一回ずつ出てくるファゴットのソロは素晴らしかった。柳浦さんはいつもいい演奏を聴かせます。
 井上は後半の舞曲を大切にしたかったのではないかと思います。ダウスさんのソロはお見事でした。慣れてらっしゃるという感じでした(コンマスの登用試験では定番の曲だそうですね)。(2001/10/05)
オーケストラ・アンサンブル金沢第107回定期公演M