ザクセン=アンハルト歌劇場来日公演「サロメ」
01/11/13 オーバードホール(富山市)

シュトラウス,R./楽劇「サロメ」(1幕による上演・ドイツ語)
●演奏
ゴロー・ベルク/ザクセン=アンハルトPO,Cho,バレエ団員
ヨハネス・フェルゼンシュタイン(演出)
エイラーナ・ラッパライネン(サロメ,S),ルドミル・クンチュフ(ヨカナーン,Br),ハンス=ディーター・バーダー(ヘロデ,T),イロナ・シュトライトベルガー(ヘロディアス,Ms),レンダル・レイド=スミス(ナラボート,T),ヤーナ・フライ(Ms)


Review byひよこさん

こんにちは。富山での「サロメ」、翌日の金沢での「さまよえるオランダ人」と2日続けてオペラを見てきました。地方で来日オペラを連続で見られるというのは珍しいことではないでしょうか?

オペラは一つ見るだけでも気力と体力を要するので、シュトラウス、ワーグナーと比較的重めの演目を連続で見るのは不安だったのですが、演出が近年の抽象的なものと比べるとわかりやすかったせいか、思ったほどの疲労もなく両日とも楽しめました。 ちょっと長くなりますが、感想を書いてみます。

楽劇「サロメ」
舞台は最初赤い布で全体を覆ってありました。音楽が始まると同時に布が吊り上げられて舞台装置があらわになり、預言者ヨハナーン(ヨハネ)が捕らわれている井戸を中心にらせん状に円を描くように舞台が組まれていました。オーケストラはピットではなく舞台後ろに斜幕を隔てて配置されるという変わった演出だったので、指揮者が登場するのが全く見えず、拍手なしの開幕となりました。

背景には青白い大きな月が映し出されていました。これが舞台装置と比べると異常な大きさで、また非常に美しく、不気味な雰囲気をかもし出していました。これから起こる悲劇を予言しているかのようで、演出家の一つのこだわりだったようです。

特に印象に残ったのは、ヘロデ王を歌ったテノールのディーター・バダーでした。ヘロデ王はヘロディアスの夫を殺して国王となったいわゆる入り婿で、王家の高貴な血筋とは無関係な人間です。そして物欲・肉欲に溺れていて、義理の娘であるサロメを、娘としてではなく肉欲の対象として見ているのですが、その性格が声と演技によく表現されていました。(おなかが出ていたのも良かったかも?)

サロメ役はソプラノですが、音域はかなり低いところまであったようです。「ヨハナーンの首が欲しい」と何度も繰り返すところは、低い音域を多用していて、地声をうまく使える歌手でないと凄みが出ないのですが、ラッパライネンはよく歌っていたと思います。

そしてこのオペラの見所「七つのヴェールの踊り」ですが、吹き替えなしで踊っていました。

斜幕と照明を使ってシルエットで踊りを見せる部分、奴隷2人とセックスをイメージさせるような振り付けの部分、ヨハナーンのいる井戸に向かってサロメの欲望を表現する部分、と大体3つに分けられたと思います。

斜幕の裏で踊ったかと思うと、前に出て斜幕をはぎとり、それをヴェールにして踊る演出はなかなかでした。個人的にはもうちょっと踊りらしいものを期待していたのですが、バレエの経験はないようで、髪の毛を振り乱して走っているという印象でした。「官能」というには少し子供っぽくて物足りない感じがしました。

ヴェールは1枚ずつ脱いでいくというものではなく、クライマックスで初めて服を脱ぎ全裸になるという演出でした。後ろの方の席だったうえ、オペラグラスを持っていなかったので、全裸の真偽は定かではありません。

サロメは望みどおりヨハナーンの首を手に入れると、踊りの後に身に付けた白い衣装を脱ぎ捨て再び全裸になりました。ヨハナーンの首と座って向かい合い、話しかけます。この部分はおそらく非常にテクニックを必要とする部分だと思います。かなり長い時間歌っていたのですが、声量を落として、狂気に至る部分はすばらしかったと思います。

サロメにひきつけられました。あの部分を全裸で歌うのは、やはりスタイルがよくないと見ていられないなと思ってしまいました。

オーケストラは奥舞台から聞こえてきたのと、響きがあまりないホールだったので、ちょっと物足りない気もしましたが、音楽監督のゴロー・ベルクのもと、整ったアンサンブルだったと思います。

歌手陣は好演していたのですが、一つ欲を言えば、ヨハナーン役のクンチュフ(先日の音楽堂柿落としでバンベルク響と一緒に来日していた人です)に、もう少しカリスマ的な存在感がほしかったと思います。個人的には金沢でオランダ人を歌ったレルヒのほうが合っていたと思いますが。

富山公演はほぼ満席でした。私はそんなにオペラをみた本数は多くはありませんが、あんなにオペラグラスを持ってきたお客が多かったのは初めてです。富山でのオペラはチケットがかなり安いですし、(S席が1万円未満!)JRの駅が目の前にあるので遠方から来た方もいたようですね。 (2001/11/16)
ザクセン=アンハルト歌劇場「サロメ」