エマニュエル・パユ&ケルビーニ弦楽四重奏団演奏会
01/11/29石川県立音楽堂コンサートホール

モーツァルト/フルート四重奏曲第3番ハ長調,K.285b
ロッシーニ/フルート四重奏曲第4番ニ長調(原曲:弦楽ソナタ第6番ニ長調)
モーツァルト/フルート四重奏曲第4番イ長調,K.298
モーツァルト/フルート四重奏曲第2番ト長調,K.285a
ロッシーニ/フルート四重奏曲第2番イ長調(原曲:弦楽ソナタ第2番イ長調)
モーツァルト/フルート四重奏曲第1番ニ長調,K.285
(アンコール)
ロッシーニ/フルート四重奏曲変ロ長調(原曲:弦楽ソナタ第4番変ロ長調)〜第3楽章
ハイドン/セレナード
●演奏
エマニュエル・パユ(Fl)
ケルビーニSQのメンバー(クリストフ・ポッペン(Vn),ハリオルフ・シュリヒティヒ(Vla),ジャン=ギアン・ケラス(Vc)


Review by管理人hs

石川県立音楽堂の開館記念事業としていろいろなタイプの演奏会が次々と行われていますが,今回はフルートと弦楽器による室内楽の演奏会でした。フルートは,今,世界でいちばん人気も実力もあるフルーティストの1人,エマニュアル・パユさんで,共演は,CDでも共演しているケルビーニ弦楽四重奏団の中の3人でした。「いちばん人気がある」と書いたのですが,意外なことに,かなり空席が目立ちました。人気があるといっても,まだ,ランパル,ゴールウェイ・クラスの知名度はないのかもしれません。とはいえ,演奏の方は素晴らしく,最後の方は盛大な拍手で盛り上がりました。パユさんは,数年前,金沢に来ており,私もそのリサイタルに行ったのですが,その直後に大ブレイクしました。数年の間にCDも増え,急速にスターになったような感じです。

この日のプログラムは,モーツァルトのフルート四重奏曲が中心だったのですが,これだけだと,変化がないし,時間的にも短いので,ロッシーニの四重奏曲(オリジナルは弦楽のためのソナタ)も2曲演奏されました。作品の並びは,いちばん有名で充実した作品であるモーツアルトの第1番をメインに持ってきて,前半と後半のそれぞれ真中にロッシーニを入れるという,シンメトリカルなものでした。フルート四重奏だけでプログラムを組むなら,これしかない,というような配列だったと思います。

モーツァルトは,フルートという楽器が嫌いだったらしく,この四重奏曲集も気合いを入れて作っていないようなところがあります。有名な第1番をのぞくと,他の作品の転用や他作曲家の作った主題による変奏曲がかなり含まれています。しかも,4曲中2曲が2楽章だけです(2楽章だけだとどこで拍手したら良いのか結構迷います。)。というわけで,私自身,1番以外は,きちんと聞いたことはなかったのですが,この日の演奏は退屈することがありませんでした。

何といってもパユさんのフルートが絶品でした。パユさんの音は基本的にピシッと締っているのですが,それでいて豊かさを感じさせてくれます。この日の曲は古典派の曲ばかりということで,ヴィブラートは控えめでしたが,痩せた感じは全くしません。メロディの歌わせ方も滑らかで,傷が全然ありません。そこに何ともいえない湿り気のようなものも加わり,自然に吹いていても,お客さんをじっと聞き入らせるような魅力が出てきます。弱音になっても高音になってもバランスが悪くなることはなく,常に余裕を持って演奏していました。特に抑制の効いた弱音は,かなり意識的に演奏していたようで,特に魅力的でした。モーツァルトのシンプルな曲でも,非常に陰影のある演奏になっていました。

この日の楽器の配列は,下手からヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ,フルートという並び方で,フルートの筒はステージ奥の方を向く形になったのですが,それでも音量的な物足りなさを感じることはありませんでした。普通に考えると,フルートがいちばん下手に来て,筒をお客さんの方に向けた方が音が良く届くかな,という気がするのですが,これは音量に自信があるからできることなのでしょうか?直接音が届かないせいか,ブレスの音とかノイズは全然聞こえませんでしたが,この辺を狙っていたのかもしれません(詳しい方がいらっしゃいましたら教えて下さい。)。

モーツァルトの曲では,最後に演奏された第1番が曲自体の魅力もあり,特に素晴らしい演奏でした。第1楽章は,非常に伸びやかな演奏でした。他の曲でも慌てたところの全くないテンポ設定だったのですが,この曲では特に伸びやかな吹きっぷりで,スケールの大きさを感じました。第2楽章はまさにパユさんの一人舞台で,引き締まった真っ直ぐな音がホール中に美しく響いていました(空席が多かったせいかとても残響が豊かでした)。3楽章の出だしは,予想外にひっそりとデリケートな感じで始まりました。それが次第に色合いを変えて華やかになっていく辺りが見事でした。同じフレーズをエコーのように繰り返す時,2回目は弱く演奏していたようですが,そういった点を含め,隅々まで行き届いた演奏でした。

ロッシーニの方は,より華やかでフルートの名技性が前面に出ていたようでした。高音が多く,メロディもシンプルなので,モーツァルトの曲よりも親しみやすく感じました。フルートの軽やかな音の動きもモーツァルトにはないものです。この曲集には,イタリア的と言っても良いような爽やかな雰囲気があり,私は大好きなのですが,フルートが入ると,どこかメランコリックな雰囲気になるのも面白いと思いました。

共演していたケルビーニ四重奏団のメンバーの演奏も見事でした。ヴァイオリンのポッペンさんは,数年前OEKの年末公演で第9とミサを指揮した方ですが,ヴァイオリニストとして聴くのは初めてです。全体にヴイブラートをあまりかけずに演奏しており,地味な感じでしたが,パユさんのフルートと対話をするような間の良さが見事でした。ロッシーニの曲の中の速いパッセージは,パユさんが楽々演奏しているのに比べると少々窮屈に聞こえましたが,強い表現意欲を感じさせてくれるようなところがありました。非常に知的で,よく計算された演奏をしていたと思いました。

アンコールには,ロッシーニの別の曲と,通称「ハイドンのセレナード」が演奏されました。カーテンコールで出てきた時,パユさんはフルートを持っていないようだったので,もうアンコールはないかな,と思ったのですが...服の下にフルートを隠し持っており,ヒョイと出した時は,お客さんは大喜びでした。セレナードでは,ヴァイオリンとヴィオラの奏者がギターのように楽器を持ってピチカートの伴奏をしていました。色男のパユさんをギターで伴奏するということで,セレナードの雰囲気にぴったりでした。パユさんはちょっと変わったフレージングで演奏していましたが,リラックスした見事な音でお客さんは大満足でした。(2001/11/30)
エマニュエル・パユ&ケルビーニ四重奏団演奏会