スウェーデン放送合唱団演奏会
01/12/1 石川県立音楽堂コンサートホール

バッハJ.S/モテット「主に向かいて新しき歌をうたえ」BWV.225
モンテヴェルディ/マドリガーレ集第6巻〜いとしい女の墓に注ぐ恋人の涙
ブラームス/ジプシーの歌,op.103*
ヒルボルイ/ムウヲオアヱエユイユエアオウム(16声部の混声合唱のための)
サロネン/私にキスして!
トレッセン/わが神,私の敬うお方
ノアゴー/子供のように
(アンコール)
アルヴェーン/アフトネン
スウェーデン民謡/Joungfrun hon gari ringen
●演奏
フレドリク・マルムベリ/スウェーデン放送Cho
ミカエル・エングストレーム(Pf*)


Review by管理人hs

今回も石川県立音楽堂の開館記念事業として招聘された団体による演奏会です。次々といろいろなタイプの演奏会が行われ,しかも,各分野での超一流の奏者・団体ばかりだという点がすごいところです。恐らく,これだけ短期間に外来演奏家が金沢を訪れたことは今までにないと思います。来年以降は,落ち着くと思うのですが,金沢が本当に「音楽都市」と呼べるような時代になれば,これが普通になるのかもしれません。

というわけで,今回は,近年ベルリン・フィル御用達の合唱団としても有名な,スウェーデン放送合唱団による演奏会でした。この合唱団は,今回の来日ではNHK交響楽団とも共演していますが,それ以外にも「ア・カペラ」による演奏会を各地で行っています。この日も会場には空席が目立ちましたが,聴衆には「世界一」との評判を聞きつけた熱心な人が多かったようです。合唱関係者や学校の合唱クラブの生徒と思われる集団の姿も目につきました。演奏された曲には,それほど有名な曲はなかったのですが,後半のヒルボルイの曲をはじめとして,圧倒的といってよいほどの精度の高い合唱を聞かせてくれました。

プログラムは,前半はクラシックな曲,後半は現代の北欧の作曲家の作品,という構成でした。モンテヴェルディからサロネンまでということでかなり年代的には幅の広い選曲でしたが,全く違和感はありませんでした。ピアノ伴奏が付いたのは前半最後のブラームスだけだったので,ほとんど「ア・カペラ」の演奏会といっても良いと思うのですが,その点が演奏会全体の統一感を作っていたと思います(後半もピアニストがステージ上にいたのですが,音を出したのはチューニングのためだけ,という「ぜいたくな」使い方でした)。ア・カペラは,いちばん原始的な演奏法だと思うのですが,現代の曲にもバロック以前の曲にもマッチするのは,そのことと関係があると思います。

演奏会は,ところどころ男声団員が英語で曲を解説しながら進められました(「あいさつ」は日本語でしたが)。指揮者ではなく,団員が解説をしているのが,ユニークでした。指揮のマルムベリさんは,それほど目立つ感じではなく,団員の中の一人といった雰囲気でした。

演奏会の最初は,バッハのモテット「主に向かいて新しき歌をうたえ」という曲でした。全体に祝祭的な雰囲気のある曲で,演奏会当日に皇太子ご夫妻にお子様が生まれたのを祝福しているかのようでした。ただし,おめでたいといっても派手過ぎるところはありません。この合唱団のハーモニーは,非常に透明度が高いのですが,それは音程が非常に正確で,声にヴィブラートが少ないからだと思います。しかも,演奏全体に会場の空気と一体になったような自然な雰囲気があります。人数は,各パート8人ぐらいで合計32名ぐらいだったのですが,これぐらいの人数だと精度とボリュームをうまく両立させることができるのかもしれません。中間部では各パートのソロが出てくる箇所がありましたが,いずれも見事に揃った声質で,全体のバランスも良いと思いました。この曲は,2つの合唱が掛け合いをする曲なので,合唱団の配置もそのような形になっていましたが,その掛け合いや最後の方のハレルヤなどで,控えめながらも,おめでたい感じを盛り上げていたのがとても好ましく思いました。

次の曲はモンテヴェルディの曲でした。こちらの曲は,かなりシンプルな感じの曲でしたが,タイトルにあるとおり,かなりロマンティックな内容を歌っていたようで,とても気持ちのよい雰囲気がありました。前曲同様,バランスの良い合唱で,ずっと浸っていたい感じでした。

前半最後は,ブラームスの「ジプシーの歌」という,短い曲が11曲つながった合唱曲集でした。ハンガリー舞曲の合唱版といったところかもしれません。この曲だけピアノ伴奏が入ったのですが,ピアノが入ると急に近代的な響きに感じられるのが面白いと思いました。この曲についても安定感と安心感のある充実した歌が聞けたのですが,情熱的という感じはあまりしませんでした。その点が新鮮な気がしましたが,演奏会のアンコールなどでハンガリー舞曲を聞くような素朴な躍動感のようなものがはあまりなかったかもしれません。この曲については,9月に聞いたバンベルク交響楽団合唱団のようなもう少し重みのあるような響きが相応しいかもしれません。

後半は,北欧の現代作曲家の作品ばかりが,ア・カペラで演奏されました。やはり,この合唱団のいちばん得意とする分野はこちらの方なのでしょう。中でも後半最初のヒルボルイの「ムウヲオアヱエユイユエアオウム」という曲は物凄い曲の物凄い演奏でした。奇妙なタイトルの曲ですが,この「ムウヲオ...」といった意味のない歌詞を16声部に分かれた混声合唱が延々とお経のように歌い続けるものです。いわゆるミニマリスム音楽の曲で延々と同じようなパターンが続くのですが,それが微妙にズレていったりして,聞いている人の感覚を気持ち良く麻痺させてしまうような効果があります。最初に「お経」と書きましたが,曲の最初の方の弱音は,人間が歌っているとは思えないような不思議な響きでした。SF映画で宇宙の雰囲気を出すとしたらこういう感じかな,というような響きでした。アイヌやモンゴルの民族的な独特の発声法のように聞こえたりもしました。最後になると,口に手をあてて「アワワワ...」とやったり,口笛のような音が聞こえたりと,非常に不思議な曲でしたが,それでいて,さほどエキセントリックな感じもしなかったのは,この合唱団の演奏の精度が非常に高いからでしょう。会場も大いに盛り上がり,ブラボーの声も掛かっていました。このような音楽は,家でCDで聞いてもあまり面白くないと思います(夜に一人で聞いているとかなり怖いかも?)。やはり,人が生で歌っているのを凄いなと思いながら聞くのが良いと思います。これは,滅多に味わえない聞き物でした。

次の曲は,指揮者として有名なエサ・ペッカ・サロネンがこの合唱団の創設75周年記念のため作った曲です。冒頭の「シーッ」というようなささやき声が印象的でしたが,その後はもう1つ印象に残りませんでした。

トレッセンの曲は,宗教的な雰囲気と現代的な雰囲気が共存したような曲でした。ヒーリングミュージックのような気持ち良さがここでもありましたが,それでも全体の印象が鮮やかなのは,この合唱団の素晴らしさだと思います。

演奏会最後の曲は,ノアゴーという人の曲でした。子供の頃の思いを描いた詩に付けた数曲からなる曲で,最初の「子守唄」が最後に再現して終わります。この子守唄は,「カ,カ,カ,カ,カ...」といったキツイ音の響きやソロによる奇妙な叫び声が随所に出てきて,不思議な魅力と怖さがあるような曲でした。中間の曲では,半音の音の動きがちょっとジャズっぽいかなと思いました。ドラマを秘めたような意味深の曲で,なかなか聴き応えがありました。

アンコールは,2曲演奏されました。いずれも北欧の作品でした。アルヴェーンの曲は,静謐な雰囲気のある素晴らしい曲でした。2曲目は,素朴な曲で譜面を見ずに歌っていましたので,この合唱団のアンコール・ピースの定番なのかもしれません。堂々とした歌いっぷりで演奏会全体をピシっと引き締めてくれました。

というわけで,この合唱団については「北欧」と「現代作品」にこだわったインターナショナルな合唱団という印象を持ちました。後半をア・カペラで通したのも素晴らしいと思いました。演奏会の後半は,素人が考えると,もっと派手な曲を並べた方が良いのではと思ったりするのですが,あえて知名度の低い,ア・カペラの曲ばかりを並べた点にこの合唱団のプライドの高さを感じました。

(余談)この日のプログラムは,100円という安さでした。100円といえば,おみくじと同じ値段です。それでいて十分な情報量がありました。他の演奏会も見習ってほしいと思いました。が,それならチケット代に含めても良いのでは?という気もしました。

今日気付いたのですが,ステージ上の白い反響板(?何と言うのかよく知りませんが)の位置が演奏会によって違っているようです。先日のエマニュエル・パユの時は下がっていたのですが,この日の演奏会の時は,上に上がっていました。どういう違いがあるのか,そのうちに詳しい人に教えてもらいたいものです。(2001/12/1)
スウェーデン放送合唱団演奏会