ロンドン・シューベルト・アンサンブル演奏会
01/12/3 石川県立音楽堂邦楽ホール

1)バトラー/ピアノ五重奏曲「アメリカン・ラウンド」
2)シューベルト/ピアノ五重奏曲イ長調,D.667「ます」
3)ブラームス/ピアノ四重奏曲第1番ト短調,op.25
(アンコール)
4)Farrenc/ピアノ五重奏曲第1番〜第3楽章「スケルツォ」
5)ブルーノ(?)/タンゴ
●演奏
ロンドン・シューベルトEns(ウィリアム・ハワード(Pf),サイモン・ブレンディス(Vn),ダグラス・パターソン(Vla),ジェーン・サーモン(Vc),ピーター・バックォーク(Cb*1,2,4,5)


Review by管理人hs

今回報告するのは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のゲスト・コンサートマスターのサイモン・ブレンディスさんが参加されているロンドン・シューベルト・アンサンブルの演奏会です。このアンサンブルは,シューベルトの「ます」を演奏できるサイズの室内アンサンブルで("シューベルト"というネーミングもここから来ているのかもしれません。),いろいろなピアノ四〜五重奏曲をレパートリーの中心としているようです。ASVレーベルなどにマイナーな曲も含め,かなりのCD録音を残しており,徐々に知名度を高めている団体だと思われます。実は,この日の演奏会は,招待券が手に入ったから出かけてきたもので,当初は行く予定ではなかったのですが,予想以上に素晴らしい演奏を聞くことができ,非常に得をした気分です(そのせいで,予定外のCDを買ってしまいました。やはりタダでは済みませんでした。)。

この演奏会は,石川県立音楽堂の邦楽ホールで行われました。前回行った時は,かなりデッドな響きだったので,音響の方はそれほど期待していなかったのですが,いくらか改善されていたようでした(前回は2階,今回は1階なので正確な比較はできないのですが)。前回は,演奏者の後ろに何も壁がなかったのですが(屏風のようなものはありましたが),今回はステージ上の壁面すべてが木でできた塀のような感じになっていました。そのせいか,音は客席の方によく届くようになったような気がしました。響きは,やはりデッドでしたが,狭いホールなので演奏会が進むにつれて慣れてきて,それほど気にならなくなってきました。ただ,奥行きよりも幅が広いホールなので,両サイドに座った人には少々辛いところがあるかもしれません。開演前のブザーの方は,コンサートホールと同じ西村朗氏の作曲のものになっていました。やはり,「ブー」というブザーは評判が悪かったのかもしれません。

プログラムの最初の曲は,バトラーという人のピアノ五重奏曲でした。この人は,メンバーの友人で,このアンサンブルの編成に合った曲の作曲を委嘱されたものです。「ます」のような編成の曲はそれほどありませんから,恐らく「プログラム1曲目」を想定して作られたものなのでしょう。アメリカの民族音楽を素材にした曲,とプログラムには書いてありましたが,その辺はよくわかりませんでした。古典的な雰囲気はありましたが,何拍子かわからないようなリズムが多く,当然のことながら現代的な感じもしました。曲全体にそこはかとなく詩情も漂い,かなり聞きやすい曲でした。

次の曲は,恐らく,このアンサンブルの看板曲ともいえるシューベルトの「ます」でした。演奏は,非常にセンスが良く,新鮮な雰囲気にあふれた演奏でした。全体にやや速めのテンポで,各楽器の音も,リズムも軽やかでした。各楽器のバランスも良く,どぎついところがありませんでした。演奏の流れも非常に良いのですが,ところどころセンスの良い間の入れ方があったりして,「格好いいな」と思わせるような演奏でした。

冒頭のピアノの音からして明るく気持ちの良い響きでしたが,その他の楽器も曲想にふさわしい爽やかがありました。特に,ヴァイオリンとヴィオラは,息がぴったりで,非常に繊細で緻密なアンサンブルを作っていました。第5楽章で非常に軽やかなリズムを刻んでいたコントラバスも印象的でした。第5楽章の途中で,フライングの拍手が入ってしまいましたが,思わず手が出てしまうのもわかるような良い演奏でした(確かにこの部分は紛らわしいです)。

後半のブラームスも基本的には同じような雰囲気でしたが,曲の性格もあり,より情熱的でした。実は,この曲をきちんと全曲で聞くのは初めてのことでしたが,有名なピアノ五重奏曲より,少し軽い分,しなやかさがあるような気がしました(もちろんこの団体の演奏の特徴かもしれませんが)。あまりに重苦しい演奏を聞くと,疲れるところもありますので,このアンサンブルのような透明感のある軽い響きが丁度良いと思いました。そのことによって,はかなく,悲しい雰囲気がかえって強調されていました。

特に印象に残ったのは,随所に出てくる,ヴァイオリンとヴィオラのユニゾンの美しさです。「ます」の時同様,息がぴったりでした。チェロの非常にしなやかな音もよく聞こえてきました。弱音器をつけた第2楽章の繊細な雰囲気や,葉っぱがすっかりなくなってしまったこの季節に相応しい「まさにブラームス」という感じの第3楽章も見事でした。それと,何といっても,ジプシー風の最終楽章のカッコ良さが際立っていました。楽章の最初の方は軽やかで,それほど速いテンポではなかったのですが,曲の最後の方になると,かなりテンポを上げ,大きな盛り上がりを作っていました。速いパッセージでも苦労している様子がなく,アンサンブルが乱れず,泥臭い雰囲気が全然ないのが本当に素晴らしいと思いました。

アンコールでは,コントラバス奏者が再度加わって,2曲演奏されました。1曲目は,Farrenc(ブレンディスさんが日本語で曲名を紹介したのですが,正確な発音はよくわかりませんでした)という19世紀フランスの女性作曲家のピアノ五重奏曲の中のスケルツォ楽章でした。このアンサンブルは,ありとあらゆるピアノ五重奏曲を取り上げ,CD録音をしているようですが,この曲はアンコールにふさわしいとても良い曲でした。ブレンディスさんの繊細で美しい音が,軽快な雰囲気にぴったりでした。アンコールの2曲目は,タンゴでした。後で,職員の人に尋ねたところブルーノという人の曲だ,ということでした。何者がよくわかりませんが,ピアソラなどよりはもっと優雅な感じのする聞きやすい曲でした。

演奏会後には,サイン会が行われました。アンコールの作曲者名をブレンディスさんに尋ねたところ,わざわざスペルを書いてくれました(それでも発音できないのが情けないのですが...)。というわけで,記念にこのFarrencという作曲家の五重奏曲の入った新譜CDを購入してきました。

このアンサンブルは,全国数箇所で公演を行っているようですが,ブレンディスさんは,金沢でおなじみの方ということもあり,特に拍手が多かったようです。OEKの団員の姿も何人かみかけました。機会があれば,是非聞いて頂きたい団体だと思います。(2001/12/04)
ロンドン・シューベルト・アンサンブル演奏会