ドレスデン歌劇場室内管弦楽団2001日本公演
01/12/09 石川県立音楽堂コンサートホール

1)モーツァルト/セレナード第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
2)バッハ,J.S./ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調BWV.1041
3)コレルリ/合奏協奏曲ト短調,op.6-8「クリスマス協奏曲」
4)モーツァルト/交響曲第29番イ長調,K.201
(アンコール)
5)ハイドン/交響曲第45番嬰へ短調「告別」〜第4楽章
6)シュトラウス,ヨハン&ヨーゼフ/ピチカート・ポルカ
●演奏
ヘルムート・ブラニー/ドレスデン歌劇場室内O
アネッテ・ウンガー(Vn*2)


Review by管理人hs

9月以来続けられている石川県立音楽堂の開館記念事業ですが,今回報告するドレスデン歌劇場室内管弦楽団の演奏会で外来演奏家だけによる公演はおしまいということになります(パイプ・オルガンの演奏会はありますが)。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と同じ室内オーケストラということで,10月末に聞いたイギリス室内管弦楽団を含めての聞き比べというのが定期会員にとっての楽しみ・聞き所となりました。このオーケストラですが,有名なドレスデン歌劇場管弦楽団(シュターツカペレ・ドレスデン)のトップ奏者を中心として1994年に結成された室内オーケストラです。ドレスデンといえば,ウィーンと並ぶ「歴史と伝統」というネーム・バリューを持っていますから,サイズは違いますが,やはり10月に聞いたウィーン・フィルとの比較というのもできそうです。それにしても,いろいろ聞かせて頂きました。

今回のこの団体の日本公演には「クリスマス・コンサート」というサブタイトルが付いており,日本各地を回っているのですが,金沢公演の内容がいちばんクリスマスらしくなかったようです。他の都市では,ヴィヴァルディの冬が入ったり,クリスマス協奏曲が2曲入ったり,バッハの「主よ人の望みの喜びよ」が入ったりしていますが,金沢公演では,コレルリの曲以外は「普通」の曲でした。「開館記念事業」という点を重視してプログラミングをしたのかもしれません。

このオーケストラは,弦楽器が第1ヴァイオリン4,第2ヴァイオリン4,ヴィオラ3,チェロ2,コントラバス1というかなりの小編成でした(最後のモーツァルトではホルン2,オーボエ2,ファゴット1が,バッハとコレルリにはチェンバロが加わります)。両ヴァイオリンは,対向配置で,立ったまま演奏していました。OEKの11月定期のブランデンブルク協奏曲の時とちょっと似た感じでした。指揮のヘルムート・ブラニーさんもシュターツカペレ・ドレスデンのコントラバス奏者とのことです。オーケストラに君臨する指揮者というよりは(当然,指揮台もありません),仲間うちのリーダーという感じでした。

最初のアイネ・クライネ・ナハトムジークはおなじみの曲ですが,かなり強くこのオーケストラの個性が出ていました。最初に音を聞いた瞬間,とても渋い雰囲気を感じました。低弦が非常にしっかり鳴っており,その土台の上に抑制された雰囲気のあるヴァイオリン,ヴィオラがバランス良く乗っているという感じでした。そのアンサンブルですが,機械的な意味で精密に揃っているというよりは,「息があっている(漠然とした表現ですが)」といった感じの,次元の違う同一性を感じました。プログラムに書いてあった演奏者の略歴を読むと,みんな「ドレスデン音楽学校に入学...」と書いてあるのですが,その辺に秘密があるのかもしれません。

この曲は,滑らかで明るい曲ですが,この渋い響きを聴いて「ナハトムジーク=夜の音楽」だったのだな,ということを思い出させてくれました。第2楽章は,比較的速目のテンポで,やはり低弦のリズム感を感じました。緩い楽章でも弛緩した感じにならなかったのは,そのせいだと思います。3楽章も速目のテンポでした。第4楽章は,走るようなテンポではなく,「夜の音楽」に相応しい落ち着きがあったのですが,中間部でかなり大胆な休符がありました。伝統的な響きと新鮮な解釈があわさったような独特の味わいのある演奏になっていました。

モーツァルトの演奏後,第1ヴァイオリンの一人が,指揮者と一緒に袖に引っ込んだのですが,その人がバッハのヴァイオリン協奏曲の独奏者として再度登場しました。他の公演でも,団員が協奏曲のソリストを務めているようです(ピアノの梯剛之さんが登場する公演もありますが)。というわけで,それほど派手な演奏ではありませんでしたが,その地味さが,「ドイツのクリスマス」という雰囲気にはピッタリでした。ウンガーさんの音は,すっきりとしたとても良い音で,強弱のつけ方も繊細でした。モーツァルト同様,さらっと演奏された2楽章が印象に残りました。

後半最初のコレルリは,冒頭のテンポがとても速いと感じました。実は,この曲はほとんど聞いた事がなかったので,正確なことはわからないのですが,我が家にあった1970年代の録音のトゥールーズ室内管弦楽団の演奏よりは,かなり速かったようです。やはり,この辺には最近の古楽器演奏の研究の成果が表われているのではないかと思います。合奏協奏曲ということで,ソロがあちこちから出てくるのですが,対向配置のせいで,左右のかけあいが楽しめました。最後の楽章のパストラーレが「クリスマスらしさ」,ということですが,私を含めて,普通の人にはピンと来なかったかもしれません。ヘンデルのメサイアでも,キリストの誕生の辺りで,パストラーレが出てきますが,西洋ではクリスマスには,「パストラーレ=羊飼いの音楽」の雰囲気が定番なのかもしれません。やはり,この最後の楽章が聞かせどころで,とても良い味が出ていました。まるで室内楽のような密やかさで,ボーッと聞いていたら,いつのまにか曲が終わっていたのですが,他のお客さんも終わりがわからなかったらしく,ブラニーさんが客席の方に振り向いて初めて拍手が起こりました(この曲は5楽章構成と書いてあったのですが,区分がはっきりついていないのも終わりがわからなかった原因かもしれません)。とても良い曲なので,今年のクリスマスには(クリスマス・イブではありません),この曲の最後の楽章をひっそりと聞いてみたいと思っています。

最後は,モーツァルトの交響曲第29番でした。ここで初めて管楽器が加わりました。この管楽器の音色ですが,オーボエの音が非常に太くたくましいのが印象に残りました。第1楽章は,とても密やかに始まるのですが,この管楽器群が加わると,全体の響きが大きく広がるようでした。第2楽章では,ヴァイオリンは弱音器を付けているのですが,その上さらに非常にデリケートな弱音を出していたのが強く印象に残りました。その一方,ホルンを強調したりして,強弱の差をはっきり付けた演奏となっていました。これだけ小人数だと(モーツァルトでも弦楽器の人数は増員されていません),オーケストラの反応が機敏で,強弱を鮮明に出すことができるのかもしれません。3楽章は速目のテンポで,4楽章には,かなり大胆な休符が出てきましたが,この辺は最初のアイネ・クライネの時と同じような解釈だったようです。

この日の全体の演奏時間は比較的短く,20分の休憩を入れても2時間かからずに終わったのですが,その分,アンコールが充実していました。アンコール1曲目は(当然これで終わりだと思ったのですが...),ハイドンの告別交響曲の第4楽章でした。奏者が一人ずつステージから去って行き,最後は,指揮者とヴァイオリン2人だけになる演出が普通なのですが,この日は,さらに照明もどんどん落としていました。演奏者の譜面台には,それぞれ小さな電灯が付いており,演奏者がステージを去る時に,この電灯もパチン,パチンと切って帰って行きました。それに合わせて,ステージ上のライトもどんどん暗くなり,曲が終わる瞬間には会場全体が真っ暗になってしまいました。譜面台にこういう照明がついていることは普通はないので,何故かな?と思っていたのですが,これで謎が解けました。ただ,この日は曲が終わり切らないうちに,喜び過ぎたお客さんがブラボーと叫んでいたのが,私には少々残念でした。楽しますための演出だったのですが,静かに終わる曲なので,やはり最後の最後のシンミリとなるところまで味わいたかったと思いました。

とはいえ,この演出がとても受けて,盛大な拍手が起こり,引っ込んだ団員がまた全員出てきました。告別の後に,アンコールはないだろうと思っていたのですが...もう1曲用意されていました。意表をついてシュトラウスのピチカート・ポルカだったのですが,これには,何とチェンバロも加わっていました。こういうのも初めてです。指揮者も途中から小型の鐘を叩きだし,しかもお客さんに手拍子を要求していたようですが,この曲で手拍子をいれるのは,かなり難しいと思いました(テンポが変わるし,叩き方がそれほど単純ではない?)。というわけで,ちょっと戸惑いましたが,非常に和やかな雰囲気で演奏会は終わりました。 (2001/12/09)
ドレスデン歌劇場室内管弦楽団2001日本公演