オーケストラ・アンサンブル金沢第111回定期公演F
01/12/12 金沢市観光会館

【第1章:アメリカの華】
バーンスタイン(ジャック・メイソン編曲)/ウェストサイド・ストーリー・セレクション
マルケッティ/ファッシネーション*
ウィリアムズ/ハーバー・ライツ*
ウィーキング/テネシー・ワルツ*
コープランド./劇場のための音楽〜第1曲「エピローグ」,第2曲「舞曲」
【第2章:ロシアへの郷愁】
ロシア民謡/トロイカ*
ロシア民謡/黒い瞳の若者*
ロシア民謡/草原*
フレンケリ/つる*
ロシア民謡メドレー(灯,モスクワ郊外の夕べ,カチューシャ,すずらん)*
カバレフスキー/組曲「道化師」
【フィナーレ:日本の抒情歌】
滝廉太郎/荒城の月*
宮川泰/銀色の道*
小林亜星/夕陽*
童謡唱歌メドレー(故郷,叱られて,月の砂漠,朧月夜,赤とんぼ,みかんの花咲く丘)*
(アンコール)金子詔一/今日の日はさようなら*
●演奏
ダークダックス(高見澤宏,喜早哲,遠山一)(Vo*)
白石哲也(Pf*),山下昭二(G*)
榊原栄/Oens金沢
サイモン・ブレンディス(コンサートマスター),榊原栄(プレトーク)


Review by管理人hs

12月12日の111回定期公演ということで,何となくゴロが良いのですが,今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の公演は,ファンタジー・シリーズということで,ダークダックスがゲストでした。プレトークで,指揮者の榊原さんは「このシリーズでは,皆様が聞きたいと思う人とドンドン共演していきたい」というようなことをおっしゃられていたのですが,これからも続々とクラシック音楽以外の歌手・演奏家との共演が実現することになるようです。

今回は,演奏活動50周年(ギネスブックに載っているはずです)のダークダックスということで,さすがに年輩のお客さんが多かったです。演奏前から,すっかりなごんだ雰囲気が会場には漂っていました(気のせいか「会場内では飲食しないで下さい」というアナウンスがいつもより多かったような...)。当然,OEKではなく,ダークダックスを聞きに来たようなお客さんが多く,OEKへの拍手がいつもよりも少なかったような気はしましたが,この辺は,仕方のないところかもしれません。この中から,定期会員が少しでも増えてくれれば良い,というのがファンタジー・シリーズの狙いの一つといえそうです。

この日のプログラムは,3部構成になっており,その間をOEKのオーケストラ演奏で繋ぐ形になっていました。第1部はアメリカの華ということでアメリカの曲がさらりと3曲歌われました(「ファッシネーション」といえば映画「昼下がりの情事」の中でジプシー風の楽団が律儀に演奏していた曲なので,ヨーロッパの曲かな,と思っていたのですが...)。その前に,序曲のような感じで,バーンスタインのウェストサイド物語の曲が演奏されました。今回の演奏は,有名なシンフォニック・ダンスではなく,ジャック・メイソンという人が編曲したものでした。この日の打楽器には,先日,邦楽ホールで,Drum!というタイトルの演奏会を開いたばかりのデイヴィッド・ジョーンズさんが文字通りドラム奏者として参加されていました。ジョーンズさんは,大変楽しそうに演奏していましたが(遠くからでも雰囲気がわかりました)。Something comingの前のソロでは,相当派手に叩いていました。こういう演奏があると,他のメンバーも乗ってくるのではないかと思います。その他,トロンボーン3,チューバ1,トランペット3,とかなりたくさんのエキストラが加わっていました(いつも同じような方が来られているようですね)。金管・打楽器奏者にとっては,ファンタジー・シリーズは出番が多いので,奏者の方から見ても結構楽しみなのではないかなと思います。

第1部の最後には,コープランドの「劇場のための音楽」から2曲が演奏されました。この曲も楽しめる曲でした。トランペットは3人いましたが,それ以外の管楽器は1人ずつで,OEKにはよく合う曲だと思いました。冒頭のファンファーレは,いかにもコープランドという感じでした。2曲目の「舞曲」では,クラリネットのソロ(普通のクラリネットより小さい楽器でした)が登場するのですが,非常に魅力的な音の動きを持った曲で,とても印象に残りました。エキストラの郡尚恵さんという方の演奏もとても素晴らしいものでした。ただし...この日のお客さんにはあまり受けていなかったような感じでした。やはり,ダークダックスの抒情的な世界とは,かなり落差がありました。ウェストサイドの方は序曲的な華やかさがあったので良かったのですが,コープランドの方は,普通の定期公演あたりで演奏した方が相応しかったような気がしました。

第2部は,得意のロシア民謡のステージでした。テノールのマンガさんが参加していない分,高音部が弱くなり,どうしても地味な雰囲気になってしまうのですが,長年歌い込んできた曲ばかりということもあり,自然に懐かしさがこみ上げてくるような味のある演奏になっていました。聞き応えという点では,この第2部にクライマックスがあったと思います。

ダークダックスは,ロシア民謡を歌い続けているだけに,ヴィヴラートが「ワ〜」とかかるだけで,ロシアという気分にさせてくれます。私の亡き父は,ダークダックスの歌うロシア民謡をとてもよく聞いていたのですが,それが私の記憶に残っていたのかもしれません。「ダークダックス=ロシア民謡」という等式が,この日の歌声を聞いて呼び起こされました。

「トロイカ」では,高音と低音の使い分けがとても面白く,これも非常にロシア的な雰囲気が出ていました。「草原」という曲は,初めて聞く曲でしたが,とてもドラマティックな内容でした。「つる」という曲は,ソ連がアフガニスタンと戦争をしていた時の反戦の歌です。日本の歌謡曲のような感じの曲でしたが,今現在のアフガンのことを考えると,非常に意味のある歌だったかもしれません(よく覚えていないので,もう一度聞いてみたいものです)。このステージの最後は,おなじみのロシア民謡のメドレーでした。個人的には,「カチューシャ」に思い出があるのですが,やはり,何といっても「すずらん」が最高です。軽やかな曲ですが,こういうのを聞くと,やはり父親を思い出し,懐かしくなります。

続いて,カバレフスキーの組曲「道化師」がオーケストラだけで演奏されました。打楽器の活躍する楽しい曲が多いですが,やはり,繋ぎの曲としては,ちょっと長かったかもしれません。短い曲がたくさん続くので,実際の時間以上に長く感じました。チャイコフスキーのアンダンテ・カンタービレあたりを静かに演奏した方が,第3部にうまく繋がるような気がしました。

というわけで,最後のステージですが,「知っている曲,歌える曲ばかり」,ということで,半分「聴衆参加」のステージでした。まず,ダークダックスの「銀色の道」を生で聞けた,というだけで満足しました。「すずらん」同様,懐かしくなります。ギターのみの前奏の雰囲気が最高だし,ゾウさんの低音の「ボン・ボボボ...」も聞けたし言うことはありません。「夕陽」というのは,ダークダックスが,なかにし礼さんと小林亜星さんに委嘱して作られた曲です。シルバー世代の夫婦のための応援歌のような曲です。私は,まだそういう世代ではありませんが,演奏会後にCDコーナーに沢山お客さんがいたところを見ると,実感を持って聞き入っていた人がとても多かったようでした。いちばん最後は,童謡唱歌メドレーでした。これは「よければみなさんご一緒に...」のほのぼのとした世界でした。

私自身,ダークダックスのステージを見るのは初めてのことでしたが,軽いユーモアを交えながらも基本は紳士的でマジメというのが素晴らしいところです(「ロシア人は和食,それも寿司が大好きです。トロ・イカ...」というシャレをいくつか言ってました。他にも何か言ってましたが忘れてしまいました。)。こういう姿勢は,若い頃からずっと一貫しているのではないかと思います。 ダークダックスは,本来4人組なのですが,「マンガさん」だけは,現在,病気で参加されていません。その点が少々寂しかったのですが,それでも他の3人は,全然老けた感じもなく,ステージ上でのふるまいやトークにも余裕があり,気持ち良く演奏会を楽しむことができました。最近の芸能界は,若者をターゲットとした歌手ばかりですが,そういった歌手は,一時的に派手な活躍をしてもすぐに消えていく人がほとんどです。ダークダックスの息の長い活動は,中年以上の多くの人々に,生きていく元気を与えてくれるような大きな力を持っていると思います。 (2001/12/13)
オーケストラ・アンサンブル金沢第111回定期公演F