ヘンデル/メサイア公演
01/12/16 石川県立音楽堂コンサートホール

ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(11,18,19,30,34-38,41,43,51曲は省略)
(アンコール)
荒野のはてに(?)
清しこの夜
●演奏
ゲアノート・シュマルフス/Oens金沢,北陸聖歌Cho(合唱指揮:朝倉喜裕)
中村智子(S),鳥木弥生(Ms),頃安利秀(T),加賀清孝(Br),大野由加(Org)
サイモン・ブレンディス(コンサートマスター)


Review by管理人hs

金沢では,毎年12月に北陸聖歌合唱団がヘンデルのメサイアを演奏しています。パンフレットによると1951年から演奏し続けているそうで,半世紀の歴史を持っていることになります(余談になりますが,先日のダークダックスも結成50年,その前の週の北陸電力も50周年ということで,今月のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の公演は,50年尽くしです)。1999年末からは,OEKと共演をするようになっているのですが,私自身はこの合唱団によるメサイアを聴くのは今回が初めてです。メサイア全曲を生で聴くのも初めてということで,期待して聴きに行きました。さすがに2時間以上かかる曲ということで(特に前半は長かった)疲れましたが,その分,とても充実感がありました。

今回の公演は,2部構成になっていました。メサイアは本来3部構成なので,その第2部の真中で休憩を入れる形になっていました。「33曲:城門よ,頭を上げよ」(「もろびとこぞりて」と出だしが似た曲)で前半が終わったのですが,こういう切り方はあまりないのか,拍手がなかなか出てこなくて,指揮者もとまどっていたようでした。私はプログラムを見ながら聴いていたので,「ここで前半が終わり」というのはわかったのですが,何も見ずに聴いていた人は,わからなかったかもしれません。また,第2部を中心に12曲カットされていました。

指揮者は,OEKとたびたび共演しているゲアノート・シュマルフスさんでした。この方は,オーボエ奏者としても有名で,プログラムによると1999年にOEKのメサイアを指揮したヴィンシャーマンさんの弟子にあたる人のようです(オーボエの方の弟子ですが)。かなり大柄の方で,腰を曲げて小さくなったり,大きくなったりとかなり上下動の大きい指揮でした。曲全体としては,がっちりとまとまって聞こえましたが,合唱の入る曲については,この指揮にぴったりと反応しており,とても表情が豊かでした。

「12曲:ひとりのみどりごがわたくしたちのために生まれた」では,「ワンダフル」という言葉がとても晴れやかに響いていて,印象に残りました(私には,この単語しか聞き取れないのですが...)。「17曲:いと高きところには栄光」では,トランペットの響きも加わりとても歯切れの良い演奏でした。シュマルフスさんの指揮は歌詞どおり「高くなったり低くなったり」という感じでした。「24曲:彼が担ったのはわたしたちの病」の冒頭は,日本人には「勝利,勝利」と聞こえてしまって困る曲ですが(私だけでしょうか?本当はSurely, surely),とても深い情感が出ていたと思います。「26曲:私たちは羊の群れ,道を誤り」は,反対にとても軽やかでした。このように,合唱の入る曲ではいずれも,生き生きとした演奏になっていました。シュマルフスさんは,激しい部分では,指揮台を踏み鳴らすところもあり,ちょっとやり過ぎかな,という気もしましたが,その動きが出てくる音にちゃんと反映していたのはさすがだと思いました。

有名なハレルヤコーラスは,最初抑え目の雰囲気で始まり,徐々に盛り上がっていくような感じでした。生で聴くのは初めてでしたが,やっぱりよく出来た曲だと思いました。いちばん最後の「アーメン」も,とてもスケールの大きな演奏で,全体を見事に締めてくれました。

北陸聖歌合唱団は,女声が男声の2倍以上いたような感じで,見た目のバランスは悪かったのですが,聴いている分には,とても良いバランスに思えました。「メサイアに魅せられた人達がつどい,メサイアのみを演奏し続けている合唱団」とパンフレットには,書いてありましたが,その精神が存分に表われた演奏だったと思います。

OEKの方は,かなりエキストラが入っていました。特にヴァイオリンは,いつになくエキストラが多かったように見えました。それでも,いつも通り,すっきりとした気持ちの良い響きを出していました。速いパッセージでもきちんと揃っているので,天使などが出てくる雰囲気にはぴったりでした。エキストラでは,おなじみジェフリー・ペインさんのトランペットの余裕のある音が見事でした。「48曲:ラッパが鳴ると...」では,ジャズ・バンドのソロのように立ち上がって演奏していました。アーメンの直前のソプラノのアリアでの,サイモン・ブレンディスさんのヴァイオリンソロも素晴らしかったです。通奏低音のチェンバロはなく,オルガンのみだったようですが,これは版のせいなのかもしれません。

独唱者の方は,男声2人が,もう一つという感じでした。テノールは,第1部最初の出番からして,何となくフニャフニャした感じに聞えました。バリトンも,強く歌う箇所でのヴィブラートの多さが気になりました。前述の48曲などもラッパの方の美しさに負けているような感じでした。女声の方は,なかなか良かったと思いました。特にソプラノの中村智子さんは素晴らしいと思いました。第3部最初のアリアもアーメンの直前のアリアもピンとした感じがあり,緊張感の漂う美しさがありました。鳥木弥生さんのメゾソプラノも,良かったのですが,楽しみにしていた「23番:彼は軽蔑され」(ヘンデルが泣きながら書いたというエピソードの残る長い曲)は,もう一つ印象に残りませんでした。

というわけで,初めてメサイアの全曲を生で聴いてみたのですが,十分,その素晴らしさを堪能させてくれる演奏だったと思います。私は,メサイアにそれほど親しんでいないのですが,歌詞の内容(つまり,聖書)をもっと把握して聴くと,恐らく宗教的な感動も得られるのではないかな,と思いました。来年以降も継続して聴いてみたいと思っています。

(余談)今回は,自由席だったので,「こういう時でないと座れない」1階真中で聴いてみました。そうしたところ,隣には,偶然,先日ページをリンクさせていただいた楼蘭さんがいらっしゃいました。もちろんお会いするのは初めてのことです。私はわからなかったのですが,私がホームページからプリントアウトしたメサイアの曲の解説のようなものを読んでいると(普通そういう人はいないのでしょう),「もしかしたら...」と声を掛けてくれました。

ハレルヤコーラスでは,みんな本当に立ち上がるのかな?と様子を見ていたのですが,隣の楼蘭さんがためらいなく立ち上がったので,私の方も立ち上がってみました。初めての人には少々勇気が入りますが,立ち上がった方が音がよく聞こえるような気もしました。パラパラと立っている人がいましたが,OEKとのメサイアがもっと定着すれば,金沢でも立ち上がるのが普通になるかもしれませんね。 (2001/12/16)
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